25 新生活での日常 2
帰宅して、一角兎を解体して夕飯を作り、採取した果実を使ったデザートに舌鼓を打ちました。自分で採取すると更に美味しく感じるのですよね。旨旨です。片付けはスザンヌがしてくれると言うので、早速、部屋でポーションを作りましょう。旦那様の採取分も受け取らなきゃ。
食事を終えたので、旦那様に『これからポーションを作りますので、薬草を下さいな。』と声を掛けると、『部屋に持ってくね。』と、にっこり。これは部屋に居座るつもりですね。何故か、嬉しそうに来ては作業する処を見ているのです。私も隠す事でも無いので気になりませんし、『集中している時は話し掛けられても返事出来ませんので、ごめんなさいね。』とだけ断って作り始めました。
先ずは初級ポーションとハイポーション、上級ポーションのハイポーション。の3種類を作ります。ハイポーションも本来は使う材料を変えるのですが、私の場合は込める魔力の量を増やす事で作れてしまいます。なので、シャル兄様の店では少しだけ安く売ってます。低レベル冒険者への支援です。
初級ポーションの分はマジックバッグの薬草で作ります。クリーンを掛ける時も必要以上に魔力を使わない様に注意が必要です。回復量を抑えるのに苦労するとは思わなかったですねぇ。ハイポーションに自宅の畑で収穫した薬草を使います。栽培時に私の魔力を栄養剤代わりに与えているので、魔力量の含有量に差があるのです。魔力を気にせず作れるのは楽ですが、やり過ぎ注意は同じです。
上級ハイポーションになって、私のインベントリの薬草が使われます。あ、上級ポーションは作りません。ワイマール義父様が勿体無い。と言うので。私の作るハイポーションと一般的な上級ポーションの差があまり無いので、商業ギルドとしては差が微妙過ぎて必要を感じないそうです。そういう訳で、ギルドに卸すのは初級ポーションと上級ハイポーションになります。
さて、納入品が出来たので、今度は旦那様から預かった薬草でもポーションとハイポーションを作ります。此方は旦那様の職場用です。内助の功という奴ですね。(笑) 時間経過の無いマジックバッグですから、インベントリを経由しなくても味は良いまんまです。きっと喜んで頂けると思います。
『お待たせしました。』と、旦那様に2種類のポーションを渡します。お店を通さないけれど、正規の商品ではあるので、兄様のお店の値段の一割引の価格で販売してもらいます。一般の商品と比べたら、味良し、回復量多しの品ですからね、これ以上の妥協は出来ません。あ、私は容器代だけは受け取りますが、残りは旦那様のお小遣いとして納めてもらってます。『採集の時の護衛費用です!』と主張して引きませんでした(笑)
一休みしましたので、ここからはマナポーションです。先ずは旦那様の摘んだマナ草でマナポーションを作ります。そして私のインベントリのマナ草からはマナハイポーションを作ります。学校では上級の作り方を学べませんでしたし、私の本職は手芸ですから、この2種類が作成出来れば充分です。マナハイポーションを買いにいらしたシックギター先生が、上級の資料の差し入れをして来ましたが、必要ありませんって。知らない事が大切なので読まずにさっさと返却致しました。
アネムタ?ですが、女神様に頼まれたので、時々こっそりと作って奉納してます。インベントリに在庫は持ってますけど、出さなくて済むなら隠すつもりです。万が一の時の御守りの様な物です。美味しいのですがジュース替わりには出来ませんし、此れが必要な場面なんて想像したくありませんよ。
流石にマナハイポーションを作り終えた段階で私の魔力も切れそうです。兄様の店に卸す分。ギルドに卸す分。と、ギルド経由で王宮魔術院に卸す分。に分けると、それぞれを専用のマジックバッグに詰めて作業を終わりにしました。多少頭がふらふらしますが、後は寝るだけです。すると、旦那様が私をお姫様抱っこしてくれました!にっこり笑ってベッドに行きます。仲良しタイムですね。
久し振りに手芸以外の休日を過ごして、また、手芸学校に戻って来ました。今日は例のコサージュを教えます。ワイヤーに通すビーズの数を間違えなければそんなに難しくは無い筈です。ポイントは素直に同じ向きに捻る事と、加える力加減です。最初は花びらの数を少なくして、慣れて来たら大輪の花を作る様に教える予定です。
流石に講師養成講座に学ぶ人の技量は違います。基本の一重の花を成功させて、次々と大輪の薔薇を完成させています。完成品ですが、契約があるので個人的に売りに出せませんが、ワイマール義父様の方針で、希望者には商業ギルドの試験販売コーナーに出せます。材料費は学校の教材として一括購入しているので、売れたなら製作費のみがもらえます。自分で使うなら材料費を学校に支払って購入する事になります。お店で材料を買うより安く買えるので此方も人気です。自分で購入した物でも、レシピの規定に依っては第三者に譲れない物も有ります。今回の大輪のコサージュが該当します。
