♪すてきなボンボニエールおばさんの贈り物♪ - 2ー
てきなボンボニエールおばさんの贈り物♪-2-
作: 大丈生夫 (ダイジョウイクオ)
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Scene.05 真っ赤なカブリオーレ
シルヴィーは喫茶店の窓越しでボンボニエールおばさんを眺めている。
秋晴れの店先で真っ赤なカブリオーレが輝いている。
その傍らで老紳士と楽しそうにお話している。
あの二人、とっても仲が良いみたい。
そういえば―――と、若き日のおばちゃんと修理工場の若社長を思い出す。
あれは夢だったんじゃないの?
しばらくして二人が店に入ってくる。
「おばちゃん、私、ちょっと聞きたいことがあるの。」
ボンボニエールおばさんがキョトンとする。
「あら、シルヴィー、なあに?」
「あの写真のことだけど。」
シルヴィーはそういうと、カウンターの奥に掛かっているセピア色の写真を指差す。
おばさんはニッコリ笑うと話し始める。
「ああ、これね。私が若かったときのお友達。実はね、こちらの背高の方がこちらよ!」
おばさんはそういうと、先ほどの老紳士にほほえむ。
「おお、懐かしいなぁ。あの頃は良かったねぇ・・・」
老紳士が写真を眺めて記憶を辿るように懐かしむ。
「こっちがね、若き日の僕、そしてこっちの男の子はフロリアン。」
「え、フロリアン?」
シルヴィーがその名前に驚く。
その名前は、シルヴィーが夢のなかで出会った子の名前。
もしかして正夢?
ボンボニエールおばさんが話し始める。
「そうそう、この子。働き者だったわね!私の車のメンテナンスも嫌な顔一つしないで引き受けてくれていた。それにしても・・・」
シルヴィーが黙って聞き入る。
おばさんの話は続く・・・
「この子、フロリアンって言ってたわね。近所の子で身寄りがなくって、可哀想に思ったこの人が引き取って世話したの。仕事を与えるとすぐに飲み込んで、利口な子だったわ。」
老紳士も呟き始める。
「それにしてもなぁ、その後どこかへ旅に出て行ったきり帰ってこないのだよ。方々さがしてみたのだが、見つからなかった。」
「不思議よね。私が飴ちゃんをあげたのが最後だったのよね・・・」
そう言えば、飴ちゃん。
それはシルヴィーも心当たりがある。
だって、飴ちゃんを口に入れるといつも不思議なことが起きるんだもの―――
3人はぼんやりと写真を眺めている。
「ごめん下さいっ!郵便です。」
郵便おじさんが店に入ってくると、おばさんに封筒を渡す。
おばさんは受け取るとあて先を確認する。すると・・・
「え、こんなことってあるのかしら・・・」
そういうとおばさんは慌てたように封筒を開ける。
それをじっと見守る老紳士とシルヴィー。
中から便箋を取り出すとおばさんは老眼鏡をかける。
そして暫く読みふける。
「不思議なことってあるものね。」
読み終えると老眼鏡を外す。
そして、何故か涙ぐんでいる。
「どうしたの、おばちゃん?」
「うん、これね、フロリアンから。」
「え、フロリアン?」
老紳士とシルヴィーが顔を見合わせる。
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Scene.06 白馬の王子様
そういうと、おばちゃんは老紳士に便箋を渡す。
老紳士が声を出して読み始める。
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愛しのボンボニエールおばさま
お久しぶりです、お元気ですか?
僕はあの日、仕事の帰り道で道に迷ってしまいました。多分・・・
それが不思議なことに、間違えるはずがないのに。
何日も家を探していたのですが見当たりません。
来た道を戻ったのですが、まるで景色が違っていたのです。
そしてある日、お腹をすかしている僕の前に郵便のおじさんが現れました。
それからおばさんに手紙を書くように言いました。
言われるままにこの手紙を書いています。
手紙の裏にこの辺りの地図を描きます。
おばちゃん、お願いです。
早く迎えに来てください。
~フロリアンより~
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老紳士は手紙の裏の地図を眺める。
地図にはこの辺りでは見たことの無い地名が書かれている。
そして読み終えると途方に暮れる―――
「これは一体、どういうことなんだ。フロリアン・・・」
すると、ボンボニエールおばさんはシルヴィーに向かって話し始める。
「あのね、シルヴィー。私達はもう歳をとりすぎてしまってね。そこでお願いがあるのよ。」
そういうと、何やら前掛けのポケットを探り始める。
そしてシルヴィーに手渡した。
「これはね、今日の飴ちゃん。さぁ、お食べ。そしてフロリアンを迎えに行って!」
どうしたことでしょう、飴を食べてフロリアンを迎えに?
