14 良い加減にして欲しいのですが
『アリエス様から紹介されたんだけど、メイファの工房長の長女でクリシュナさんって知ってますか?』と話し始めたお兄様。お兄様の2歳下で今年王都の上級学校を卒業したのだそうです。お店にも買い物に来ていて、アリエス様とよく話していたそうですが、私は紹介されてません。お兄様も特に気にした事が無かったとの事です。ただ紹介された話しを聞いた両親は良い顔をしませんでした。『あの工房は、リルルのレシピを使って繁盛して来てるが、最近ではレシピの使用料が高過ぎる。と言ってキルティングの値段を高くして売って来る様になったんだ。しかもデザインは元々卸してもらっていた、スターシャの知り合いの工房の方がとても良いんだ。だから其方にバッグ用に厚地の布を頼んで作ってもらう事にしたんだ。うちで作るバッグはライラの作ったキルトが主体だから、キルティングの必要性は無いからね。』とお父さんが話すと、『クリシュナさんは私が開いている講座に来た事は無いから、どんな娘なのかは知らないけど、あそこの奥さんには、ザキュなんて田舎の店に卸してあげるのは、アリエスさんの紹介だからよ。と最初に言われて驚いたのよね。私はワイマール様の紹介状が有ったから取り引きをしただけで、こちらから頼みに行った訳でも無いのに、凄い言い草だわ。と思ったのよ。でも、リルルが使っている厚地の布は良いと思ったから、ワイマール様の顔を立てる意味でもお願いしたんだけど、頼んだ厚地の布だけで無く、勝手にキルティングまで入れて請求が来たから、2回目からは念を押した上で厚地の布しか買って無いの。』とお母さんも話し出しました。『旦那の工房主も貴族の後見を全面に出した態度で、気が合わないタイプだからなぁ。正直なところ、私は縁付きたくない相手だよ。』とお父さんが結論を出しました。
お兄様がアリエス様から聞いた話しでは、両親ともに懇意で家同士に問題は無いし、優秀な娘だがまだ婚約者は居ないから、お兄様になら嫁がせてやっても良い。と言われたそうです。アー、ナンカナァ〜あちらの思惑が見えて来ちゃいましたね。レシピ代が高いと言う事は、それだけキルティングを作っているという事です。お兄様に縁を繋いで身内になればレシピ代を払わないで済むとでも思ったのでしょう。それに工房も大きくて、そんなに優秀なクリシュナさんなら、既に婚約者が居て当然だと思うのですが?お兄様に婚約者が居ないのは、貴族等からの柵が多過ぎて面倒なのと、釣り合う相手に出会っていないだけで、お兄様に問題がある訳では無いのです。それに、私がアリエス様に聞かされてないという事は、きっと、そういう人だという事なのでしょう。アリエス様は私が面倒事に神経質なのは良くご存知の筈ですから、私に知られないようにこっそりと動いたのでしょう。
ワイマール様一家の悪い貴族の一面が出てきたみたいですね。私はにっこりと笑うと、『お兄様、王都に戻りましたら、クライド様に、私にはワイマール家の考えに馴染めない様ですので、ご縁は無い物とお考え下さい。と、キッパリお断りして下さいね。』と告げ、両親には、『魔術学校を卒業したらザキュに帰って来て、お母さんのお店を継ぎたいので、よろしくお願いします。』と宣言しました。クライド様本人にまだ好感を持っている訳では無いし、多分、ワイマール様は関わっていないと思うのですが、やっぱり気分が良く無いですからね。
両親と話し合っていたお兄様も、『ワイマール様にはいろいろとお世話になっているけど、ちょっと近くなり過ぎていたみたいですね。良い機会ですから、正常な距離感に戻り関係を見直しましょう。アリエス様にも随分と軽く扱われました。』と、アリエス様に騙された事を怒っていました。
