13 お休みは大切
私の冬休みに合わせてザキュからの商品を運んで来たお父さんと一緒に、ザキュの実家に帰りました。翌日にはサーシャ達と工房に行き、ビーズを使った新作のアクセサリーをあれこれ考えながら作りました。手芸倶楽部の友人達も集まったので、それを見本にして、其々が自分に似合う色を選んで作り、お揃いを楽しんで英気を養って来たのが良かったのか、魔法のノリ⁉︎が良いです。付与が簡単に成功するので気持ち良くブレスレットを量産しました。例の石のビーズに付与されたビーズを1つだけ加えて糸に通すだけだから、配色を楽しんでる内にあっと言う間に出来ちゃうんです。
回復の付与の付いたアクセサリーが冒険者達の間で人気だそうで、特にブレスレットは冒険者さんが購入していく率が高いそうです。と言っても、私のインベントリのビーズ以外には何故か付かないので、全部に付いてる訳ではありません。そういう訳で、付与付きアクセサリーはお一人様一つだけの限定品として、お客様が直接触れないカウンターの壁に番号を振って飾ってあります。以前は自由に触れる場所に置いといたのですが、悲しい事に黙って盗って行く人が居たのです。捕まった人は、王都のお店に高く売るつもりだったそうです。そのお店からの依頼⁉︎で無かった事が救いでしたが、困った事には変わり有りません。数が作れない物ですから、他のお店には卸して無いので、此処かお兄様のお店のどちらかにしか無いという事で狙われたそうです。因みに、王都に在る私達の店でも同じ様にして、ジイドさんが管理してくれてます。
ザキュのギルマスに相談したら、普通は魔石に付与する物で、ビーズに出来るとは思わなかった。と驚かれました。必要無いかもしれないが⁉︎と言いながら申請書を書かされました(笑) 魔法を付与された魔石の物は有ったから目立たないだろう。と言われましたが、値段の差がね、材料費がそんなにしなかったからリーズナブルになり過ぎたかな?ワイマール様にギルドでも販売して欲しいと泣かれましたが、付与は回復だけで販売は2店舗だけ。との主張を貫きました。面倒事は嫌いですからね。
ザキュのお母さんのお店は広く改装されて、工房とは別で教室が常設され、店内も手芸材料と製品と委託品の3コーナーに分かれて、作り手も買い手も楽しめるようになっていました。委託品の棚は移動枠で細かく仕切られた場所を、期間によって料金を決めて貸し出す様になっています。代行販売になるので、依頼人毎に会計を別けるのだそうです。教室の生徒さん達の希望で作ったコーナーですが、一点物が殆どなので意外と人気のコーナーになってます。誰も持っていない、まるで自分で作ったかの様な出来上がり。それが味があって良いそうです(笑)
実は、私もレース編みのアクセサリーや、編み物、布小物等の試作品を出しています。お店で出す商品にする為にいろいろ試作品を作ってますが、流石に全部採用されるわけでは無いのです。色合わせがイマイチだったり、理由はそれぞれですが、だからこその一点物になります。値段は正規商品の2割引程で、場所は一番下の空いている処に置いてもらってますが、気付いた人が出て来た様で、『こっそり出してるのに取り合いになる事が有るのよ。』と、お母さんが笑ってました。何の付与も付いてないのですけど、私が作った。って事が良いんだそうです(笑)製品だと同じ物をみんなで大量に作るので、私の作った物でも特別感が無くてつまらないのだとか。
