21 閑話 クライド サイド
最初は、シャルって妹愛が強過ぎて変な奴。と思ってた。父に学校の事を聞かれて、クラスメイトの話しの中で、ザキュから来たシャルの事を『頭脳明晰で性格も良いけど、欠点は妹を自慢し過ぎる可笑しな奴なんです。』と話したら、その妹の名前を聞かれた。『確かリルルって言ってました。』と話すと俄然喰い付いて来た。何でも、ザキュのギルドで矢鱈と売れる新商品を大量に登録しているらしい。最初は『親が』名前を貸して隠していたのだが、娘が作っているのがバレて、本人がまだ子供で、しかも跡取りでも無いのに本人名義のカードを作らせた。と、ザキュの商業ギルドのギルマスからやっと聞き出したのはつい最近の話しだそうだ。作品の精度や発想を知って、何とか繋がりを持てないか?と試行錯誤している処だ。と食ってかかられた。
まぁ、シャル本人は頭も顔も良く、性格も良いので、私が友人になっても損はしない。そんな計算から近付いたのだが、相談に乗っているうちに、親友になっていた。尤もシャルは自分が平民だと弁えて行動するので、私が一方的に?勝手に親友だと思っているだけなのかもしれないが。
相談の内容だが、シャルの寮の同室の家が商会をやっているのだが、この商会はあまり良い噂を聞かない。同室の友人⁉︎もシャルに負んぶに抱っこと言う状態で、シャルに嫌がられているのに気付かない奴だ。夏休みに半ば拉致されて商会に連れ込まれ、軟禁されて従業員かの様に働かされたそうだ。カチンと来たシャルはバイト代は払わせた。と言っていたが、そんな簡単な問題か?『距離を置いた方が良い。』と提言して俺が連れ回し、奴を近寄らせない様にした。
年が明けて、とうとう親が部屋替えの直談判に学校まで来た。と聞いたので、俺の部屋に来ないかと呼んでみた。一応俺の家は伯爵家だから通常の2人部屋より広いし、たまたま1人で使っていたから同室者として呼んだのさ。シャルの両親にもお礼を言われたし、俺はシャルの親友だからな。
クラスも寮の部屋も一緒になったから、何時でも一緒に過ごす様になり、勉強の合間にリルルの話しを頻繁に聞くようになった訳だが、俺までリルルを好きになった気がして来たのには驚いた。シャルが『リルルの学校の、秋の文化祭の発表を見にザキュまで行くんだ。』と楽しそうに言うので学校を休んで付いて行き、本人に会って話したら…好きかも?って想いが気の所為じゃ無くなった!リルルは本当に可愛くて、綺麗で、賢くて、とにかく素敵なんだ!なんで平民なんだ⁉︎もう、貴族で良かろう?と言いたい位、出来が良い子だった。
『貴族の婚姻なんて、4歳ぐらいの歳の差は充分範囲内だし、俺は伯爵家とは言え三男だし、家を継ぐ予定は無いから、俺とリルルでも問題なんて無いよな!』とシャルに言い募って、両親を紹介してもらい、その場で婚約の話しを持ち掛けた。外堀を埋めるのは貴族として基本中の基本だからな。容赦無く攻めてはみたが、親は『本人の気持ちが大切なので…』と身分差を気にしてか消極的な返答しか返さない。無理を通すと逃げられそうなので困った。しかも本人は幼くて⁉︎気持ちが通じず、了承が得られず焦った。だいたい、俺よりシャルが良い。って、どう言う事だ?