それって、どういう意味なのかしら?
もしかしておばちゃんは魔法使いなの?
シルヴィーは不安になる。
すると傍らの老紳士が不思議なことを呟き始める。
「ボンボニエールや、ワシなら大丈夫じゃ。まだまだ。年寄り扱いするなよって!ワシも一緒に行こう。どれどれワシにも一つ飴ちゃんをくれないかい?」
「それがね、ダメなのよ。この「飴ちゃん効果」は、子供にしか見えない世界なのよ!」
おばさんも不思議なことを呟く。
「ああ、そうじゃったか・・・それなら使用が無いな。シルヴィーじゃったかな?ワシからもお願いするが良いかね?」
不思議なことを言う二人にシルヴィーは困り果ててしまった。
飴ちゃんを舐めるとフロリアンに会えるってことなの?
そして何やら老紳士は、お財布の中に大事そうにしまっていた紙切れを2枚取り出す。
それはシルヴィーにも心当たりのあるものだった・・・
「ハイッ、これあげる。」
老紳士は少し色あせたチケットを2枚シルヴィーに手渡す。
そう、シルヴィーが描いたのと同じ絵が描いてあるあのチケットだ。
あの遊園地のメリゴーラウンド―――
「これはね、お守りだよ。実はね、これはボンボニエールと一緒に行く筈だったものなんだが。そう、フロリアンが居なくなってしまってからずっと渡す機会がなくなってしまったがね。そして遊園地は無くなってしまった・・・」
老紳士は静かにボンボニエールおばさんの顔を見つめてウィンクする。
そういえば夢の中でもこんなシーンがあったような・・・
シルヴィーは二人に押し切られたのが重荷となっていた。
わからない・・・私、どうしたらいいの?
私まだチッチャいし、何だか心細いわ。
でもフロリアンが迎えに来てくれって言ってるし・・・
気付いたらシルヴィーは店を出て走り出していたのだった。
あても無くさまようように・・・
唯秋晴れの空が遠くまで続いている。
サクサクと小道の枯葉の絨毯が軽快な音を立てる。
いつもの教会を通って暫く走ると、シルヴィーの通うジョセフ小学校が現れる。
息を切らしてハアハアと深呼吸する。
とっさに店を出たシルヴィーを心配した二人が真っ赤な車で現れる。
「どうしたのよ、いきなり出て行っちゃって?」
「だってぇ・・・」
「それもそうね、無理も無いわね。でも心配しないでシルヴィー。私達が見守っているから。ほら、言うじゃない、「可愛い子には旅をさせろ」ってね!」
勝手なことを言うおばさんにあきれるシルヴィー。
遠くで教会の鐘の音が鳴る。
「さぁ、時間よ。じゃシルヴィー言ってらっしゃい!」
そういうと真っ赤な車の二人はニッコリして走り去った。
シルヴィーは困り果ててしまい、モジモジしている。
たまらず飴ちゃんを頬張る。すると・・・
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どうしたことでしょう、今まで秋晴れだったお空が突然雲で埋まると真っ暗になっていった。そしてポツリポツリと雨のしずくが落ちてきた。
しずくは大粒となり、そして大きな稲光と同時に「ゴロンッ!」と轟音が頭上で響く。
次の瞬間、シルヴィーは気を失ってしまった・・・
次の瞬間、白馬にまたがっていることに気付く。
これって、あの日のメリゴーラウンド?
そうして目の前には見覚えのある背中・・・もしかして?
「シルヴィー、もういいだろう、帰ろうよ・・・」
そう言うや、目の前の少年が振り向く。
間違いない、それはフロリアン。
すると、その白馬に乗った王子のようなフロリアンは白馬からトンッと軽快に降りる。
「ほら、雨が降り出しそうだよ・・・さぁ、早くっ!」
どうしたことでしょう、それはどこかで見たような場面・・・もしかしてあの時と同じ。
そして、この後ボンボニエールおばさんの喫茶店に行くのね。
シルヴィーはフロリアンにギュッと手を握られて引っ張られるように遊園地を後にする。
そしていつもの、そう、あの時と同じもりの小道をぬけると教会が現れる。
雨足はひどくなり始める。間もなくボンボニエールさんの・・・
あれっ、ここはどこ?
