17 濃い時間を過ごしました。
春休みにリジー様がお姉様のテレサ様とブレスレットを買いに来てくれまして、テレサ様とお兄様が同級生だったと知りました。リジー様と違って⁉︎おっとりとした淑女で、本人曰く、『男爵なんて、平民に毛が生えた様なものよ〜⁉︎(笑)』だそうです。お兄様も『テレサ様は学生時代と変わりませんねぇ。』と微笑んでます。のほほんとした空気が流れていますね。リジー様に『テレサ様は癒やし系のお姉様ですね。』と話しかけると、『そうなのよ!押しが弱くて、自己主張を無さらないから、せっかくの良縁を子爵家の令嬢に取られてしまってね!伯爵夫人に成り損ねたのよ。ホント、見る目の無い男でしたわ。』と悔しそうに教えてくれました。お兄様がテレサ様に目線を向けると、『そうは言ってもあの方、15歳も年上なのよ。取られて良かった。と思ったから流された振りをしたのよ⁉︎』と笑ってます。リジー様は『お父様からそんな話しは聞いて無いですわ!』とむくれてましたが、『だってあの方、前妻と別れた。と仰るけど、愛人がバレたのが原因なのよ⁉︎しかもその方と別れるおつもりも無いらしいし、誰が喜んで嫁ぐと思って?あの子爵令嬢は私より年上で後が無い‼︎と噂でお聞きしたからこっそりけし掛けてもらったの。』と晴れやかに仰います。テレサ様は癒し系の裏側で策士でもいらっしゃるご様子です。貴族も大変なのね。と思いましたよ。
テレサ様の弟が男爵家を継ぐので、お二人は外へ嫁がれるそうです。リジー様はちょうど遊びに来てお店を手伝わされているクライド様に気付いて、テレサ様を突いていますが、お兄様から止められてますね。私はリジー様に見つからない様に隠れて、腕で大きな✖️を作って首を振りました。クライド様も危うい処で気付いてくれて、話しを濁してくれました。もし私の名前を出していたら1ヶ月は無視の刑でしたね。
えーとですね。婚約したのです。私。
シューマッハ様のやらかし奥様が、何を思ったのか勝手に一方的な見合い話しを決めて乗り込んで来たのですよ。相手は自分の兄だそうで、子爵家に婿入りしたものの浮気が見つかり、子爵家を追い出されたそうです。私とは20歳以上年が離れてます。そんな不良過ぎる物件を持ち込んで、貴族と縁続きになれるのだから、平民は有り難がって喜んで受け入れろ!と店先で叫んでくれたのです。
勝手過ぎる言い掛かりに、お兄様以上に怒りまくったのはアリエス様です。自分のせいで弟が苦労して求婚している相手に、『たかが男爵風情の!しかも嫡男でも無い男で、リルルちゃんとは親子程も年が離れた出戻りの浮気男を連れて、今更どの面下げてここに来ているのですか‼︎お前はリルルちゃんに近づく事を許されていないのを忘れたのですか!』超弩級の雷です!アリエス様がこんなに怒鳴りつけるなんて想像もしませんでしたよ。ジイドさんに頼まれてサーシャが冒険者ギルドに走り、ワイマール様が駆けつけてくれた頃には、お店の前には物々しい人集りが出来てしまいました。
取り敢えず全員、商談室に入ってもらい、店は休業ですよ。ジイドさんには申し訳ないのですが、紋章入りのハンカチを持って、シューマッハ様を呼びに行ってもらってます。部屋に戻るとワイマール様が睨みを効かしています。なんの前触れも無く飛び込んで来た二人に何でこんな事をしたのか聞いていました。『婿入り先を追い出されて実家に戻ったものの肩身が狭く、小遣いも充分でない。妹に相談すると、平民でまだ子供だが稼ぎの良い娘を知っている。と言われて、平民なら浮気しても文句は言われないだろうし、働かないで楽が出来るなら多少は我慢するか。と思って来た。』と言うのです。平民を馬鹿にするのもいい加減にして‼︎と思いましたよ。奥様は奥様で『平民風情が貴族と縁付けるのよ!有り難い話しを持って来てやったのに、何故こんな態度を取られるのかわからないわ!私にもっと感謝すべきでしょう⁉︎それをこんな処に押し込んで、接待すらまともに出来ないなんて!不敬罪で訴えるわよ!』とお花畑な意見を叫び出しました。
