12 女神様に感謝
新学期が始まり、軽く認識阻害を掛けて登校して様子をみました。『タブロイド先生は王宮に呼び戻され、学校を去りました。』と簡単な説明があり、2学期からは副担任のメイスン先生がそのまま担任をしてくれるとの事です。大人しい先生なので、ほぼ貴族の子弟が集まるクラスの担任を任されて少し不安そうです。認識阻害を外して受けたホームルームが終わり、そっと周囲を伺っても夏休み前の様な嫌らしい視線が来ないので、休憩時間もそのまま教室で本を読んでみましたが、誰からも声が掛かりません。やったね。たぶん、先生達を起点に記憶操作がされたせいで、私に何らかの不利益を与えようとしていた人達から、私を利用しようとする記憶が消えた。と思われます。必要以上に注目されない日常生活を送れるなんて何年ぶり⁉︎と、女神様に感謝を捧げながら授業を受けて、ランチを食べに図書室に向かいました。
司書室の扉の前で一瞬司書の先生の記憶も消えていたら…と躊躇ったものの、その時は教室を間違えました。って謝って出てこよう。と開き直りノックしましたが大丈夫でした。良かった。図書室でも騒動は起こらず、静かに読書を楽しんでから普通に本を借りて午後の授業を受け、騒動に巻き込まれる事も無く帰宅。気分良く宿題と予習を済ませて、さて、夕飯は何を作りましょうか。まだ暑いのでさっぱりした物でも食べたいですね。
食後のまったりを堪能して、お兄様と商品の相談をしているとお母さんから講習会の連絡が来ました。お母さんのパッチワークチームと、ライラの編み物チームの2講座を新たに開講してはどうか?と言うのです。ザキュの街でもスターシャ伯母さんの店で、レース編みの講習会を開く様になって、編み物の幅が広がっているのだそうです。王都では、ビーズアクセサリーが流行っていますが、他の店舗では製品やキットをザキュから買い入れて販売しているだけ。私は『まだ学生だから〜』と教えるまではしていませんので、お母さんが先生をしているビーズの講習会に人気集中な状態です。『自分が作ったオンリーワン』のポップが付けられた、キット以外の単色ビーズコーナーは幅広い層に人気です。ワイヤーなどの材料も扱っているので、作り方を聞かれる方も多いそうですが、アリエス様が適当にあしらって、講習会の予約に繋げて下さるので、講習会の予約待ちが増えている状況です。そこで、ワイマール様からの依頼の手芸教室なのですが、お母さんはビーズアクセサリーだけの開校では勿体ないと考え、今回の講座はその為の布石だそうです。
因みに手芸教室は、新年から商業ギルドの会議室を借りて毎週末に開かれます。現在講習会の常連となっている方から講師の手伝いをする方をお願いするそうです。ワイマール様が建物を確保なさったら、本格的にギルド主催の手芸学校として開校されるそうなので、それまでに講師としての技術を培ってもらって、お母さん達の代わりに講師になってもらう予定。と聞いてます。『王都のギルド主催の学校なのに講師がザキュばかりって、ちょっとね。』とお母さんは考えているそうで、『ビーズ手芸以外の講師には王都の店や工房からも出して貰いたい。』とワイマール様にお伝えしてあるそうです。学校を巣立った職人さん達が活躍するであろう数年後が今から楽しみです。…卒業後、ザキュにばかり就職先を選ばれたら面白いけど。
店に貼るポスターには、2講座が新たに増えましたけど、人数制限も引き続き有り、予約の無い方が当日申し込まれても参加は出来ません。と大きく書き込みました。予約された方には講習料金を納めて頂く代わりにリボンブローチを渡し、当日付けて来て貰う事にしました。
今日はホームルームの時間に、メイスン先生が文化祭の話しを始め、研究発表にするか、催し物にするかを相談する事になりました。『タブロイド先生が居たら空間魔法の研究発表で盛り上がれたのに。』という声も上がりましたが、残念ながらそういう勉強をする前に王宮に戻られたので、『今の自分達で出来る物は何だろう?』という方向にメイスン先生は誘導されました。私以外は小さい頃から魔法の教育を受けていたので、私より出来る事は多いでしょうから、口を挟まず聞き耳を立てています。と言うより、私が出しゃばる意味が分かりませんからね。
