26 久し振りの文化祭
メイスン先生から魔法学校の文化祭のお誘いが来ました。シックギター先生からならちょっと身構えてしまいますね〜。メイスン先生からの招待状を旦那様に見せて相談すると、一緒に出掛ける事になりました。久し振りの学校です。特に図書室には顔を出したいです。ミッシェル先生もお元気でしょうか?腰痛が再発されていないと良いのですが。兄様からは『リルルの渡したカードの利用者は絶えないね〜』と聞いてますし、その利用者に名前を連ねてますけど。
旦那様と校門を潜ると、シックギター先生のポーション熱は健在のようです。掲示板の地図にはポーション販売箇所が一際大きく大きく表示されてました。と言っても、入り口にある特設テントなので、入れば直ぐに分かります(笑)お土産を渡そうと思い、テントの裏手に回ろうとする私に気付いた先生が、『リルルさん、良く来てくれたね!』と手招きします。学生の中からもザワザワした空気が伝わって来ます。アレ?私、何かしました?
『錬金術講座ではね、リルルさんは尊敬する先輩。と言うか、憧れの人なんですよ。ただ、リルルさんには取り巻きの方が何時も居たから、話し掛けられずに遠くから見つめるだけだったっていう感じかな。上の学年からも注目されていたけど、此方はチャールズ様のガードが硬かったからね。てっきり、と私は思ってたから、結婚相手がクライド様とは思わなかったよ。』とニコニコしておっしゃいます。旦那様は『私の方が出会いが早く、ずっとアプローチしてましたから。たとえ公爵家であろうと引きませんよ。』と、冷たい目でシックギター先生を睨んでます。アレ?あの時、クライド様を用意した。って女神様が言ってませんでしたか?時間軸があっていない気がしますが?
旦那様が挨拶がわりに学生さんの作った全種類のポーションを購入しました。時間停止のマジックバッグに入れて置くので何時かは誰かが使うと思います。学校が薬草をギルドで購入したなら、冒険者ギルドでは専用ポーチの貸し出しをしていますから、そんなに味の悪い物は出来ないと思います。学生達が採取したなら、学校のバッグを使って、シックギター先生の監修の元でしょうから、どちらにしろ、品質の問題はないでしょう。一部に罰ゲーム用の需要があるらしい。と聞いた事はありますが。私のポーションですか?お土産に渡したポーションはシックギター先生が見せびらかしてますが、比較対象として試飲しなくて良いのでしょうか?質問すると『学生には勿体ない。』と本気で仕舞い込む様子に笑ってしまいました。変わらないですね。
建屋に入り、メイスン先生が担任している組を探すと、喫茶店を出してました。1年生なら通る道なのでしょうか?懐かしいですね。旦那様と入ってみると、メニューを出され、『クリーンを掛ける魔法が売りです。ポーションは錬金術講座が占有するので、それ以外で考えました。』と自慢気に説明されました。『注文された飲み物や食べ物をテーブルに持って来てから、お客様の見ている前でクリーンを掛ける事で、安心して食べられます。』との事でした。
『良い発想ですね。』と二人で感心していると、メイスン先生がテーブルに見えて、『実はね、今だから話すけど。3年前に出したジュースの中に品質の悪い物が混ざっていたの。飲んだ方が体調を崩してしまって、クリスティ先生の煎じた薬草で持ち直した事があったのよ。ほら、喫茶の発起人覚えてる?その親、つまり本人が手配した物を飲んで体調を崩されたから大事に成らずに済んだの。遠方の高価な果物だったから全然売れてなくてね。ご自分が飲む事で売り上げに繋げようとなさったみたい。でも、飲んだ方が無関係の方だったら…と考えるととても怖かったわ。あの方が進んで責任をとってくれるとは思えなかったもの。それでね、今年の子達から相談を受けた時に、リルルさんが何時もクリーンを掛けている。って話していた事を思い出してね、なら、魔法も使うし丁度良いわね。と思ったのよ。』と教えてくれました。私達がポーション販売で盛り上がっていた陰でそんな事があったなんて、全然知りませんでした!
メイスン先生にもお土産にポーションを渡しました。『シックギター先生が新鮮な薬草で作っても味が違うのよね〜リルルさんのは味が絶品なの!』と、喜んで頂けました。清涼飲料水か栄養ドリンク剤の代わりみたいな感じでしょうか?