やっと駆け付けたシューマッハ様は、ワイマール様から概要を聞くと、いきなり床に頭を擦り付けて謝り出しました。奥様は『何してるの?あなた!相手はたかが平民よ?』とシューマッハ様の腕を引っ張って立たせようとしています。うーん、私とお兄様は平民ですが、ワイマール様とアリエス様は伯爵様ですよ⁉︎知らないなんて有り得ないでしょう?と非常識な態度に呆れていると、『ギルマスのワイマール様は伯爵様だ‼︎だいたいお前はこの店に、リルルさんに近付く事を禁止されているのを忘れたのか‼︎もうこれ以上、非常識な態度を取られて家名を傷付けられるのは我慢ならない。お前とは離縁する!ワイマール様、アリエス様、シャル君、リルルさん。知らなかったとは言え、これらを止められなくて本当に申し訳ない。』と、また土下座をしようとするので、慌ててワイマール様が止めてくれました。本当に謝って欲しい二人は、あら⁉︎他人事みたいな顔ですね。元奥様に至っては私をまだ睨みつけてますね。あ、シューマッハ様に頭を押さえつけられましたね。
後日、疲れて頬の痩けてしまったシューマッハ様が改めて謝罪に来てくれて、離縁した元奥様とその兄様の話しを教えてくれました。王都にいると周囲に迷惑を掛けそうなので、領地で暮らして居る両親の元に送られたそうですが、怒った嫡男に貴族席を抜かれて平民扱いになったそうです。これ迄のやらかしを聞かされた両親は、嫡男は真面なのに何故この二人は。と泣かれたそうです。『男爵家から我が家に、何回かに分けて慰謝料を払ってもらう事になったので、その一部をリルルさんへの迷惑料の支払いとしたい。』と申し出られました。お兄様も私も、離縁された元奥様には怒ってますが、シューマッハ様には感謝している位です。『シューマッハ様からは迷惑を掛けられていないので受け取れません。でも、お店で楽しく買い物して頂くのは大歓迎しますね。』と返事すると、『ありがとう。喜んでそうさせてもらうね。』とホッとされてました。
そして。お母さんが講習会をしにお父さんと来た時を見計らって、ワイマール様がクライド様を連れてやって来ました。『侯爵家以上の方には難しいかもしれないが、伯爵家以下なら問題が起きても対応してみせる。絶対にリルルを幸せにするから、クライドの嫁に貰いたい。』と、婚約の申し込みをされました。両親は顔を見合わせると、私を見てから、『リルルにはザキュでのびのびとやりたい事をさせたいと思っています。クライド様は王都で仕事をなさいますよね?リルルとは別居婚をするのですか?』と聞きました。クライド様は私に『王都に家を構えて、ザキュには月に何回か通う生活とか、考えられないかい?父とも考えたのだけれど、手芸学校の主任講師はリルルにして欲しいんだ。リルルの才能や知識を王都にも分けてくれないか?』と言うのです。狡いですよね。私を好きとか情に訴えるのでは無く、冷静に人生を語るなんて。これに落とされてしまいました。可笑しいですねぇ〜貴族は、王都は、私にとって鬼門の筈なのに。クライド様と一緒なら良いかな?なんて思ってしまいました。
サーシャに揶揄われながらザキュに帰ると、お祝い会が始まりました。ナント!私以外はこの未来が見えていた⁉︎そうです。クライド様はザキュにも神出鬼没?していたそうで、お父さんの手伝いをしてアチコチに顔を売っていたとか。伯爵家の三男様って何者⁉︎と噂されていたそうです。良い意味で。