メイスン先生が各自の得意な魔法を黒板に書き出してます。最後に私が聞かれ、『気配察知と、初級魔法です。』と答えると、『座学の平民だからなぁ。』と嘲る声がします。確か、最初に中級魔法に成功した男子学生だったでしょうか。先生が睨んでもお構いなしで、『彼女は綺麗な字を書くから、ポスターなどを書いてもらって参加した事にしてあげれば良いのでは?』と続けます。『どうせ魔法は使えないのだろう。』という蔑みを含んだ副音声を無視して、私も無駄に目立ちたく無いから『ありがとうございます。助かります。』と答えておきました。気を良くした彼が出したアイデアに、他の人達がどんどん意見を加え、最終的に別物になったのは内心笑えましたが、無事に役割分担も済み、私はメモを片手にメイスン先生と予備室に行きました。ポスター用の紙と書く物を借りて、『1のA ドリンクルーム』と看板を書き始めました。用意した飲み物の種類とお値段を書き込み、教室の前に立てるのです。因みに、何処で魔法を使うのか?と言うと、お客様に冷やすか温めるかを選んでもらって、温度を調整するのに使います。つまり、初級魔法で充分対応出来るのですよ。メイスン先生はご存知ですが、私は錬金術の講座も受講しているのでポーションが作れます。先生からの依頼で看板のスミにスペシャルドリンク時価(笑)と加える事になりました。『これで魔術学校らしいメニューになる。』と、ホッとされてました。薬草は乾燥させてインベントリに入れておけば鮮度の問題は在りませんし、週末にでも城壁の外の森に採取に行きましょう。文化祭前日のギルドの値段でメイスン先生に販売する約束になってます。錬金術の講義を受けているクラスメイトはいますが、お貴族様と一緒に採取に行きたいとは思えないので、私がまとめてギルドで購入した。という事にします。
夕飯の時にお兄様に『森へ薬草などの採取に行きたい。』と告げると、週末にお店を休んで一緒に行く事になりました。お店はジイドさんとアリエス様にお願いする事になりました。ザキュにいた頃は街外れの森でこっそり採取していたのですが、王都の門を出るには、たぶん、冒険者ギルドの登録カードが有れば違ったのでしょうけど、商業ギルドカードの私一人では敷居が高いのですよ。次の日、クライド様がお店に駆け込んで来たのは誰情報でしょうか‼︎(怒)
リュックタイプのマジックバッグにお弁当を入れて森に向かいます。お兄様とクライド様が頼んだ冒険者さんは上級学校時代の同級生で、男爵家の次男さんだそうで、風魔法が得意だそうです。私が薬草や、木の実などを採取していると、ホーンラビットが出て来たので咄嗟にウォーターボールで頭を包んで窒息させました。冒険者さんはギョッとされましたが、『皮も使える魔物にはコレが一番効率が良いのです。スライムとかゴブリンとかはお任せしますが、皮やお肉に価値が有る場合は任せて下さいね。ベア種ぐらい迄なら対応出来ますので。』にっこりと笑って了解を得ました。何やら小声で呟いて頭を振ってますが、気にしないでおきましょう。マジックバッグはお兄様も持って来ているので、魔物はそちらに入れてもらう事にしました。お兄様も私のインベントリを知られたくは無いですからね。
ランチにはこっそりとインベントリから出したサンドイッチと飲み物で済ませ、思う存分採取と狩りをしてご満悦な私と、苦笑いのお兄様。何故か項垂れている冒険者さん。『だから、楽な依頼になる。って言ったでしょ。リルルは昔から魔力操作が上手いんだ。それで魔術学校に進んで錬金術を学んでいるんだ。うちのポーションの一部もリルルが作っているよ。』とお兄様が話し掛けています。
あれ⁉︎ご存知無かったのかしら? 『味が美味しい。』って噂になりましたが。錬金術の先生に拠ると水魔法で出す水を使うのは基本で、更にその水の純度上げの精製まで出来る事が私のポーションの味の差になったのでしょう。
私の気配察知の方が上だから。と言われて、午後は冒険者さんも採取に参加されました。『薬草採取のコツを教えて欲しい。』と頼まれましたが、お兄様から『自分で努力しなさい。見て覚えるのは良いけど、教わるのはおかしいだろう。リルルも簡単に教えなくて良いからね。』と叱られていました。えっと、護衛依頼は何処に行ったのかな?そっちの方が問題な気がしますけど…⁉︎ まぁ、近くに魔物の気配は無いから良いか?
