2 最初はビーズ
キルトを縫っているお母さんの店の工房で、細いワイヤーにビーズを通して、捻りながらお花の形に整えていく。私ルールとしてインベントリから出すビーズは、一つの花に一つだけ。出来た花は細かく枠で区切られた箱の中に、パーツとして貯めていく。頭の中にはいろんなデザインがあるけど、6歳児の工作⁉︎に見合った物と考えて、取り敢えず、小さな花ばかりを幾つも作ってます。複雑な事なんてしてないよ。と言い訳するつもりなので(笑) 最終的には色違いを何個か組み合わせて纏め、ブローチや髪飾りにする予定です。ビーズの指輪も可愛いので、此方は糸を通して編むつもり。何種類か作ったらお母さんに見てもらって、商品化が決まれば、ビーズのキットを作って丸投げになります。
実は、最初にお母さんのお店に『限定品』として作り貯めた数十点を販売して貰った時に、アッと言う間に完売してしまって騒ぎになり、その為、同じデザインを予約販売する。って事で落ち着きました。なので、今は製作数を決めた見本を店頭に飾って、工房で雇われた人がその見本から商品を作り対応しています。私以外にも、お母さんや工房の担当さんが新作を出すので、其々に『○○シリーズ』と名前を付けて競い合っています。(私の分はお母さんのシリーズの一つとして出してます。)
因みに、この『ワイヤー』と『ビーズ』を手に入れる時に、商品登録した商業ギルドでチョットした騒ぎ⁉︎がありましたが、どちらもお父さんの知り合いに頼んだので、私は表に出ること無く、無関係を通して高みの見物で済みました。
鍛冶屋のドロテスさん曰く。
熱した金属引っ張って細い糸状にするなんざぁ考えもしなかったぜ。金属は硬くてナンボ。それを手で曲げて紐代わりに使いたいなんてなぁ。つい調子に乗って、太さを変えたり、何本かまとめて捻ってみたら耐久性が上がりやがって、紐より丈夫な上に扱い易い新素材。なんつって大工やらなんやら職人衆に大人気だぜ。
ガラス工房のスクルラさん曰く。
溶けたガラスを紙紐に搦めて冷ましながら細く伸ばし、固まった後、中の紙紐を溶かしてから、空いた穴を潰さないように切るだけで大量に『ビーズ』が作れるなんて。しかも以前から作っているトンボ玉と違って割れた『ビーズ』はまた溶かして作り直せるし、高級なトンボ玉と住み分け出来るから言う事なしよね。
って訳で、二人ともアイデアの本当の出処は内緒の約束を守ってくれる為、画期的な発想は日々の鍛錬と私のお母さんの発想から出た物と世間からは思われ、私は二人からアイデア料代わりに原材料費のみでワイヤーとビーズを購入させて頂き、お母さんのお店で隠れながらのほほんとアクセサリーを作り、見本販売⁉︎させてもらってます。
『ワイヤー』も『ビーズ』もギルドに商品登録したので、ドロテスさんとスクルラさん以外が作るとアイデアの使用料が発生するそうです。其々の使用料の半分がお母さんの口座に入って来ました。『考えたのはリルルだからリルルのお金よ。』って言われたのですが、どちらも人気商品の為、結構大金なんです。まだ幼児に毛が生えた位の私が毎月得る収入では有り得ません。悪目立ちの元だし、家族間の不和になんてなったら大変!『職人さんはお父さんの友人を紹介してもらったし、お母さんは私を隠すのに忙しくしてる。アイデアの元になる植物図鑑を見せてくるのはお兄ちゃん。みんなに助けられてるんだから、家族みんなのお金だよ。』と言ったら、お父さんは『リルルのアイデアで産まれたお金だから、リルルの考えで良いよ。』って頭を撫でてくれました。でもお兄ちゃんは『僕は要らないよ。』って言うんです。悲しくて『お兄ちゃん大好きだから仲間外れは嫌!』と抱きつくと、『僕もリルルが大好きだよ。リルルの気持ち、ありがたく受け取るね。』って笑ってくれました。優しいお兄ちゃん大好き!
