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フリーダム  作者: 清香
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30 メリッサ様は考える

 数年前、主人が王都の商業ギルドのギルマスに任命されたのと、次男の卒業を機に、領主代行の長男夫婦の後見と、次男への領主補佐の教育の為に王都を離れ領地に戻ったわ。学生の三男を主人に預けて領地の発展に働いて来た訳だけど、次男が学生時代にお付き合いのあった子爵家の令嬢と、両家の話し合いの上で婚約を結ぶ事になり、主人の住む王都の屋敷で婚約式をした時に、初めてその子の話しを聞いたのよ。


 クライドが三男で、いくら渡す爵位の空きが無いからと言っても、学も無い平民の娘を選ばなくても良いじゃない!と、内心穏やかで無く話しを聞いたわ。主人は伯爵家の嫡男という事で嫁いだけど、私は侯爵家の出なのよ。実家に何て報告したら良いのか、頭を抱えたわ!だから、当時は聞かなかった事にして、実家に良い縁が無いか、こっそりと探ってもらって、学校でご令嬢に頑張ってもらった訳だけど…クライドったら、平民の娘に夢中で、悉く令嬢達の誘いを流したのよ!


 正式に頼まなくて良かったわ。実家の顔を潰す処だった。主人もその娘に執心の様だし、カチンと来た私は王都行きを控えて領地に籠ったのよ。主人が謝って来たら許そう。と思いながら領地で子供達と仕事をしていたら、見た事もない素敵なアクセサリーを度々贈って来るじゃ無い⁉︎『ギルドの仕事が忙しくて、領地の事を任せ切りにして申し訳ない。責めてものお詫びに、メリッサの事を話してオーダーした物を贈らせてもらうよ。』と書かれたカードが添えられていて私の心は慰められたわ。


 クライドの態度に多少の遺恨は残るものの、仕方ない。と苦笑いしながら久し振りに王都に出向いたら、あの娘の兄の店が出来ていて、アリエスが一緒に働いていたの!『なんでこんな事に?』とアリエスに話しを聞いて驚いたわ!相手は男爵とは言え、他の貴族と後見の取り合いをした上で、実質は囲い込んでいるなんて。ワイマールの事を疑いそうになったわ。


 しかも、クライドが夢中で口説いているのに、余り相手にされていないなんて!あの娘は、自分が平民であるのを正確に理解した上で、更にクライドとの距離を置きたがっているなんて。彼女が私の想像と真逆の考えで動いていた事が分かって、私は興味を持ってしまったのよ。


 主人も子供達もあの娘、ううん、リルルちゃんに近過ぎてあまりの異質さに気付かないのよ。田舎で5年間平民の教育しか受けていない子が、たった1年、王都の学校で教育を受けただけで、魔術学校に合格出来ると普通に思えるの?しかも当時の事を調べたら、その一年間も級友や先生から虐めを受けていて、授業中も先生の無理難題に悉く対応していたなんて。勉強はほぼ独学だったそうよ⁉︎それなのに幼少期から家庭教師が付いて学んで来た貴族子弟より高度の知識を持っているなんて有り得ないでしょう!?


 周囲には『図書室等で読んだ書物から知識を得ている。』と言い訳して通していたようですが、貴族の子だったとしても有り得ない程の知識量と、其れを元にしたと言い張る応用力や発想力は、普通では有りません。


 魔術学校の入学試験だって、百歩譲って、座学の部分は図書室の本から知識を得ていたとしても、実技は?キチンと教わる機会も無かったのに魔術が発動していた。ってどう言う事?しかも、想像される魔力量は高位貴族をも凌駕しているって‼︎⁉︎ 平民が首席合格なんて初めてだったそうです。


 魔術学校での話しはもっと凄かったわ。最初に聞いたのはポーション作成。回復の効果の為に生き延びる目的で我慢して飲む物。味に付いては諦めるしか無い物。と思っていたポーションが、薬草の鮮度が良ければ味が良いなんて!私は幸い飲む機会が無かったけれど、護衛の者達の苦痛の顔には心苦しく思う処が有ったから、味の良いポーションの発見には喜んだの。


 王宮の魔術院で成果を発表した王都の魔術学校の先生は素晴らしい!と思っていたら、名簿に記されていないリルルちゃんのお手柄だったなんて!此れを知って憤った私は、魔術学校の先生を訴えようかと主人に話した処、『アレはリルルを守る為に先生が泥を被ったのだよ。私もリチャード様から聞いた時には驚いたがね。リルルの話しを聞いて、確かに良い案だと思ったよ。それに、ポッとでの余所の高位貴族に、今更リルルを取られたく無いからね。私やクライドも同意見だよ。』と笑ってます。


 他の貴族に取られたくないのは同意しますが、『そうじゃないでしょう‼︎』と叫びたかったわ。名誉は?報酬は?リルルちゃんが得る筈だった功績の大きさを、何故笑って流せるのかどうしても理解出来なかったわ。リルルちゃんの欲の無さには呆れるだけでしたが、リルルちゃんに何故自分の功績を手放すかを聞いた答えは『平民が貴族に楯突く意味が有りますか?』だったわ。ホント、平民と貴族の意味を問い正したくなったわ。