その内、思わぬ横槍も入って驚いた。と言っても、相手は5歳下の女の子だからリルル本人を奪られた訳では無いが。王都に呼び出す為の後見人争いが持ち上がってしまった。お祭りのバザーに参加していたリルルに対応されたレイチェル嬢が、気持ち良く買い物が出来て楽しかったので、『気に入ったから王都に呼びたい。』と父親のシューマッハ様に頼んだそうだ。
結果的に王都に呼び出せたのは良いんだが、俺とリルルの距離が全然縮まらないんだよ。俺がシャルを抱き込んでいたから、父がシャルを代表にして店を持たせた。店舗兼住宅は父が用意して、王都の商業ギルドの後見を前面に出せたんだけど、リルルの学校編入の後見を取られた。とは言っても、リルル個人の資産が驚く程有ったお陰で、金銭的な援助は受けなかったから、名前貸し程度の扱いなんだけど。それにしても、11歳であれだけの財産を築けるなんて、父が目を付ける筈だ。
正直、シューマッハ様は良い方だった。だけど、一人娘と奥方が、悪い意味でお貴族様だった。レイチェル嬢はリルルより年下の上に、身分も男爵家でしか無いから学校でリルルを虐めから庇えないし、更にリルルがレイチェル嬢に付き纏われて目立ったせいで、周囲から虐められているのに気付きもしない。リルルはレイチェル嬢に一方的に振り回されるだけで疲れている様だった。
だが、奥方は一番タチが悪い。『我が家がわざわざ後見をしてあげているのよ。』と何かに付けて威張るけれど、実質なんの援助もしていない事に気が付いていない。『本当なら新作が出る度に我が家に献上すべき。』って、何様だ。リルルが気を遣ってシューマッハ様に渡したら、『1セットじゃ足りないわ。3セットは持って来なさい。』だと?リルルに相談された父が間に入って、シューマッハ様に『材料費』を請求したよ。呆れた事に王女様に見せびらかしたものだから、王家に献上品を作る騒ぎになった。リルルの作るアクセサリーなら見劣りはしないが、王家には専属の職人が居るんだ。目を付けられたらどうしてくれる。リルルも『次は無い。』とシューマッハ様に伝えたそうだ。
アクセサリーセットは一応、シューマッハ様の顔を立てて、シューマッハ様から王妃様に献上したが、父は根回しをしていた。『リルルは商業ギルドの所属で、男爵家のお抱え職人では無い。』と高位貴族には前もって情報を流しておいたのだ。つまり、『今回が特例で、誰が頼もうとも次は通さない。』とギルマスの顔で宣言したのだ。
やらかし奥方は店に買い物に来ても大人しく買った試しが無い。アリエス姉様が居るから渋々お金は払うが、ホントに何様なんだ⁉︎平民ですら値切らずに買える値段設定だぞ。ジイドに言ってシューマッハ様にリークしてるけど、お優しいシューマッハ様では抑えられていないのが実状だ。
親子だけで無く、奥方の紹介状とやらを手にした一見の貴族に到っては、店内で大声で威嚇するかの様な態度でのさばる始末だった。流石のアリエス姉様も父に相談して、ギルドから監視員を出して巡回してもらったようだ。父から注意を受けたシューマッハ様だったが、やはり奥方の手綱が取れてなかったようで、更に問題行為があった為、魔術学校の合格を期にリルルの後見人から外れた。搾取するだけの後見って、悪い貴族の見本だよ。あんなのがいるから貴族は平民から嫌われるんだ。
そして、リルルは魔術学校に入学した訳だが。準兄様として度々見に行っては、リルルの隠し切れない才能に気付いた奴らを威嚇しておいた。俺のリルルを利用するな‼︎ 目標は3年後の結婚だが、その前にもっと仲良くなって頼られるようにならねば!と改めて想いを強くしたのだった。