無事に家族会議が済み、4人で商業ギルドに行き、私のギルド登録をして、使用料の振り込み設定をしました。せっかくカードを作ったので、今迄貯めていたお金も入金して、ニマニマしたのはしょうがないよね?これからはお母さんの工房からも入金してもらうし、頑張るぞ!
少ないビーズで出来るからお手頃価格なせいか、最近学校でビーズの指輪が流行って来たので『出来上がりだけで無く、自分で作るキットで販売してみては?』とお母さんに言ってみました。スクルラさんの工房にビーズを買いに来る人が出始めたそうですが、トンボ玉と違い、小さいビーズの一粒売りは手間がかかり過ぎて面倒で断っている。と聞いたからです。私としてはシリーズ物を工房に作成してもらうのに毎回してる作業だから、そのまま店に出せば良いと考えたのですが、お母さんに言わせると、最初は日時を決めて講習会をした方が初めての人に親切だし、みんなで教えて合って作った方が盛り上がる筈。との事。スクルラさんにも『色毎に数を決めて少量の小売り』を相談した結果、『うちはまとめて売りたいから、ビーズの小売りはライラさんの店に任せたい。』と言われ、キルトの講習会の合間にビーズの講習会も開く事になりました。私は表の作業には出ない代わりに、真っ白な四角の布の四隅をつまんで縫ったお皿を沢山作ったり、いろんな色のビーズを組み合わせて、必要な数を数えてキットを作ったり、裏方の仕事を沢山してグッタリしましたが、講習会に来てくれた友達が喜んでくれたからね。満足はしましたよ。でも、次は無しですね。言い出しっぺの責任は一回で充分です。すっごく疲れたんだもん!
そうそう、ビーズを糸に通す。って事から、布に縫い付けるのも有りよね。って思いたって、お母さんにリボンを貰い、お花のビーズ刺繍をしたチョーカーを作って見せたら、早速、洋裁店を開いているスターシャ伯母さんの工房に連れて行かれました。従姉妹で親友のサーシャのお母さんで、私もお揃いの服を作って貰ったり、親子で仲良しさんです。『スターシャ姉さん、うちのリルルがね、凄い事に気付いたの!うちで売り出しているビーズ手芸でね、布に縫い付けて装飾品になるって思い付いたのよ!ほら、このリボンを見て!』興奮してるお母さんに『ライラ落ち着いて。』と、肩をポンポンしながらも渡されたリボンを見て固まるスターシャ伯母さん。私は『あのね、普通に刺繍するみたいに襟に沿って縫い付けたり、何粒か通して片端だけ浮かして揺ら揺らさせて遊ばせたり、いろいろ飾れると思うの。』と、何でもない事のように無邪気に言ってみました。すると『凄いわ!お貴族様の衣装みたいな高級な服が作れるわ!早速、スクルラの工房にビーズを買いに行くわ。リルル、ありがとう!で、ライラ、見返りは何をしたら良い⁉︎』お母さんの興奮が移ったスターシャ伯母さんでしたが、頷いてるお母さんを見てニヤッと聞きました。『頼みたいのは2つ。アイデアの出処がリルルだって事は内緒。もう一つはリボンや布地の仕入れを勉強してね。』笑ってるお母さんにスターシャ伯母さんは『もう、ライラのアイデアって事で私に伝えれば良かっただけなのに。親バカなんだから。』と笑って約束してくれました。
あれから1年経ち、ザキュの街は別名をビーズ手芸の街と言われる程に、ビーズが有名になりました。ビーズ工房はスクルラさんの処以外にも増え、ビーズの種類も増えています。ドロテスさんもビーズ用のワイヤー専門の弟子さんが出来て、太さや硬さの種類が増えました。スターシャ伯母さんの洋裁店も大人気で、工房を大きくした上に専門の針子さんが育ったので、服だけで無く、バックや靴など、商品が増えました。私のギルドカードに入るお金も増えて、一人前の職人さん並みだぞ。とお父さんに笑われてます。インベントリの中にはまだいろいろ入っているけど、暫くは出せないなぁ。と思う7歳です。