お父さんと一緒に王都のお店へ戻って来た私達は、アリエス様に経緯を問いただしました。すると想像通りの話しが出て来ました。キルティングの売り上げを見込んで工房を広げたものの、売れ行きは思ったより上がらず、お父さんが契約を切った事がザキュで知れると、ザキュを含めた付近の店からも依頼が縮小して来たそうです。王都で私の使うキルティングは実家から来ているので、他店との交渉にアリエス様の名前は使えても、私の作品は使えない。厚地の布を使うバッグも流行っているけれど、バッグのレシピ代がネックで、新たな販売先を開拓出来ない。ならば。と、アリエス様に縁談をまとめて来るように持ち掛けたのだそうです。一方的で勝手な言い分に怒ったお兄様が『この際だから話しておきますが、リルルが嫌がっているので、クライド様との縁も繋がる事は有りません。』とアリエス様を切り捨てると、エッと驚いた後、『この縁談の件はワイマール家とは関係なく、私の嫁ぎ先との話しだから…』と弁解なさってましたが、『ワイマール家と繋がるという事は、アリエス様を通じてその親戚とも繋がりますよね。私はそれが嫌です。』と告げた事で、やっと何を言われても私の考えが変わらないと分かって、『私はなんて事を…』と黙ってしまいました。
アリエス様は店を出て行き、何時もの通りワイマール様を連れて戻って来られました。お店のお客様対応がジイドさんだけでは大変そうですので、お父さんとお兄様と4人で話してもらう事になりました。私では対応し切れない時にはお兄様を呼ぶ事にして、珍しく私がお店に立ちました。部屋からレース糸と針を持って来て、お花のモチーフを編みながらカウンターに居ると、通りを歩いている人の目を引く様で、何人かにレース糸のアクセサリーをその場で作って売る事になり、段々増える人だかりに、その場で作るには間に合わないので、注文も沢山入ってしまいました。看板娘ですね。
応接室から出て来たアリエス様はショックを受けたままの様で、見るからに落ち込んでました。ワイマール様曰く、アリエス様のなさった事はワイマール様の顔を潰す事だったそうです。ギルドで新たに販売人を募集して、決まり次第アリエス様は辞める事に決まったそうです。嫁ぎ先でアリエス様が辛く無い様にワイマール様が動く。とおっしゃってますが、工房だけで無く、嫁ぎ先にもカミナリを落としそうです。アリエス様の退任に私は口を挟みません。でも、なんか割り切れません。アリエス様はとても楽しげに働いてらしたし、私もいろいろ助けてもらっていたので。
ワイマール様から話しを聞いたクライド様は『私の関係しない処が原因で縁を結ばないと言われても承知出来る訳がない。』と、私を望み続ける宣言をお兄様にしたそうです。『ワイマール家を捨てるから、婿入りさせてはもらえないか⁉︎』とまで訴えているとか。何でかな?手に入らない処から来る唯の執着にしか私には思えないのですが、家族からはここまで思われるなら受け入れるのも有りなのでは?と言われてます。でもワイマール家は伯爵家なのよ⁉︎それが平民になる⁉︎お城で文官になる為の勉強をなさっているのに⁉︎そもそも、私と結婚するなら、ワイマール様が縁を切らせないと思うのよね。私を囲い込もうとしている王都の商業ギルドのマスターをしているのだから。
ギルドに募集は掛けてもらったのですが、ナント、サーシャが来てくれました。但し条件付きで。それはお貴族様対応にアリエス様が一緒に働く事です。サーシャはザキュの工房で作品を作っていくうちにどんな人が買って行くのか、気になっていたのだそうです。お母さん同士の話し合いの結果、部屋は余ってるから住み込みで大丈夫ですし、2年後には私と一緒にザキュに帰る約束で来てくれたのです。お兄様は2年で恋人を見つける!予定です。正直な話し、引くて数多なのです。お兄様を惹きつけられる方。柵のない魅力的な女性求む!って求人でも出しましょうか?(笑) 因みに、お兄様もザキュに帰りお父さんの商会を継ぐ事になってます。ワイマール様にはまだ秘密ですが。この店は元々ワイマール様の作った店のような物ですから、アリエス様とジイドさんで残すなり潰すなりしてもらえば良いと思ってます。その為にアリエス様を引き留めたのですから。お母さんのビーズ講師養成計画も順調に進んでますし、我が家はこっそりと王都脱出に動き出しています。
学校が始まり、リアージュ様とソリアス様の取り巻き⁉︎みたいになって一緒に行動しています。2年生からは学ぶ専門を決める事になり、当然のように錬金術の教室に連れて行かれました。基本のポーションに問題無い事は分かっているので、上級のレシピが与えられ、ノートに書き写すよう指示されました。材料が変わり、魔力を籠める事で回復量に差が出るようです。3人で書き写していると、シックギター先生が来て、私は放課後の呼び出しを受けました。