イゼルダ先生を探して校内を歩いていると、あちこちから呼び込みの声が掛かります。研究発表は余り人気が出ないので、呼び込みも大変かも。魔石の研究でイゼルダ先生を見つけました。流石に卒業する生徒は使えない?と、下の学年の生徒を指導して、付与魔石の研究をしたそうです。私の研究成果を参考文献として、名前を伏せて使ってありました。王宮魔術院で発表した時に聞かれたそうですが、『既に卒業して違う職で活躍しております。とばっさり切っておいたわ。』とおっしゃるので、『素敵です!』と抱きついてしまいました。
イゼルダ先生にもお土産にポーションを渡しました。それと、魔石を数種類。何処で獲った物か、場所と魔獣の種類を明記しておきました。スライムは数が揃い易いですが、それ以外ならどうかな?と思ったので。でも『草原と林や森では属性にそんな差は出ないと思うので、同じ属性で込められる魔力の差の方が面白そうですね。』と一言付け加えて別れました。
文化祭の喧騒を離れ、図書室を訪れました。ミッシェル先生は何処でしょうか?とキョロキョロしていると、司書室から顔を覗かせて手を振っています。『リルルさん。卒業以来、久し振りね。元気にしてる?』と声が掛かりました。
『学校と言えば図書室かな。と思い、来てしまいました。ミッシェル先生もお変わり無く、お元気ですか?』とバッグからポーションを取り出して渡しました。早速一口飲んで、『これ!この味。もらったカードのお陰で手に入れ易いのは嬉しいけど、アレ飲んでると羨ましがられてさ、ちょっと鬱陶しい時期もあったのよ。でも、最近は何処で買っても以前より味が良くなっているから、薬草の鮮度が上がっているんだね。』と兄様の店でお買い物してる事を教えてくれました。
薬草の鮮度と味の関係を発表した時、商人達も味の良いポーションの方売れるので、トップ達が秘密裏に話し合った結果、内緒で注文が入り、ギルドにマジックポーチを卸した事を教えました。ミッシェル先生はやっぱり。と言う顔で話しを聞いてくれました。
学生時代にワイマール義父様に頼まれて、お母さんの工房で作ったポーチに付与魔石を付け、時間停止のマジックポーチを量産⁉︎した事を話しました。ワイマール義父様と冒険者のギルマスが相談して、薬草採取用のマジックポーチをギルドの貸し出し用に作ったのです。『薬草採取を生業にする様な駆け出し冒険者にマジックバッグは高嶺の花。手の届かない品なので、だったらギルドで貸し出し用にするしか無いだろう。』と、ワイマール義父様が持ち掛けたそうです。
大きさも1立法程度と小さいのでベルトに取り付けられるポーチにしたのですが、時間停止にしたのでお値段的には可愛く無くなりましたね。一応、ポーチ1個で工房には銀貨5枚、私の付与魔石代に金貨10枚を支払ってもらいました。…とは言っても、ワイマール義父様が従来品の半額位には勉強しましたけど。時間停止を掛けられる人は少ない為、値段が高いのです。因みに貸し出しには誓約書を書かされるそうです。料金は採取品の1割か銀貨5枚の何方かを選ぶのだそうです。でも、品質が落ちるとトンデモナク買い叩かれるので皆さん借りるそうです。
全部にナンバリングしてあり、今のところ悪い考えを起こす者はいないそうですが、連続して借りたがる者や、薬草以外の採取にも貸し出して欲しい。との要望があるそうです。ギルドでは、空間魔法を付与しただけならそこまでは高くない?ので、自分で用意しなさい。という方針だそうです。
『今は手芸学校とポーション作成の2本をメインに、趣味の手芸や料理をしています。』と近況報告すると、『相変わらず、忙しそうだね。』と苦笑いのミッシェル先生に、『ザキュに居た子供の頃は、のんびりとお母さんの手伝いをしながら、手芸で身を立てていくだけだと思っていたのですが、先はわからないものですね。』と遠くを見ながら返事をすると、『もう、こんな若いうちから何疲れ切ってるの!』と抱き締められました。
後ろで黙って聞いていた旦那様まで、『ポーションとか、無理しなくてもいいんだよ?魔術院関係は父に相談だけど、僕の職場関係なら僕が断っても良いんだよ?』と言い出す始末。却って焦ってしまいましたよ!『私がしたくて頑張っている事ですから、大丈夫ですよ。ホントに!ただ、お貴族様の対応だけはお任せしたいかも?』と、つい本音を言ってしまいました。
ミッシェル先生がしみじみと『本当にリルルさんは表に出たがらないよね。あなたの3年間の成果を正当に評価すれば、王宮魔術院で充分働けるのに…』と呟きます。冗談ではありません!『それこそ一番望まない事です‼︎』と大声を出してしまいました。私はスローライフしたいだけです。
ミッシェル先生は旦那様を真っ直ぐ見つめて、『リルルさんはこんな子なの。だから、あなたや貴族の都合で振り回したりしないでね?心穏やかに過ごせるように守って下さいね。』と言うと、旦那様も『若輩者で至らない事が多々ありますが、リルルを一番愛しているのは私です。大切にする事を誓います。』と真面目な顔で答えてくれました。私は恥ずかしくなってモジモジしてしまいました。でも、お二人の気持ちが嬉しかったので、『ありがとうございます。』と伝えました。
お世話になった先生方に挨拶を済ませたので、そろそろ帰りましょうか?と校舎を出た処でチャールズ様達と会いました。皆様は領地経営などの勉強の為に上の学校に進まれたり、王宮の魔術院に入られたりと其々の道に進んで頑張っているそうです。でも、この魔術学校での3年間が強烈に懐かしくて、揃って文化祭を覗きにいらしたのだそうです。兄様のお店に時折買い物にいらしてるそうですが、『全然会えない!』と苦情を述べられてしまいました。でも、『カードのお陰でポーションが優先的に手に入れられるので助かっている。』とお礼を言われました。
リチャード様がクリーンの付与魔石を家族に贈ったら驚かれた。とか、チャールズ様がお父様に頼まれて、内緒で度々、マナハイポーションを買いに行かされている。とか。マリアン様とリアージュ様が私のビーズアクセサリーのファンで『今日はお揃いのにしてるの。』と花のコサージュを見せてくれました。みると、付与が付いていない物だったので『結界』を付与しました。何かあった時に身を守れると便利ですからね。それと驚く事には、お二人共あのマジックポーチを使っていらっしゃいました。此処にはいらっしゃらないリチャード様の妹様と3人で購入されたそうです。あのカードを使って。アレはポーション用にお渡ししたつもりでしたが?(笑)
手芸学校で授業をしたり、いろいろ忙しく過ごしているので、兄様のお店に余り顔を出せない話しをしたりと、私も近況を報告しあいました。卒業してしまったので、身分差を弁えるべき?とも思ったのですが、先に『必要ない。』と言われたので学生時代のようにお喋りさせて頂いて、本当に楽しかったです。『何時迄も友人』と言って頂けたので、このご縁を大切にしたいな。と思いました。