王都のお店の商品用にマジックバッグも作り、ブレスレットと一緒に、材料費をお母さんに計算して貰って、製作費と合わせて、仕入れ値段の請求書を書いて貰いました。支店扱いとは言え、お兄様の店は王都のギルド所属ですからね。別会計なのです。私は製作費を現金で貰いました。お小遣いには大金ですが、進級する時の買い物の為に必要になると思うのです。まぁ、ギルドカードの中には使い切れない⁉︎程有るので、余程の事が無い限り大丈夫だと思いますが王都のギルドに行きたく無いので。お父さんと一緒に行ってザキュのギルドで確認した時は残高に驚きましたが、塵以上な金額が毎月入金されているのですから当然です。自分の作品関係の稼ぎだけでも充分な気もします。そろそろ、スクルラさんとドロテスさんに登録の権利を返上したいです。
王都に帰る日が近づいて来たので、サーシャを採取に誘うとトリスが付いて来ました⁉︎ あの一件から勤め先は変えたそうです。私達家族やスターシャ伯母さんに睨まれましたからね。今日はたまたま挨拶に来ていたそうで『女の子だけなんて危ないから護衛してあげるよ〜』と付いて来たのです。私はまだ警戒してますけど、サーシャにしてみれば仲の良い従兄弟なのでしょう。此処の森なら魔獣は余り出て来ないし、索敵を掛けて誘導しましょう。後ろを向いて溜め息を一つすると私は歩き出しました。通い慣れた獣道を抜けて、サーシャの探している染料の実が生っている場所へ向かうと、そこにサーシャとトリスを残して私は薬草を採取に別れました。と言っても見える処ですけどね。私は彼を信用していないので。採取しながら観察してみましたが、トリスはサーシャが好きなだけみたいですね。彼にとってお邪魔なのは私かも。
魔獣はスライムが数匹出て来ただけで、トリスが拾った棒で叩き潰してはサーシャに報告してましたが、サーシャは私の実力を知っているので苦笑いしてました。どちらかと言うと、重い籠を渡されて、大量の採取物を運んでくれている方に喜んでいる様に見えます。サーシャにもマジックバッグは渡してありますが、今回は染料になる木の実なので、万が一バッグにシミが出来たら!と、採取物を入れたく無いのだとか。中で混ざるわけでは無いから気にしなくても⁉︎と思うのですが、外側が汚れても困るというのはサーシャのこだわりなんでしょうか。
私が1人で薬草を摘んでいる時に一角兎が数匹現れたので、何時ものように水魔法でさっさと倒しインベントリに仕舞っておきました。サーシャの家で別れる時に1匹をスターシャ伯母さんにお土産に渡したら、何時の間に倒したの?と驚かれましたが、窒息させるだけだから騒がれないし、そんなに時間も掛からないのですよ。トリスは『私はサーシャを庇ってスライムを倒していたから気付かなかった。』と言い募ってましたが…サーシャの意識としては、スライム位で大騒ぎする面倒見の良い従兄弟のお兄ちゃん。って処なのでしょう。ご愁傷様です。
ザキュでの楽しい時間も終わり、帰りもお父さんに乗せてもらって王都に行きます。お兄様に請求書と品物を渡して、ギルドでお母さんの工房宛に入金すれば依頼完了です。でも王都のギルドは私には鬼門なので、ギルドで入金はお兄様の仕事です。それにしても、私はザキュでのんびりと暮らしたいです。王都はいろんな処に鬼門が在りすぎて息が詰まります。お兄様にはごめんなさいですが、後2年我慢して魔術学校を卒業したら絶対に帰ります!
