7 ナンデコウナッタ?
お兄様が卒業を目前にその話しが舞い込んで来ました。学校でお兄様に目を付けていたクライド様のお父様から、後見人になるから王都に店を構えて欲しい。と言われたそうです。お兄様から聞いた話しでは、ある貴族様が私を狙っているらしく、囲い込みたいのだそうです。どうやらザキュのお祭りに出店してアクセサリー等を販売した時に対応したお嬢様が、『あの才能を平民に独占されるなんて勿体ない。』と親におねだりをなさって、私を密かに探って調べたそうで、そのお貴族様がギルマスであるクライド様のお父様に相談された為、『商業ギルドで先に目を付けている子達だから、今回は遠慮して欲しい。』と、個人での囲い込みを防いで下さったそうです。そこで、わかり易くギルドで囲う⁉︎為、王都に店を持たせよう。となったそうです。知らない処でお貴族様に軟禁されかけていた。と聞かされた時には凄く怖かったけれど、王都に支店を持つザキュの商店って格好良いよね。と思ってしまった私です。
丸投げしてしまうお兄様には申し訳ないのですが、私は裏方のみで店に立つ事はしなくて良いそうですし(私が店に居る時にお嬢様が来店した時のみ、個室で対応するのだけは了承しました。) 、まだ学生なので両親の判断に任せる事になりました。
両親が王都の商業ギルドに呼ばれてギルマスと話し合った結果、何故か私が王都の学校に編入する事になり、春からお兄様と一緒に王都の支店の2階に住む事になりました。家事も完璧にこなす自信は有りますけど、どうしてこうなった? 囲い込み⁉︎は諦めたものの、私の後見人に名乗りを上げたお貴族様…シューマッハ様からメイドが送り込まれるのを必死に拒み、『問題が起きた時には迅速にご報告致します。』と確約して、お兄様と2人の生活が始まりました。
王都の学校で習う事は上級学校に進学する事がメインの内容に変わって、ザキュの学校では習ってない事柄が多いのですが、前世の記憶があり、他の追随を許さない⁉︎読書量のお陰もあって、取り敢えず問題なく過ごせてはいるのですが、逆にこなせてしまったのが問題だったのか、先生から嫌がらせのように難問ばかり当てられるのには閉口しています。田舎から来た平民の小娘の事なんてほっといてくれたら、私は図書室に籠って読書三昧の毎日が過ごせてハッピーなのに!と内心、恨んでしまいましたよ。お貴族様からのイヤガラセ⁉︎の理由は多分、レイチェル様が異常に懐いて下さっているから。ランチへのお誘いとか、私を慕って探しに来るのが間違いなんだと思うのですよ。平民の田舎者は壁のシミになりたい。もう、遠い目をしてしまいます。
閑話休題。私の登録品は消耗品が多い為、我が家のギルドカードには少なくない金額が毎月入金されるのですが、王都のギルドで引き出すと目を付けられる。とザキュのギルマスに忠告されているので、王都対策として、納品に来る両親にザキュで下ろしてもらって受け取る事になりました。お兄様は支店長の肩書きが有るので、お兄様名義のカードなら王都でも大丈夫らしく、生活費はお兄様が出してくれますし、材料は店の経費⁉︎だから、私はお小遣い程度しか要らないので、それでも問題ないのです。クライド様のお父様が仰るにはギルマスの部屋で対応出来るから、王都のギルドでも大丈夫だって聞かされましたが、わざわざ大袈裟な事したく有りませんよね!私の後見を名乗りたがる方は、何処かズレている。と思うのは間違ってませんよね!
