16 今年は平穏らしい⁉︎
夏休みを使って、2Aの錬金術班はチャールズ様をリーダーに、薬草採取を何度もこなして、ポーションの考察も無事に終わりました。シックギター先生が王宮の魔術院に論文を提出するにあたり、共同名義で出さないか?と聞いてくれたので、『絶対にお断り致します!』と拒絶させて頂きました。私だけが頑張った訳でも無いですし、間違ってもタブロイド先生の目に触れそうな所に名前を出したく有りません。でも、『私を抜いた2Aの錬金術班全員の名前は出してあげて欲しい。』と伝えました。彼らの今後の活躍の礎になると思うのです。…その中に私の名前が無いのは寂しいかな?とも思ったのですが、私はザキュに帰って手芸屋さんをしたいので、やっぱり名前を出したくは無いなぁ。断固として闘うぞ!と意気込んでいたのですが、シックギター先生はあっさりと引き下がってくれました。メイスン先生が影で私のフォローをしてくれていたそうです。本当にメイスン先生が担任になってくれて私は幸せです。
早々に魔術院でも検証された結果、論文が認められました。シックギター先生とチャールズ様が王宮に呼ばれて表彰を受けて来ました。チャールズ様は公爵家という事も有り、代表で呼ばれるのは当然と言われて行ったそうですが、式が終了して学園に戻り、もらった表彰者の名簿に私の名前が出ない事に気付いて、先生方に抗議されたと聞きました。シックギター先生が私を貴族から守る為に名前を隠した。と教えると、ウォルフ様を思い出して納得されたそうです。
薬草の鮮度と味の関係が明らかになって、冒険者ギルドは薬草の鮮度管理を見直したそうです。勿論、鮮度の良さが味に繋がる事は冒険者達に周知徹底されて、初心者講習で1番に教える案件になったそうです。実際にポーションを1番飲んでるのは冒険者達ですからね。誰だって美味しいのが飲めるならその方が良いですよね。回復量の差は作成者の魔力量に依りますからどうしようも無いですが、薬草の鮮度管理なら自分達の領分ですものね。
という訳で、お兄様のお店でも、私の作るポーション以外に美味しいポーションが増えて来ました。でも、味良し、回復量多しの私のポーションの人気はまだ強そうです。『確実に回復量が多くて美味しいと分かって買えるのは魅力的だ。』とはレゾルブ様の意見です。因みに、回復量は鑑定で判るのでポーションの値段は回復量で決まります。お店で最初に出した時に、『ポーションの値段で買ったのにハイポーションだった!』と慌てて戻って来てくれた冒険者さんが居まして、勉強不足だったと反省しました。『情報を頂きましたから。』と、お値段そのままでお譲りして、お互いに感謝し合いました。種類が在るなんて気にして無かったんですよ。ジュース代わりに飲んでいたので。自分で薬草採取して作ったポーションでしたから、ジイドさんに頼まれる迄は売り物という発想が無かったし、それまで仕入れていたポーションが1種類でしたからね。私もお兄様と冒険者ギルドに行って薬草のお値段とかポーションのお値段などをリサーチして勉強しました。
今年は錬金術班の活動も有ってザキュに帰らずに過ごしました。でもサーシャは居るし、両親も頻繁に来るので寂しくは無く過ごしました。問題はクライド様ですね。大学校も休みに入ったのでやたらとお店に来るのです。お兄様に『そんなに暇なら店を手伝うかい?』と聞かれると、待ってましたと言わんばかりに居着いてしまって…朝食は兎も角、ランチと夕飯はほぼ一緒に食べてました。私とサーシャで作るのですから、簡単な料理ばかりなのに美味しいって言って下さるので、つい頑張って作ってしまうのですよ。サーシャと顔を見合わせて苦笑いになってしまいます。
