15 当然⁉︎かも メイスン先生視点
夏休み迄の短い期間をかき混ぜるだけかき混ぜて王宮に帰ってしまったタブロイド先生のせいで、『このクラスの担任はやり難い。』と揉めてしまい、結果として副担の私がそのまま担任に上がってしまいました。今年のAクラスは貴族ばかりで平民は1人だけ。なんだけど、そのたった1人がダントツで優秀なのです。ザキュという少し田舎の街から商業ギルドのギルマスに請われて王都に出て来た子で、その優秀さから後見を貴族が取り合って、シューマッハ子爵が勝ち取って後見人をしたそうだが、奥方が遣らかしたので1年で降ろされたとの事です。『上級学校より魔術学校の方が貴族との柵が薄いだろうから此方を選びました。』というのが志望動機を聞かれた時の彼女の返答だそうです。
一般的に幼少の頃から魔法に触れている貴族の方が成績が良い筈ですが、平民のリルルさんの知識は先生レベルかそれ以上なのです。本人は『これ迄の読書量の差で、先生に驚かれるレベルでは有りませんよ⁉︎』と謙虚ですが、普通は独学で到達出来ない位なのですよ。実技も目立たない様にしてますが、初級魔法で上級並みの事をしています。魔力操作が本当に先生レベルで制御出来ているのですよ。本人が目立ちたく無いと常々言い、見せ方が上手いので同級生には気付かれてませんが、座学も実技も貴族を抑えてトップです。
図書室のミッシェル先生とお茶した時に聞いた話しですが、夏休み前はリルルさんの異常な人気の為に図書室業務に迷惑を掛けられたそうですが、反面、図書室の利用率が増え、結果的に良い環境が生まれたそうです。困っていた彼女にランチの場所を提供した事で、彼女と仲良く話していると楽しくて、新しい発見も多いので時間が短く感じられるそうです。羨ましいです。つい『疲れた。』と愚痴を漏らした処ポーションの差し入れもしてくれたそうで、『リルルさんのポーションは美味しい。』と言っていました。羨ましくなんてないです。……私もリルルさんの前で、『疲れた。』と呟いてみようかしら?タブロイド先生の補助はとても大変なのですから嘘は吐いてませんし。
不思議な事もありました。夏休みが明けて、一部の方からリルルさんに関する記憶が消えたようです。対象者達にリルルさんは好ましく感じていないというか、迷惑そうな印象が強かったので敢えて気付いた事をスルーしています。決してタブロイド先生が苦手とか嫌いとか、そういう訳ではありませんよ⁉︎…迷惑だったとしても。何たって王宮魔術士の頂点にいる方ですし。ただ、自分の興味に忠実過ぎて、周囲を振り回しても気にしない処が受け入れられないのです。大人なんですから相手に合わせたり、擦り合わせて落とし所を見つけたりする努力をすべきだと思うのです。せめて、自分蒔いた種ぐらいは刈り取ってから王宮に帰って行って欲しかったです。空間魔法に憧れ過ぎの生徒達の熱を冷ましておいて欲しかったです。
さて、気が重いですが文化祭の話し合いをしないと。私としては発表会の方が指導は楽ですが、生徒には人気が無いのですよねぇ。兎も角、生徒が主体で進めないと。ホームルームを始めると、案の定、ウォルフ君が暴走してリルルさんに言い掛かりを付けています。何時もの通りリルルさんは流してますね。さて、ウォルフ君のいう空間魔法の発表とは何を発表するつもりでしょうか?タブロイド先生を王宮から呼び戻して講義を受ければ良いと⁉︎ 何を言い出すのでしょうか?私は自分達で出来る事を考えて下さい。と言いましたよね。大体、誰がタブロイド先生を呼び出せると思っているのですか?相手は王宮所属の筆頭魔術士様なのですよ⁉︎ 公爵家のチャールズ君が嗜めてくれたので助かりました。ウォルフ君は辺境伯家なので子爵家でしかない私を馬鹿にして話しを聞いてくれないのです。研究発表を提案してくれたのはありがたいのですが。
話し合いの結果、貴族の財力を持って用意した珍しい飲み物を提供するカフェになりました。貴族の財力を発表するなら上級学校となんら違いが出せないでは無いですか。そこを指摘すると、『魔法で飲み物の温度を変える事を売りにするから大丈夫。』と言い出しました。ウォルフ君は攻撃魔法が得意の脳筋でしたね〜話しが通じませんでした。飲み物を出すと言うなら、せめてポーションにしませんか?と思い、錬金術を受講しているチャールズ君を期待を籠めて見つめてみましたが、私の発想は伝わらず、ウォルフ君主導でカフェに決定してしまいました。
ポスターを書く為にリルルさんと2人になったので、思い切ってポーションの作成と薬草の手配を依頼しました。ミッシェル先生や錬金術の先生から彼女の作るポーションの話しを聞いていたので、これが目玉になると思ったのです。最初はギルドで薬草を購入しようと考えましたが、リルルさんが薬草採取も出来る。と言うのでお願いして、前日に納入してもらう事にしました。
予め錬金術を選んでいるチャールズ君に頼み込んで、錬金術を受講している生徒でポーション班を作り、ウォルフ君のジュース班と分け、ポーション班にはリルルさんと一緒に1日掛かりで作って貰いました。新鮮な薬草のお陰か、『何時もより良く出来た。』とみんな誇らしげです。でも、同じ薬草から作っているのに、リルルさんは質も量も比較にならないのです。試しに飲ませてもらったポーションの味の美味しい事!体力の回復量も多いですね。コレを同じ金額で出して良い訳が有りませんね!と思いながら、錬金術のシックギター先生に値段の相談をすると、一口飲んで、『売ってしまうなんて勿体無い!』と言い出して残っていた薬草全部と、リルルさんの作ったポーションを半分取り上げて教室から出て行ってしまいました!