俺自身も大学に進み文官目指して勉強しているが、最初は背景に父の爵位も有るから余り熱心では無かった。でも、王宮魔術士のタブロイド様からリルルの噂がそこはかとなく王宮に伝わって来て、評判が上がって来ているので、俺も成績上位者を目指す事にした。だって、文化祭の度にリルルの係わる物は新発見に溢れるんだ。釣り合いを取るには俺が頑張らずにどうする。
その裏でアリエス姉様の嫁ぎ先が、アリエス姉様を使ってシャルに不利益を押し付けようとした為にリルルが激怒して、俺と『縁を切る!』と宣言して来た。俺経由でアリエス姉様の嫁ぎ先に縁付きたく無い!って怒っているらしい。慌ててシャルに連絡を取ると、『リルルの激怒が冷めるまで顔を出さない方が良いかな。僕はクライド様の味方だから、何かにつけて汚名返上しておくよ。』と受け合ってくれたので、俺は『伯爵家を出てでもリルルと結ばれたい。』と伝えてもらった。
夏休みを待って、シャルの助けを借りながらリルルに近付いて行った。時間を置いたお陰で無事に寄り添えた。一緒に店に立ち、リルルの手料理を食べて、俺は満たされる感覚を味わっていた。今年も魔術学校の文化祭に行ったのだが、リルルは忙しそうに働いていた。公爵家のチャールズ様がリルルにくっ付いて居るのが気に触る。俺の方がリルルに近い事を教えてあげる事にした。
其れは唐突に来た。接近禁止を言い渡されていたやらかし奥方が、小汚い男を連れて店に乗り込んで来たのだ。小汚い男は奥方の兄で、浮気を繰り返して婿入り先から追い出された女好きの能無しだそうだ。『平民のリルルに貴族の兄を婿入りさせてあげるわ。感謝しなさいね。』と奥方に一方的に宣言されて、アリエス姉様が激怒したそうだ。当たり前だよ。たかが男爵風情が、しかも出戻り⁉︎の冴えない出来損ないを連れて来て何を言ってるんだ!寝言は寝てから言え!
紋章入りのハンカチで呼び出されたシューマッハ様。その場に父が居た事で、事の重大さに頭を抱えた様だが、今更、奥方の手綱を取れなかった事を悔やんでももう遅い。当然⁉︎今回の件も寝耳に水だった様だが、此方には関係無い。喚く2人を連れて帰ってもらった。
流石のシューマッハ様も今回のやらかしには我慢出来なかった様で、やらかし奥方は離縁された。今迄の件も含めて奥方の実家の男爵家に慰謝料を出させたそうだ。奥方と出戻り兄は勘当されたので貴族籍を抜かれ、平民に落とされた上に領地から出られなくなったらしい。遅いよ!
俺はこのチャンスを活かして婚約を勝ち取った!リルルも俺の一途さに?絆されてくれたのだ!
シャルも貴族とのゴタゴタに巻き込まれるかの様に、同級生だったテレサ嬢と電撃結婚して、俺は正式にリルルと同居出来る事になった。親公認⁉︎だけどまだ婚約者だし、サーシャの監視も有るし、単なる同居人でしか無いけど!学校から帰ると、夕飯はリルルの手料理が食べられるのだ。もうこれは新婚と言って良くは無いか?スザンヌに頼んでこっそりと貴族教育をしてもらいながら、擬似新婚生活を楽しんでいる。卒業したら籍を入れて貴族扱いをされるのだが、リルルはまだ気付いていない。逃げ出されたら大変だから、気付かれない様に力を入れている。
シャルに感謝しつつ、卒業目指して勉強に集中した。文官として上を目指すには成績は重要だからと言う事と、知識の必要性を確信したからさ。一緒に暮らして気付いたんだけど、何と言うか、リルルの知識量が普通じゃないんだ。本人は学校の図書室で読書に集中出来たお陰で知識を得た。と言ってたから、俺も負けられないだろう?やらかし奥方に植え付けられた最低貴族の記憶を俺が上書きして、上級貴族は流石に素晴らしい。と尊敬されるのが目標さ。
クライド様の一途さを書きたかったのですが。たぶん、父と姉はリルル推しだろうから公侯伯辺りとのお見合い話しは潰してそうかな?と思ってます。