文化祭でポーション作成の時に同じ錬金術を取っているリアージュ様やソリアス様と仲良くなり、何かと絡んで来ようとするウォルフ様達から庇って頂ける様になったので、冬休み明けの学校は楽しく感じるようになって来ました。授業も1年の総まとめになって来て、学年末の進級クラス分け試験が迫って来たので、3人で勉強をする事になりました。座学なら私でも教えられますので、場所は放課後の食堂を借りる事にしました。
『図書室に行って資料を揃えて来ますので、席を確保して頂けませんか。』と頼み、本を借りて食堂に行くと、そこには先輩方を含め結構な人数が居ました。流石に試験結果にクラス分けがあるからみんな熱心だね。と思いながらリアージュ様達に近づくと、『私は婚約者のアリスト様に話しただけだったのよ?ただ、周囲で聞いていたみたいで…』と訴えられました。其々が勉強しに来たのでは無く、ついでに私に教わろう。と集まってしまったみたいです。
結局、アリスト様のお友達の方々が教師役でまとめて下さって、アリスト様と私達の4人が少し離れた席で勉強を始めたのですが。いつの間にか私の説明を全員が聞いてました。先輩方まで頷きながら聞いていらっしゃるのが腑に落ちませんが?『範囲も広いし、一回に集中しても覚え切れない…』という話しになり、『試験まで毎日集まろう。』と決まってしまいました。実質10日も無いので仕方ないか?と諦めて勉強していると、気付いたらメイスン先生まで覗きに来て、私の説明をメモしているのです!何故⁉︎
試験結果ですか?私は当然トップでしたが、一緒に勉強していた人達も上位を占め、2年生でも一緒にAクラスで学ぶ事になりました。3年生になったアリスト様とお友達の方々もAクラスだそうです。でも、毎年数人位しか変わらないそうで、殆どが同じ顔ぶれで3年間を過ごすとおっしゃってました。アリスト様は元々上位の成績だったそうですが、『今回はトップを取れた!』とリアージュ様経由で喜んでいた話しを聞きました。幼馴染に頭の良い方がいて、どうしても抜けなかったので、最高に嬉しかったそうです。
因みに、AクラスからBクラスに落ちたのは、ウォルフ様とその取り巻きでしたので、何と言うか、ざまぁ。ってこういう時に使うのね。なんて思ってしまった私がいます。実技はそれ程酷く無いように見えましたが、座学のマイナスがそんなに悪かったという事でしょうか?Bクラスの方が優秀なだけかもしれませんけれど。
さて、無事に新学期の準備も終わったので、お父さんを待ってザキュに帰りましょう!今回はお店をジイドさんとアリエス様にお願いして、お兄様も帰宅します。大切な話しが有るのだそうです。『家族全員が揃った席で話すね。』と言ったきり何も教えてくれません。気になります。
春休みという事で、すぐに王都に帰るのですが、少しでもザキュを満喫しなきゃ。と、馬車の中で考えていると、気配察知に何かが引っ掛かりました。静かに馬車を停めて貰い外に出ると、ホーンディアが1頭、何かを追い掛けて走って来ました。私は落ち着いて水魔法を使い、数分でホーンディアを倒しました。お兄様が出て来て呆れた顔で見て来ますが、仕方ないですよね?インベントリに仕舞いながらお兄様に『ホーンディアは初めて獲りましたが綺麗な毛皮になりそうですね。』と話していると、『シャルが居る!って事は、やっぱり妹ちゃんだぁ。ホント綺麗に倒すよなぁ。俺、自信無くしたわ。』と、木陰に座りこんでいたのはレゾルブ様でした。
王都の冒険者ギルドで依頼を受け、ボアを探して森を探索していたらパーティーのみんなとはぐれ、ホーンディアに見つかり追い掛けられてしまったそうです。前回も思ったのですが、レゾルブ様は索敵や気配察知が出来ないのでしょうか?迂闊に突っ込んで藪蛇になりたくないので黙っていますが。私達まで此処に留まっていても仕方ないので、その場でお別れしてザキュへ帰りました。
流石にホーンディアの解体は出来ないので、冒険者ギルドで解体依頼を出して、お肉の美味しい処と皮と魔石を貰う事にしました。角も綺麗ですが『これは是非売って欲しい!』と頼まれたのです。ホントは皮も欲しそうでしたが、これはお店で鞄を作りたいので譲れません。お肉も半分以上売ったので、明日からレストランのメニューが変わりそうです。
やっと家に帰り、お母さんの作った夕飯を食べ終えました。お兄様がテーブルでコホンッと咳払いをして、『報告というか、相談したい事があります。』と切り出しました。