文化祭前日にメイスン先生に渡した薬草は、通常の薬草より質が良いと誉められました。インベントリに直ぐ入れたから鮮度も良いし、採り方も基本に忠実ですからね。当然です。早速、他の同級生とポーションを作成して、メイスン先生に保管してもらいました。当日の販売は免除されたので、お兄様とクライド様、護衛をお願いしたレゾルブ様の4人で見て回りました。相変わらず人気者の2人に、私が弾き出される場面もありましたが、咄嗟に認識阻害を掛けて逃げました。一瞬で私の気配が消えたので3人は慌ててましたが、お兄様達の影響を忘れていた私が悪かったので、ごめんなさい。こっそりとお兄様の袖を引いてメモを渡し、Aクラスで待ち合わせる事にしました。
認識阻害を消してAクラスに行くと、此方も賑わってます。看板に何か書き足されています。『ポーションは1人1つまで』アレ?『やった!当たりのポーションだ。』『私のはハズレみたい。味が悪いし。』様子を見るに、ハズレが若干多め⁉︎ うーん、8割ぐらいは私が作ったから、当たりの方が多い筈なのに⁉︎と思っていると、いつの間にかメイスン先生が後ろにいて、『余りにリルルさんのポーションの出来が良かったので、錬金術の先生に値段設定の相談したのよ。そしたらね、半分取られちゃって、代わりに他の生徒のポーションを渡されちゃったの。もう、酷いわよね!でもね、リルルさんの為だから〜って言われちゃうとね、仕方ないかな。って。」と話し掛けて来られました。最初、私のだけお値段高めで。と相談したそうですが、『それではリルルさんが悪目立ちしてしまうだろう。混ぜてしまった上で、一般的な生徒の品質のポーションが多い方が、一緒に作った生徒も、リルルさんのだけが良かった訳では無い。と勘違いし易いだろう。』と説明されたそうです。
『リルル!急に消えたら驚くだろう。心配したよ。』と、お兄様に抱きかかえられました。いや、この年で子供抱きされるのも恥ずかしいのですが。『お兄様!降ろして下さい。恥ずかしいです!』と言うと、クライド様が『私達を心配させた罰だね。シャルが嫌なら私が代わるよ。』と言うではないですか。勿論、直ぐに認識阻害を掛けましたよ。お兄様の腕の中ですからね、お兄様には効きません。クライド様とレゾルブ様もピンっと来たらしく、お兄様に『居るの?』と聞いてます。私も徐々に薄くしていって意識すれば判るようにして、ポーションを買いに並びました。私が選んだので当たりポーションばかりですが、私はレベルの違いを知りたかったので、敢えて違う人のを飲んでみました。なんかドロッとして喉に貼り付く様な感じです。水魔法でコップに精製した水を出し、そっと流しました。うーん、此れがハズレかぁ。味の違いだけでは無いですね。
因みに、メイスン先生から受け取った薬草代は護衛依頼の代金としてお兄様に渡しました。今日のお小遣いにもなってます。