文化祭の相談になりました。チャールズ様は『今年も錬金術班はポーションです。』と決定された話し方をなさってますが、去年ジュース班をした人達から待ったが掛かってます。ウォルフ様が居ないから先頭を切る人材がいないようです。するとメイスン先生が『ごめんなさいね。』と話しに入ってきました。『今年は特例でシックギター先生が監修して、錬金術講座としてポーション販売をする事になったの。だから、全学年を通して錬金術を学んでいる生徒はポーション販売になります。』みんなポカンとしてしまいました『論文が認められた最初の文化祭だから、大々的に発表しましょう。という事に決まったの。なので、どのクラスからも錬金術班に人数を出さなきゃいけなくてですね、だから、残った人で頑張りましょうね。』一気に火が消えましたね。錬金術班はガッツポーズで意気込んでますが、残りはため息です。去年のポーション祭りを見て来てるから余計にガッカリしているのでしょう。
気を取り直して、魔法を使って何か楽しめないか?と議論が始まりました。でも、これと言って良い意見が出ないまま時間が流れてます。リジー様が『私は薬学をとってますが何か良い知恵を貸して下さい!』とチャールズ様の所に来ました。『研究発表でも良いと思うんだよね。商売をしてお金を得る事を考えるから難しいと考えるのかもしれないのでしょう⁉︎君達は薬学で何を学んでいるの?それを発表するのも意義は有ると私は思うけど。』望んでいた答えと違ったのか、リジー様は俯いてしまいました。薬学は錬金術とは違って薬を作る学問だから、来たお客さんを診て薬の処方をするのは難しいと思うのです。先生に診て頂いて、薬の処方箋を書いてもらって薬を作るのなら別だけど。それでも一々先生にチェックしてもらう必要が有るから、文化祭の出し物には無理が有ると思います。研究発表向きですが、何かしらの発見が無いと発表し辛い空気では有りますね。
『あの、誰か、魔石に魔法を付与出来る方はいませんか?以前ギルドで魔石になら魔法が付与出来る。と聞いたのですが。一角兎からでも小さな魔石が取れます。魔法を付与した魔石を使ってアクセサリーなどが作れます。』オズオズと私が声を上げると、マリアン様が『私、水魔法の付与ならした事がありましてよ。』とおっしゃいました。釣られる様に何人かの声が上がりました。リチャード様が『我が家のお抱え商人に魔石の手配なら出来る。残りのみんなで魔法学の先生に教えを乞うて見るか?』とまとめてくれてます。なんだかみんなの目に光が戻った様で安心しました。マリアン様に『私、実は手芸をしていまして、お兄様のお店でいろいろ扱っています。もしよろしければ材料の手配が出来ます。』と伝えると、『リルルさんのお店にはお買い物に伺った事があってよ。可愛らしいアクセサリーや小物があって、楽しく拝見致しましたわ。是非、お力をお貸し下さいませね。』と答えて頂きました。クラスが分裂するのは嫌だったので、リアージュ様とソリアス様の方を向くと、『私達もAクラスなのだから、付与のお手伝いはさせて欲しいわ。』と笑ってます。チャールズ様とリチャード様は手を組んでますね。他のみんなも大丈夫そうです。良かった。
リチャード様が代表として、マリアン様と2人で先生方に報告とお願いに行きました。実は私、魔石に付与した事が有りません。何時もビーズばかりでしたから。バッグを探るフリをしてインベントリから一角兎の魔石を取り出すと、チャールズ様に魔法付与をお願いしました。チャールズ様は珍しい光の属性を持っていらっしゃるそうで、ライトを付与して下さいました。布に包んで魔力を流すと布が明るく光りました!『凄い!』『流石!』『素晴らしい!』いろんな賞賛の声が上がっている所にイゼルダ先生を連れて2人が戻って来ました。