シルヴィーは気がつくと、そこにはある筈のあのボンボニエールおばさんの喫茶店が無いことに気付く。
あれっ、もうちょっといったところだっけ?
尚もフロリアンは何処へ向かうのか握った手を引っ張り続ける。
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Scene.07 お帰りシルヴィー
「フロリアン、ボンボニエールさんは?」
シルヴィーが聞いてみる。
「えっ、何のこと?」
その言葉にシルヴィーは不安になる。
「この辺りに、あのおばちゃんの喫茶店。」
「ええと、喫茶店なんて知らないけど・・・」
「ウソよ、遊園地があって教会があって、そして喫茶店。」
「シルヴィー。あまりにメリゴーラウンドに乗りすぎたせいでおかしくなっちゃった?」
「えっ、そんなことないもん!」
不思議に思いながらもシルヴィーはそのまま引っ張られて行く・・・
やがて遠くにポツンと一軒の家が見えてくる。ああ・・・そこには前に来たときと同じ、フロリアンの家。何故か外灯がついているのが気になる。
「さぁ、着いたよ、おかえり。」
不思議に思いながらもフロリアンにそのまま導かれて行く・・・
「あ~ら、遅かったわね。あらあら、そんなにビショ濡れになっちゃって!」
あろうことか、そこにはシルヴィーの母親が居るのに驚く。
「ゴメン、シルヴィーがあんまりメリゴーラウンドが気に入っちゃったんで。」
「あら、そうなの。さ、風邪引かないようにバスタオルで身体拭いて。」
「はぁい。」
フロリアンは家の中に入るや手渡されたタオルで身体を拭き始める。
シルヴィーも何故か居るお母さんに手渡されたタオルで身体を拭く。
ああ、一体何が起こっているのかしら・・・
と、奥から一人の老婆がこちらにやってくるのに気付く。
「おやおや、お帰り。あらま、ビショビショね、さぁ暖炉の前においで。」
何と、その老婆は私が良く会う人にそっくり!
そう、どう観てもボンボニエールおばちゃん。
更に玄関から、またも一人の老人が入ってくるのに気付く。
そして・・・それはあの老紳士だった。
え、これって・・・シルヴィーは事情を飲み込めないまま立ち尽くす。
身体を拭き終わったフロリアンに、またもギュッと手を掴まれたかと思うと、リビングにある暖炉の前のソファーに座らされた。
うわぁ、あったかい・・・だけどこれって・・・
何もかもが不思議な夢のように思うのは私だけなの?
シルヴィーは促されるままにそこに座っていた。
「さ、お食べ。」
そしてリビングに用意されたアツアツのポトフ。そう、あの時と一緒。
「フロリアンって、どうしてここに居るの?」
「何言ってるんだ、シルヴィー。あ、そうか、あんまりシルヴィーが「メリゴーラウンド」気に入っちゃって降りないから、どうやらめまいでもしちゃったんだね!ハハッ。」
「あ、そうじゃなくって・・・私、フロリアンのこと・・・」
「何言ってんだよ、しっかりしろよ。俺は昔々のその昔からずっと、お前のお兄ちゃんなんだぞ!どうしちゃったんだよ、もう。」
「え、お兄ちゃん?」
ポトフを食べる手が止まるシルヴィー。お母さんが心配そうに見つめている。
「あらやだ、もしかして、夕べ読んであげた童話の世界に入っちゃったままなの、嫌ねぇ。」
不思議なことを言うお母さん。
そこへ心配した老婆、いや、どう見てもボンボニエールおばちゃんがやってくる。
「おやおや、大分疲れたようね。」
そしてその傍らには、あの老紳士が。
「そうかい、楽しかったかい?」
「うん、楽しかった・・・でも。」
「でも、どうしたの?」
「不思議なの。フロリアンが私のお兄ちゃんで、迎えに行ったら喫茶店は無いし、どうしてもわからないの。そしてね、おばちゃんが私のおばあちゃんでお母さんが若い頃のボンボニエールさんみたいでお爺ちゃんが老紳士なの・・・え?」
「いいのよ、お帰りなさい、シルヴィー。」
その様子を見ていたお母さんが気を揉んでおばあさんに問いかける。
「この子、どうしちゃったのかしら?」
「あ~ら。あなた忘れた?あなただってこの子の時分に同じような事言ってたわよ。」
「あらやだ、私ったら・・・そんなことあったかしら?」
「ええ。子の時期にはよくあることよ。どの子もまるで空想の世界にでも入ってしまったみたいに・・・そう、子供にしか見えない世界。」
傍らに居たお爺さんはその会話を聞いて呟き始める。
「いえいえ、そうとも限らんよ!なぁ、シルヴィー。そうだな、おい、着いて来い!」
お爺さんはシルヴィーにそういうと、何やらウインクをして手招きする。
あれぇ、お爺さん?私を何処へ連れていくというのでしょう?