授業が終わり、何故かメイスン先生も一緒に錬金術の教室に来ました。シックギター先生が薬草を手に来ました。何時も作っている方法でポーションを作って欲しいと言われました。台の上に使う器材と薬草を置き、クリーンを掛けます。水は魔法で作り出し、薬草を均一に切って混ぜ始めました。何も変わった事をしていませんが、先生方の視線が痛いぐらいに見て来ます。『今度は器材や薬草にクリーンを掛けず、水洗いをして、同じ様に作って下さい。』と別の器材と薬草を渡されました。出来上がったポーションを鑑定したシックギター先生がポソっと、『すべての工程に魔力を用いているから回復量に差が出る。としか考えられないな。最初のは上級並みの回復量がある。2回目のは少し多めだが初級並みだ。』と言いました。
今年の錬金術2年生の課題は、籠める魔力量に依ってポーションがどう変わるか⁉︎だそうです。文化祭の時にも騒がれましたが、味の違いも研究するとの事です。私は美味しくないポーションを作った事がないので、他の人の作り方に興味があります。楽しみですね〜
私達、元1Aのカフェ・ポーション班と他のクラスのチームに分かれて考察が始まりました。確認事項は薬草や器材の扱い方、主に魔力の有無ですね。女神様のお陰で私の魔力は下手なお貴族様よりも多いので、私が作るポーションは籠められた魔力量が多いとシックギター先生も確認されてます。マジックポーションを飲みながら何時もより多くの魔力を籠めてポーションを作ると、リアージュ様達でも同じ様な回復量になりました。でも、味が違うのだそうです。実は文化祭の時も、中当たりがあったそうです。今回の考察で使用した薬草はギルドで購入した物で、私が何時も使う物とは鮮度がまるで違いました。今回私が作ったポーションも回復量は同じでしたが、味は違いました。其処から薬草の鮮度に焦点を当てて、私達の班は薬草採取の課外活動に出る事になりました。いつもならインベントリに仕舞って鮮度を保ったまま持ち帰りますが、みんなと一緒では出来ません。慌てて教会に相談に行くと、技巧神様から時間停止のマジックバッグの作成をお勧めされました。
結局、違法的に価値の有る物に仕上がったマジックバッグは使わずに済みました。学校のマジックバッグに器材を詰め込んで森へ行き、冒険者に囲まれて護衛されながらのポーション作成になったのです。薬草を摘んだその場でクリーンを掛け、水魔法で出した水で作ったポーションは、誰のでも美味しく頂け、護衛をしてくれた冒険者さん達を喜ばせました。シックギター先生はこの考察の結果を纏め上げて王宮魔術院にレポートを提出されました。
休日は、サーシャが来てくれたので私もお店に立つ事が増えました。と言っても、お客様対応はほぼアリエス様にお任せです。私達は店先でビーズアクセサリー作り等のパフォーマンスがメインです。私がカウンターでレース編みをした時に受注が増えた事を踏まえての、ダブル看板娘戦略です。順調に売り上げが延びてますし、作っている処を見て、教室への参加者も増えているそうです。私は徐々に手芸作家のイメージを付けて、ザキュに帰る計画なのです。王都に来てから碌な目にあっていませんからザキュが恋しく感じます。
そう言えば、ビーズの発注をしていたスクルラさんから連絡がありました。水魔法で石に孔を開けてビーズを作っているサライズさんが独立するそうです。良い機会なのでレシピ登録名の書き替えを申し入れました。ドロテスさんやスクルラさん等、ザキュの工房で材料を作ってくれる人達とのレシピの共同名義の件ですが、登録料を貰い過ぎてるとのギルドでの抗議⁉︎が受け入れられて、私の名義は消えました。元々アイデア料がこんなに長期間支払われるなんて変!と言い続けていたのが認められたのです。登録から1年過ぎた契約で私が貰い過ぎてると思った場合は名義変更が認められるようになりました。サライズさんにも適応される筈です。
話しが合わなくなったので、内容を少し削りました。
彼女達には中級の、私には上級の⇨上級の