私が咄嗟に包みを隠し、こっそりとチャールズ様に渡しました。でも見つかっていたようで、イゼルダ先生は『まだ授業では教えて無いのですが、既に出来る人もいる様ですから、みなさんに特別に教えてあげましょう。』と協力して下さる様です。魔力操作が出来れば付与は基本的に出来るらしいです。何の魔法を付与すべきか、イゼルダ先生に相談すると、『チャールズ様のライトは喜ばれるだろうが、みんなが持っている属性では無いから難しいだろう。取り敢えず、水属性は多いから水を付与するのは決定で良いと思う。後は得意な属性に分かれて相談かな?』と、班分けになりました。
私も火水風土の4大属性は持っている事になっているので、何処かの班に入ろうかと思いましたが、ふと思いついて生活魔法のクリーンの付与が出来ないか、イゼルダ先生に聞きに行きました。先生も生活魔法は考えた事が無かったそうで、タマタマ私がバッグに持っていた一角兎の魔石にクリーンを付与した処、付与出来ちゃいました。
目玉はチャールズ様とリチャード様のライトの魔石。変わり処でクリーンの魔石。大量⁉︎に水と火の魔石。というラインナップになりました。後は仕上げです。リアージュ様とソリアス様、リジー様などの女の子達が私の店に来た事があるそうで、作業場所を貸して欲しい。と言われました。店で作業するなら材料もその場で対応出来るので、メイスン先生に承認をもらって、仕上げはお店でする事になりました。ポーションの関係も有るので、文化祭の前の週に集まり完成させました。
文化祭の前々日に錬金術班で薬草採取に行き、学園のマジックバッグに詰め込んで、翌日はポーションの作成です。講座の3学年全員で行動するのは纏まらなくて危険。と付き添いの冒険者に指摘されてクラス毎で行動する事になり、ポーション作成も同じ班分けで行う事になりました。当日はポーションとハイポーションの2種類の販売をしました。昨年はその場で飲むカフェ形式でしたし、量も少なかったので均一価格でしたが、今年はシックギター先生監修の上、瓶に詰めた持ち帰れるポーションなので、冒険者ギルドの形式に合わせたのです。と言っても、ハイポーションを出したのは2Aと3Aだけでしたが。2A以外のクラスではみんな此方のみに参加されたそうなので、私達は売り子を半分の人数に免除してもらってクラスの方の手伝いに行きました。
付与魔石は私の家で仕上げをしたので、クチコミの効果は抜群でした。イゼルダ先生監修の付与魔石ですから質の問題も無く、今回も限定販売にしたのですが、既にライトのペンダントは売り切れてました。クリーンのペンダントも残りわずかです。水と火のブレスレットは多く作りましたが、それでも午前中で終わってしまいそうな勢いです。
錬金術班のみんなに請われて生活魔法のクリーンを教えたら、みんな付与まで出来ちゃったのです。ですから予定より多く作れてたのですがねぇ〜。文化祭が終わったら、リチャード様に魔石を融通して頂いて、付与祭りをする約束をしています。魔石の加工にお店に集まった際、リアージュ様が商品のブレスレットを見て、回復のペンダントにして欲しいと頼まれ、お店でブレスレットをペンダントに作り直したら、ソリアス様もお揃いが欲しい!と言い出し、それを聞き付けた人達が…という事態を収拾したチャールズ様の意見で決定しました。希望者だけですので、何時もの錬金術班に数人かな⁉︎と思っていたら、メイスン先生までが乗り気で、売り上げを使ってクラス全員でしましょう!となりました。
今年もお兄様とクライド様が見に来てくれたのですが、今年は一緒に回れませんでした。ちょうどクラスに戻った時に会えたので、商品の紹介は出来たのですが、クライド様がチャールズ様に『私のはリルルに作ってもらうから、此処で買う必要は無いかな。』などと意味不明な事を言ってます。チャールズ様は学生ですが公爵家ですよ。不敬にならないと良いのですが。お兄様は私の隣りに来て『クライドも気が気じゃ無いんだよ。』と笑ってます。アーソウイウオハナシハオニイサマガオサキニドウゾ。と能面⁉︎の様な表情になってしまいました。クライド様もただの同級生に対して心が狭すぎる気がします。