運が悪かった様で、仕上げた薔薇のコサージュを胸に飾った生徒さんが帰る処に、例のクレーマー夫人達が鉢合わせしてしまいました。何やら高ビーな口調が聞こえて来るので、私はワイマール義父様を呼びに走ってもらい、夫人達の間に割り込みます。
『リルルさん。何故、私達にはこの様な華やかなコサージュの作り方を隠していらしたの?私達の様な高貴な者にこそ、この様な技術を伝えるべきだと何故理解なさらないのか、私、常々疑問に思っておりますの。皆様もそうお思いになりますでしょう?』と、トップクレーマーの男爵夫人ががなりたてます。毎回の事ですが、行動に品が無いと気付かないのが不思議です。私の事は絶対に先生と思わない様ですのに、何故、教えてもらえると思うのか、とても理解に苦しみます。『パレル様、講座に拠って学ぶ内容が違います。パレル様の刺繍講座ではワイヤー手芸は致しませんし、ビーズの初級講座ではもっと基本的なリングやブレスレットを学びます。物事には順番があり、一足飛びに難しい物はお教え出来ません。』と基本的な事を伝えている処にワイマール義父様が駆けつけてくれました。
理事長室に連れて行かれたパレル様母娘と取り巻き⁉︎の方は、ご自分の記名した契約書を確認させられて、取り巻きの方達は学校に残るか、退学されるかを選ばされたそうです。パレル様母娘は既に何度も問題を起こしているので、旦那様のニモ男爵様に話しを通して、手芸学校を退学扱いにされたそうです。正規の学校では無いですし、趣味を教える私学ですから貴族の経歴には傷もつかないし、問題無い筈ですけれど、逆恨みされそうな気がして怖いですね。
ワイマール義父様がニモ男爵様にお話しを伺った処。パレル様の再従姉妹にあの奥様がいるそうです。母親同士が従姉妹だそうです。『あの性質は伯爵家出身の義理の祖母そっくりで、男爵とは言え本家の嫡男。という事で持ち込まれた縁談だったので私には断れなかった話しだったのです!それなのにあいつは、私は本家を辿れば伯爵家なのに男爵に嫁がされるなんてと、文句タラタラで嫁いで来たんですよ。私だって政略結婚で無ければ引き取らなかった!』と愚痴を聞かされたそうです。『無事に離縁出来たシューマッハ君が羨ましい。』と呟いて帰られたそうです。お疲れ様でした。
私は平民でしたが伯爵家に嫁ぎましたので、『私のお義父様は伯爵なのよ!』と言えば良いのでしょうか?ワイマール義父様に話すと、大笑いされた後で『次回、クレームが来たら是非とも大声で言い返しなさい。』と言われましたけど。
あ、ギルドに出した練習作品は即日完売が相次いでいます。講師講座の生徒さん達ですから品質に問題は無く、私とワイマール義父様のチェックも合格してます。特に一番人気のコサージュは習作のレベルでは無いので人気が出るのは当然です。この方は兄様の店でお母さんの助手をしていた方です。兄様の2歳上のメイベル様で子爵家のお嬢様でした。お店で見初められて侯爵家に嫁がれましたが、趣味は続けたいとの希望を考慮されて、入校されました。次回のオリジナル作品の出来で、最初の公認講師になる予定です。良い物を見て育ったお陰かセンスも良くて、確実だと思います。
この方は性格が良くて、身分をひけらかさない方で、私が一番懐いていた方でもあります。メイベル様が講師になられたら、侯爵家のサロンで教えられるそうです。おっとりとした性格ですから、教える生徒さんは選ばれた方が良いのでは⁉︎とアドバイスするつもりです。
教室に入り、卒業試験となるオリジナル作品制作の話しをしました。期間は3ヶ月で、今まで習った事を元にして作り上げても良いし、自分だけのオリジナル作品なら速攻ギルド登録して、作家デビューになる事も有り得ます。と告げると、皆さんの眼の色が変わりました。メイベル様まで!範囲を聞かれたので、『手芸作品なら、アクセサリーから服飾まで、何でも有りです。』と答えました。此処で範囲を固定する意味はありませんからね。幅広く作家さんを生み出したいのです。
お店でお母さんに付いていた方達は、アクセサリーだけで無く、ビーズ刺繍の替え衿など、お店で扱っていた商品を見ています。その集大成になるので張り切っているのでしょうね。習っていた方でも差はありますので『今回合格しなくても、定期的に試験を開催するので、次回も有ります。』と告げると表情が緩みました。
さて。試験方法を悩みましょう。私は技術だけ確認して、一定のレベルに達していれば合格。で良いと思ってますが、メイベル様以外の、特に平民の生徒さんをどうしようかで悩んでいます。作家デビューと言っても知名度が無ければ独り立ちは難しいです。ワイマール義父様と相談して、技術的に合格した作品だけ一般公開し、人気投票をする事にしました。場所は、兄様の店だと公正さに欠けるとクレームが付き兼ねない。とワイマール義父様が言うので、ギルドの試験販売のコーナーで行う事にしました。此処なら買い付けの商人さん達や売りに来た工房主さんも多く集いますから、独り立ちを目指す生徒さんの追い風になる筈です。
対象者がいれば、半年毎に定期開催しますので、注目され易い場所としても適切に思います。どんなオリジナル作品が出来て来るのか楽しみです。




