23 教師、メイスンは考えていた 〜魔術学校の3年間〜
夏休み中にタブロイド先生が王宮魔術院に帰ってしまった。あんなに執着していたリルルさんを忘れたかの様に。ダンブルドア学長も同じ様に、リルルさんを話題に出さない。私は2学期から、繰り上げでAクラスの担任にされてしまった。『ミッシェル先生、少しお時間を頂いても?』私はリルルさんが入り浸っていた図書室の司書教諭に話しをしに行きました。
『ミッシェル先生は1学期のリルルさんを覚えていますか?』単刀直入に切り出しました。忘れているなら相談にならないからです。すると、『彼女が迷惑だと感じていた人の記憶からは消えているみたいですが、私は話しがあっていたせいか、よく覚えていますよ。』と答えが返ってきました。
2学期になってからは、図書室の混雑もなくなり、正規の目的で来た生徒ばかりで静かだそうです。リルルさんに群がっていた生徒は来なくなったので、秩序が保たれている。と嬉しそうです。ミッシェル先生と話し合った結果、リルルさんに不満を抱かせると記憶が消される。と思った方が良いと言う結論になりました。
授業態度や、普段の言動を観察して、必要以上に負担を掛けなければ良さそうだ。と思ったので、無理なお願いにならないラインを探す事にしました。提案はするけど、強制はしない。必ず他の生徒と一緒に活動してもらう。この2点だけは絶対に守って対応しました。
でも、内心ビクビクして頼んでみた文化祭のポーションの件で、思わぬ助力をもらい、あ、誠実な態度がポイントだったんだ!と気付いてからは、肩の力が抜けました。ただ、シックギター先生が舞い上がってしまって、抑えるのに苦労しました。ミッシェル先生にも加わってもらい、タブロイド先生の話しを持ち出して、彼女の気持ちを優先する事を納得してもらいました。その後のリルルさんの対応を観察しましたが、シックギター先生の行動は授業の一環と言うか、ちょいプラスアルファでしか無く、リルルさんの考えに応じた対応だったせいで、期待以上の成果が上がるぐらいでした。
Aクラスの生徒も、一方的に利用しようとする者は弾かれましたが、助力を請う者に対しては惜しみない援助を与えるので、驚いてしまいました。と言うより、彼女の知識や物の捉え方は私を上回っていませんか?食堂で開かれた自主的な補習?は、こっそりとメモを録らせていただきました。
そして、2Aの団結力。食堂でこっそり集団自習に加われた元Bクラスの数名は、まるでリルルさんの信望者の様です。文化祭を前にシックギター先生が暴走しましたが、流石大御所です。全学年を巻き込む大技で遣り過ごしました。そして、クラスメイトに頼られたリルルさんは、何気なさを装って、またしても新解釈を魅せました!
生活魔法は平民の魔法とも言われて、あまり貴族には関心を持たれていませんでした。侍女や侍従といった職に就いて、初めて取得する人が殆どでは無いでしょうか?ですから、正規の魔法という扱いはされず、下に見られていたのです。つまり、付与魔法の対象外。と思われて来ました。
その中のクリーンは確かに便利な魔法です。水を用いずに綺麗に出来ます。ポーション作成時に、薬草にクリーンを掛けると魔力の含有量を増やせる事も判りました。そのクリーンを付与する。画期的過ぎます!
可愛いアクセサリーに加工されたのも相まって、売れ行きは上々です。しかも、加工していたのがリルルさんのお兄様のお店だった事もあって、冒険者の方もツテを頼って買いにいらしてます。ホントに、リルルさんが絡むと成功率が格段に上がるのですね。
3Aは不動の団結力を示して、全員持ち上がりました。Bクラスのトップ達の悔しがりは見ていて可哀想でしたね。2年の学期末テスト対策として教室を使っての集団自習では、他のクラスは参加出来ませんでしたからね。私は担任ですから、堂々と一番後ろの席でメモってましたよ。
そして最終学年になりました。『今年は何をしてくれるのか?』と期待満々のシックギター先生に対して、リルルさんは驚く事をしてくれました!