言われるがままにシルヴィーはおじいさんの後を着いて行く。
ご飯を食べ終わったお兄ちゃんのフロリアンも一緒に・・・
玄関を出ると隣のガレージへと向かう。
そしてその中へ入ると、何やら奥にある、ほこりをかぶったシートをはがし始める。
じょじょにその中身が現れてくる・・・フロリアンは持ってきたランプで照らす。
そこにあったのは・・・
「あ・・・」
そう、そこにはあの日と同じ、真っ赤なカブリオーレが眠っているではないか!
「どうれ、久々に引っ張り出すか!おい、フロリアン、手伝え。」
老紳士がそう言うと、フロリアンは何食わぬ顔で車体のシートをめくり始める。
そしてカブリオーレの車体があらわになった。
「フロリアン、キーをくれ。」
そういうとお兄ちゃんのフロリアンはすぐさまキーを捜しだし、お爺さんに投げつける。
キャッチしたお爺さんはイグニションキーをクランキングする。
「キュルキュルッ、ブゥオンッ!」
いともたやすくカブリオーレが始動。
そそくさとフロリアンが乗り込む。
「さぁ、シルヴィーも乗りなさい!」
お爺さんは星空の中、その真っ赤なカブリオーレをゆっくりと発車させて行く。
3人は秋の寒空の中、ライトの光を頼りに小道の枯葉を舞い上げながら走り出す。
「ようこそ、夢の世界へ!いざ発進!」
あの頃の若社長のようにウインクすると、お爺さんがステアリングを教会のある進路へと向けて行く。シルヴィーは黙ってその様子を伺っている。
車は勢い良く枯葉を巻き上げながら疾駆する。
教会を通り越し、森を抜けると、さっきまで遊んでいた遊園地に到着する。
そしてお爺さんはシルヴィーに話す。
「例のチケット、持ってるかい?」
ああそういえば、ここへ到着する前にも老紳士から受け取ったチケット・・・
しかし何故?
お爺さんに2枚の色あせたチケットを手渡す。
お爺さんはブレザーに忍ばせていた切符切りでカットしてシルヴィーに渡す。
「さぁ、行っといで!」
そういうと、お兄ちゃんはシルヴィーの手を又も引っ張って行く。
そして大好きなメリゴーラウンドへと駆け出してゆく・・・
「お兄ちゃん、どうして・・・」
「ああ、わかっているよ。」
「え、何が?」
「ここは、シルヴィーが描いた夢の世界だってこと!」
そういうと颯爽として白馬に跨るフロリアン。
今度はその白馬が引くかぼちゃの馬車に乗り込むシルヴィー。
遠くからにこやかに見つめるお爺ちゃん。
まるでお婆ちゃんとの思い出を辿っているような遠い眼差し―――
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シルヴィーが気がつくと喫茶店の席に座っていた。
ボンボニエールおばちゃんは出来たてのマカロンをテーブルに置く。
そう、あの時と同じ。
すると、喫茶店の扉が開く。
しかし、誰の姿も無い。
秋風のせいね、きっと。
目の前にはモノクロの写真。
しかしそこに居るのは・・・いつかの若社長と、なんとボンボニエールお姉さん!
何故かフロリアンの姿は映っていない・・・
そして・・・店の中には誰も居ない。
ふと窓の外に眼をやる。
ボンボニエールおばちゃんと老紳士は外に居る。
そして喫茶店の前にあのカブリオーレ。
おばちゃんの隣の老紳士がこちらを見やる。
と、シルヴィに向かってウィンクをしたような気がする・・・
わかってるわ、すべておばちゃんからの秋風の贈り物なのね。
~☆~☆~☆~☆~☆~☆~ Fin ~☆~☆~☆~☆~☆~☆~