折角、目立たない様にしていたのになぁ。と、教会で女神様に話していると、『じゃあ、此方の糸に繋ぎ直しますか?』と薄桃色の糸を手に女神様が笑ってます。手を見ると、小指に深紅の糸が結ばれています。『エッ!いつの間に?』と驚くと、『クライドを選んだ時からですよ。因みに此方はチャールズに続いてますよ。此方は公爵ですね。位が上がりますねぇ。下剋上出来ますね。』と笑ってます。女神様がイヂワルです。あの、それ以外にも何本か手にしているのが見えますが、聞かない方が私の為のようですね。女神様、この上なく笑顔が爆発してます。疲れた。
そう言えば技巧神様がいらっしゃいません。何時も女神様に寄り添っていらっしゃるのに。キョロキョロと周囲を窺うと大きな花瓶の陰で蹲っています。『どうされたのですか?』と声を掛けると、『リルルなら何にでも付与出来るのに、なんで前面に出て行かないのですか!私の加護は邪魔でしたか?』と拗ねていらしました。『来年。魔術学校を卒業するまで待って頂けますか?学生の間は特に目立ちたく無いのですよ。卒業したらクライド様と結婚して伯爵家の後ろ盾が付きます。そうしたらお店の商品に付けたり、名前を出さずに裏側からこっそりと……アレッ?』『もう、リルルは何でかな、表に出たがらないよね⁉︎』とうとう、技巧神様も苦笑いしてしまいました。『だって避けられる面倒事は避けるべきでしょ。それでなくても変なお花畑に絡まれるし!』と私が拗ねてみせると女神様が笑い出し、結局3人で笑い合ってお別れしました。
教会を出て、スターシャ伯母さんの店に寄って新作のワンピースを見せてもらい、王都でのサーシャの活躍している話しを一頻りした後、スクルラさんの工房に行きました。サライズさんの石に合わせたとんぼ玉を発注したかったのです。それからビーズのガラスに金属の細かい粉を混ぜて、キラキラしたビーズが欲しかったので、作れるか試してもらいたい。と頼んでみると、ドロテスさんと相談して試してくれる事になりました。
ザキュで少しだけ癒されて戻って来ると、クライド様がお店で出迎えてくれました。婚約はしましたが、お互い学生の間は今まで通りに過ごす約束ですが、クライド様は“普通の”恋人にはしてもらうからね!とお兄様曰くヘタレを返上したそうで、私はドキドキしています。取り敢えず、最初の一歩としてお揃いのピアスをしました。私はクライド様の目の色でサファイアのピアス。クライド様は私の目の色でエメラルドのピアス。当然、回復と結界の付与が其々に付けてあります。今はまだ、私とクライド様だけの秘密にしてもらってます。
そして、話しは最初に戻りますが。クライド様に背中を押されたお兄様がテレサ様に告白なさってます。学生時代からずっと気になっていたのですが、自分は平民だから。と諦めていたのを、クライド様は気付いていたとか。卒業後、婚約破棄した浮気者の伯爵の前にも、何人かと見合いした話しを聞いていたのですが、何故かテレサ様が縁付いた話しを聞かないなぁ。と思っていたそうです。そして今日お店に来てからのテレサ様の態度を見ていて、もしかしたら両片想い⁉︎と気付き、『シャルだって、私のお兄様になるだろ?』と耳元で囁いたそうです。
せっかく内緒の✖️に気付いた!と誉めてあげようと思っていたのに…リジー様はたぶん気付かないと思いますが、テレサ様にはたぶん聴こえていたと思います。クライド様が耳打ちなさった時に目を輝かせて私を見ましたから。その後、お兄様の告白に真っ赤になってうなずいて下さったテレサ様はとても愛らしかったです。私にも『お姉様と呼んで下さいね。』と話し掛けて下さいました。リジー様が『えッ?リルルさんと姉妹⁉︎になるの?私もお姉様って呼ばれたい!』とはしゃいでくれてますが、確か、私の誕生日の方が先だったと思いますよ?
リジー様に気付かれない様に、クライド様に話し掛けるテレサ様。やっぱり聞かれてましたね。後でクライド様にお聞きしましたら、私が卒業する迄は黙っていてくれるそうです。でも、『恋人ってバレても私のせいにはしないで下さいね⁉︎』と釘を刺されたそうです。クライド様が浮かれてバラシまくる姿が目に浮かぶのは何故でしょうか?