『先生、ご相談があるのですが?』と私の元を訪れて、『薬草を磨り潰すのに、魔力で代わりは出来ませんか?』と言うのです。リルルさんが言うには、『回復量は魔力量に比例する。ならば、全部魔法で作る事は有りですか?』と言うのです。『シックギター先生に直接聞くのは恥ずかしいから相談に来ました。』と言われて、私は俄然やる気を出しました。ミッシェル先生を巻き込んで、資料を探して、王宮図書館の資料のネタ論文と笑われていた論文を見つけ出したのです!
この論文を持ってシックギター先生に殴り込み⁉︎を掛けましたよ。リルルさんの代わりに。
文化祭で錬金術講座はこのネタの研究発表になりました。画期的過ぎますが、魔力に自信のある錬金術師には朗報です。魔法学講座としては、生活魔法に光を当てて、クリーン等をメジャーにして見せる。と意気込んでます。ただ、リルルさんが絡まなかった薬学講座だけは意気消沈ですね。困った物です。クリスティ先生が『一番研究発表に向いているのに。」と嘆いています。
発表はされませんでしたが、リルルさんの卒論は凄かったです。魔石の属性?に依って付与の効率が変わる。と言う研究でした。イゾルダ先生が論文発表をしたいとリルルさんに伝えた処、『卒業したら結婚するので、私はこれ以上関わりません。この後、続けて下さる方がいらしたら、その方の名前で発表して下さい。』と返答されたそうです。一貫して裏方に徹する様は見事ですが、流石に『最後位は表舞台に立ちましょうよ。』と言ってしまいました。すると、『平民が貴族より目立って良い事は無いと思いますよ。だから、チャールズ様やリチャード様の様に上に立って下さる方がいらして、私はとても幸せでした。ですから、付与魔法の得意な貴族の方に引き継いで頂けたら嬉しいですね。こっそり、リチャード様にお話ししませんか?』と笑って言うのですよ。
そして卒業後、貴族と結婚しました。文化祭の度にお兄様と一緒に来ていた方だそうです。結婚を期にあのネタで作った?マナポーションを売りに出したそうです。王宮魔術院の噂を聞き付けたシックギター先生が、リルルさんのお兄様の店に押し掛けてリルルさんに直談判したそうですが、商業ギルドのギルマスに捕獲されて交わされた。とガッカリしてました。
話しを聞いた私とミッシェル先生は、『突撃してはダメだ。ってあれ程言ったのに。』と苦笑してしまいました。『卒業したからもう大丈夫かと思ったのだよ。』と肩を落としてますが、リルルさんの性格ですからね。卒業してもそう変わらないと思います。
ポーションに関しては、お兄様のお店の商品の殆どはリルルさんの製品らしいですし、リルルさんの関係者なら優先して購入出来ます。と言っても、リルルさんが認めた人だけなので、自称では買えないそうです。『リルルさんが言うには、魔法学校のクラスメイトや先生の一部はOKだそうですので、シックギター先生もひっそりと行けば買えると思います。』と伝えると、『一緒に買いに行こう。』と誘われましたが、私は遠慮しました。絶対にひっそりと行動出来ないと思いましたから。
後日、ミッシェル先生とアクセサリーを買いに行き、ついでに、ポーションも買って来ました。そう!『ついでに』が正しい買い方なんですよ(笑) 訳を話して、シックギター先生の分もマナポーションを買いましたけど、リルルさんが苦笑してました。『希望者が多いので、大声で叫ばれてはこっそりお譲り出来ないんです。先生方にはこのカードをお渡ししますので、カウンターに来て予約した者です。と言ってもらえますか?』とビーズ刺繍の入った綺麗なカードを5人分渡されました。
私、そこで初めて知ったのですが、リルルさんは王都で話題の手芸学校の学校長をしているそうです。あれだけ魔法に優れているのに、なんで上を目指さないのかと思っていたら、手芸がメインだそうです。しかも、ビーズ手芸の第一人者だそうです!才能が有り過ぎるのですか⁉︎
前後の話しと合わなくなりそうですが、ふと、3年間担任をしていた先生の目線。と言うか、こんな事してたなぁ〜と纏めたくなりました。