 魔術学校を卒業する迄の3年間で、リルルちゃんはこれ以外にも功績を重ねましたが、毎回、共に研究した先生や級友の影に隠れ切って表彰を遣り過ごし、優秀過ぎる事を王宮の貴族などにバレずに済んでました。まぁ、魔術学校の先生方などの周囲の身近な人にはバレてましたけど、此方は皆、リルルちゃんの味方ですから問題無いでしょう。


 学校関係者で最大のライバルは公爵子息でしたが、流石に公爵と言う身分が邪魔したのか、好意を示すだけで諦めてくれたようです。何処ぞの貴族の養子にして貴族籍をとる遣り方迄は思い至らなかったのでしょう。彼は級友の妹を選んだそうです。クライドの粘り勝ちでしたね。


 実家から借りた影からの報告に、割りと頻繁に教会に行く。という内容が有ったので、其方も探ってみて、ある事に想像が行き着きました。…リルルちゃんは『女神様の愛し子』かも知れない…


 魔術学校の1年の時の話しを聞き出した影の報告に、長期休暇明けにリルルちゃんを取り巻く環境に変化が有り、学校内で過ごし易くなった。と有りました。リルルちゃんの能力に目を付けた王宮魔術院の魔術師が学校に来なくなったそうです。学校長も絡んで来なくなっていたし、周囲を取り囲んでリルルちゃんに迷惑をかけていた学生達も、何故か寄り付かなくなったそうです。調査結果としては、リルルちゃんの能力などが記憶から消されて関心が無くなったみたいな、記憶操作されたらしい状況だと推察がありました。いくら魔力量が多くとも、リルルちゃんが何かしたとは思えません。


 此処まで調べて、尚且つ、私自身もリルルちゃんを観察した結果、ワイマールやクライドの目の付け所が正しい。と結論が出ました。そうなれば、一気に絡め取らねば!と、私も後押しする事にしました。だって、贈られたアクセサリーは見た目綺麗なだけで無く、結界を含む防御の付与がされた魔道具になっていて、其れを作ったのがリルルちゃんなのです!


 其れにしても、この異常さを『リルルだから。』で納得している、主人を始めとした周囲の者達の愚鈍さには頭が痛くなります。否。コレが『女神様の愛し子』と私が決断した証拠でした。たぶん、王都から離れた領地で生活していて、影に調べさせている私だからこそ、影響を受けないから気付いたのでしょう。だからこそ、この幸運を手放さない様に私は動くのです!


 魔力量が多く、ポーションが作れて、魔法が使えて、付与が出来る上に、手芸に新たな風を吹き込んでいるリルルちゃん。こんなに才能過多な平民が『女神様の愛し子』で無くてなんだと言うのでしょう。ワイマールはもしかしたら気付いているかもしれませんが、私は誰にも教えません。



 無事にクライドと結婚して、義娘になったわ。ワイマールったらリルルちゃんを振り回してクライドに嫉妬されてるけど、アレはわかってけし掛けているのね。クライドがあんなに執着するなんて、リルルちゃんの負担にならなきゃ良いのだけど。(笑)


 シャル君のお店用に作っているポーション類なんだけど、美味しい上に回復量も多くて凄い人気なのよね。リルルちゃんの優先カードが無いと買えない時も有るらしく、お陰で常に賑わっているようね。冒険者ギルドには商業ギルドを通さないと卸さないらしくワイマールがホクホク顔だわ。


 で、此処でもリルルちゃんの非凡さを発見。クライドの同級生で冒険者の子に薬草採取の指名依頼をしているそうなんだけど、薬草採取用に時間停止のマジックバッグを作って渡しているそうなの。と言っても、薬草の鮮度の為に持たせているだけで、流石に貸し出しだけと言ってたけど、作れちゃうのが問題だって!


 冒険者ギルドに売った分は、ワイマールが間に入って制作者を誤魔化したらしいけど、シャル君のお店でもさりげなく売っているのよね。それも、アリエスの販売エリアの手芸品のポーチやトートバッグに紛れて。『時間経過の拡張だけの商品だからセーフでしょ。』ってアリエスは笑っているけど、それで良いの?壁面のケースの中に『優先カードお持ちの方限定商品』ってコーナーが作られていて、一般には売られていないけど、ホントにそれで良いの⁉︎


 因みに、結婚式の後に贈られた私のポーチには、時間停止と馬車5台分の容量が付いています。贈られた時には、ポーションや上級ハイポーション、マナポーションが各20本ずつ入っていました。『義兄様と義姉様達に渡して頂けますか?』と書類バッグ型が2個。私と柄違いのポーチが2個渡されました。此方にもポーション類が各10本ずつ入っていました。うーん、貴族でもここまで用意するのは難しい筈なんだけどなぁ。と遠い目をしましたよ。


 リルルちゃんは『私が作った物だからお気に召さないかもしれませんけれど…』と心配していたけど、時間停止付きマジックバッグなんて貴重な物、基本的に手に入りませんからね!まず、其処の勘違いを直しましょう! ワイマール、教育よろしくね!


 金額換算したらいけないかも?な贈り物をもらって領地に帰りましたが、リルルちゃんは女神様の愛し子だから、仕方ない。せめて、幸せに過ごせるように気を配るべきね。と強く思いましたわ。


 リルルちゃんが平民だなんて、悪い冗談にしか思えなくなったわ。実家におねだりして、余っている爵位をクライドにもらわなきゃ!

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