しばらくして戻って来たシックギター先生は、『急遽ギルドで薬草を購入して作らせた。』と言って、2年生が作成したポーションを代わりに差し出しました。あの後、リルルさんがこっそり追加で薬草を出してくれましたが、それでも足りそうに無かったので、仕方ないのでそれも一緒に販売しましたが、リルルさんの用意した薬草で作った物とは味が全然違うのです!
翌日の販売では、リルルさんのポーションを飲んだ生徒が『美味し過ぎる!』と絶叫した事で注目を集めてしまい、Aクラスの作成した物は『まぁまぁ⁉︎』と首を傾げる事になり、2年生が作ったのを飲んだ生徒が『コレはハズレだ‼︎』と嘆いて買い直しに並ぶ。という現象が起きて、ポーションばかり注目されて売り切れる迄は凄い人だかりになってしまいました。
シックギター先生が買った薬草の値段で計算し直し、それに多少足した金額でリルルさんに薬草代金の残りを支払いました。それでもポーションに関しては充分な利益が出ました。珍しいを売りにしたジュースはかなり売れ残り、損失を出しました。補填しても間に合う位の利益がポーション代にはありましたが、敢えて補填せず、安易な企画を押し進めたウォルフ君達、ジュース班に当分して支払ってもらう事にしました。珍しくてもただのジュースなら上級学校の文化祭でも出せます。温めたり冷やすだけなら魔法を使わずにも出来ます。魔法学校ならではの企画が大切だったと気付いて欲しかったのです。そして、ポーションの利益を使ってクラス全員で反省会という打ち上げをしました。
因みに、シックギター先生に奪われたポーションは、ダンブルドア学長にバレて取り上げられました。でも、誰が作ったかは王宮には秘密にしてもらう約束をしてもらいました。またタブロイド先生に乱入されて掻き回されたく有りませんからね。『万が一、タブロイド先生が乱入する様な事態が起きたらダンブルドア学長が対処する。リルルさんの名前は出さない。』との念書を書いてもらいましたよ。折角記憶から消えたのにまた纏わりつかれたらリルルさんが可哀想ですからね。
王宮にバレる前に!と薬草を調べたシックギター先生から興味深い話しを聞きました。ギルドで購入した薬草と比べて、鮮度が良いのは当然ですが、魔力含有量がとても高いのだそうです。リルルさんにそれとなく聞いて欲しい。と頼まれてウロウロしていると、図書室に向かってゾロゾロと歩く一団がいます。なんとなく着いて行くと試験に向けて講義⁉︎しているリルルさんがいました。部屋の隅でこっそりと聞いてみましたが、とても分かり易い表現なのです。多方面からの見方で解説するので理解が深まります。ホントに独学でここまで理解しているなんて天才ですか?その場はとても割り込める雰囲気では無かったので、ミッシェル先生に頼んでランチに混ぜてもらい、文化祭の時に用意してもらった薬草に付いて質問すると、『薬草は使う前に何時もクリーンで洗っているだけで、特別な事はしていません。』と答えが返って来ました。
シックギター先生にそう伝えると、『ポーションを作る水を、水魔法で出した水で作ると、回復量に差が出るのは今までも言われていたが、薬草自体をクリーンで洗うなど魔力が勿体無くて誰もしていなかった。盲点だった!』と興奮して語り出しましたので、落ち着かせるのに大変でした。王宮に報告する前にキチンと考察してからでないと問題になりますし、リルルさんの名前を出すと、平民が出しゃばる事を嫌がる貴族が大勢居るので、困った事になる可能性があると理解してもらう事がこんなに困難だとは思いませんでしたよ。
ポーション作成に関していろんな発見があった事をダンブルドア学長に報告する際に、リルルさんの名前を出さないように説明するのも大変でした。夏休み後のダンブルドア学長やタブロイド先生のリルルさんへの対応の変化の話しをして、記憶が消えた先生と残っている先生との違いについて私の考えを伝えた結果、シックギター先生もやっと納得されて、リルルさんの名前を出して騒がない事で決着しました。正直なところ、シックギター先生の記憶からリルルさんが消えてもどうでも良いのです。私の中からリルルさんの事が消えて欲しくないのですよ。見守ってあげたいですからね。