お店のお客様にはお貴族様もいらっしゃるので、従業員はシューマッハ様から紹介して頂いた年配の方、ジイドさんに接客をお願いしています。兄もその方を先生に対応を学んでいます。私はレイチェル様の専属⁉︎扱いで、多少の不出来は目を瞑って貰う約束ですが、ジイドさんに拠ると、ほぼ問題無いそうで、逆に不思議がられています。私の前世の常識が通用する世界である事に深く感謝しております。でも店頭に立つ予定は今のところ有りませんけど。
王都の店で扱う品物は、お兄様の担当する魔道具系と、お母さんを隠れ蓑にした、私の手芸品の2種系統がメインです。それとザキュから納品して貰ってる雑貨が少しと手芸材料。私の作品は半分がオーダーメイド扱いなので、壁に飾られた見本がお店の装飾品代わりにもなっていて、女性客が多いです。渋面のジイドさんとイケメンのお兄様が対応して喜ばれていますが、本人達の居心地は良くないそうで、ギルマスに相談して女性店員を雇う事になったのですが、クライド様のお姉様がいらっしゃる事になりました!『子供の手が離れて余裕が出来たのよ〜シャル君のご実家の作品のファンでもあるからね!』と仰る美人さんです。
材料を買ってくれる人を対象としたビーズアクセサリーの講習会は月に1回、お母さんと工房の人が出張して開催していますが、人数制限の完全予約制な為、かなりの人気です。講習会終了時に次回の予約を受けるのですが、基本的に未経験者優遇にしているので、続けて習いたい。という希望が高まり、お母さんが商業ギルドと手芸教室の開校を模索中です。編み物や刺繍などは教えている手芸店もあるそうですが、ビーズはザキュの特産で、まだ作り方が広まっていないので、王都のギルドで広めたいそうです。
そう言えば、教会で祈りを捧げると…と言う事が、前世の小説の中にありましたが、この世界にも有りました。洗礼を受けた後、入学して街中を自由に歩けるようになった時に教会に行ったのですが、普通に女神様とお話し出来て驚きました。転移転生した者に対する配慮だそうで、一般的では無いそうですけど。王都の教会にもご挨拶に⁉︎行きましたが、新作のアクセサリーをねだられてちょっと笑ってしまいました。インベントリのビーズも結構消費しましたが、スワロなどの高級品はまだあります。私が大人になったら…と思って自重はしていますし、品質的に貴族用なら使えそうに思えますが、出処を調べられて困る物は使えないんです。なので今の処、女神様に献上するアクセサリーに使っているだけです。スワロだけで作ったブローチのキラキラと綺麗な事。女神様にお似合いでした。眼福。まぁ、そのスワロがまだこの世界で作られて無いのでおねだりされているのですがね。
そう言えばコレクトしている大量の布地。女神様によって、キャラ生地はこの世界にあった柄に改変されているものの、ビニールコーティング系が悩み処です。キルトについてはやっと普及して違和感を感じなくなったので、一点物を作る時に安心して使い出しました。合成皮革については本革にグレードアップしてました!この世界に存在している生物の物なので問題無さそうに思えますが、希少生物の革という落とし穴が空いていました。この革でバッグを作ると、インベントリが付与出来るのですよ。なんせ革自体に、技巧神様から加護を受けていますからね。でもこのバッグを持っているのは家族のみで、当然隠してます。普通の布で大き目なバッグを縫い、付与の掛かったポーチをインして、如何にも大きなバッグに詰まってました。と出すわけです。私が作る物は小さい物が多いので、重宝しています。
さて、王都の学校に編入して初めての夏休みがきました。お兄様には申し訳ありませんが、両親や友人の待つザキュの街に私は帰るのです。お父さんが迎えに来てくれたので、レイチェル様に捕まる前にさっさと王都脱出します。
ザキュに帰って、久し振りにお母さんのお店を手伝っていると、サーシャが走って来ました。『帰って来た事を教えてくれないなんて酷い‼︎ リルルはもう戻らないのかと落ち込んで居たのよ!』と抱きついて来ました。『もう、サーシャこそ、手紙もくれないし、王都にも来てくれないし、私の事なんか忘れちゃったのかと思っていたわよ。』と抱きしめ返すと『だって、あんな素敵な便箋、コッチでは手に入らないもの。』と拗ねる。『あの便箋はニールさんに頼んで特注で作って貰ったから、一般には売っていないの。ニールさんの工房とお兄様の店で独占契約をギルドで結んでいるから、後10年は難しいかも。仕組みは簡単なんだけど、気付いた者の早い者勝ち。ってシューマッハ様が仰っていらしたわ。』と、自慢してしまいました。(笑)
前世で和紙の中に押し花や色紙、布なんかを挟んで漉いていたなぁ。と思い出し、ニールさんの工房から材料を買ってきて、王都の私の部屋で試しに作ったのをレイチェル様が見つけてしまい、騒ぎになったのですが、お兄様の機転でニールさんに丸投げしたのです。勿論、ザキュのギルドで登録して、貴族案件という事にしました。材料費があまり掛からないので、高額商品にするとボッタクリ商品になるので、付加価値を付ける為だけの独占登録なのです。期限は有っても技術を独占出来るニールさんには感謝されたようなので良かったですが、また、我が家のギルドカードに入金が増える事になりました。前世のアイデアは私じゃない誰かの考えという事が頭痛の種です。
サーシャに文化祭のアイデアをねだられて、ビーズを編み込んだレース編みを教えました。キラキラ光る髪飾りにしたり、服に飾り付けてアクセントにしたり、用途はいろいろあります。お母さんやスターシャ伯母さんも居る処で教えたので、ギルド登録はそれぞれでしてね。と、共用登録をお薦めしました。お母さんには後で膠などで固めて小物入れを作るアイデアをこっそり教える予定です。でも、お花や木の実などを立体的に編むのは、王都の商業ギルドに登録の予定です。私とお兄様は王都の商人でもあるので、彼方でも登録しないとギルマスに呼び出されて煩いのですよ。あ、簪用のピンをドロテスさんに頼まなきゃ!レース編みでも、ビーズ細工でも、どちらにしてもピンが無ければ簪になりませんからね。ツルツルに磨いた基本と、ピン自体に飾り細工のされた物。応用品のアイデア込みで依頼に行かねば!