10 新しい朝が来た
魔術学校の入学式は、美しい銀髪の学長先生が学生の心構えを長々と語って下さったお陰か、倒れる女生徒が数名出た位で終わり、教室に移動しました。私はAクラスで、担任のタブロイド先生は珍しい空間魔法の専門だそうです。このスキルが無いとマジックバッグの付与が出来無いのですが、このスキルを鍛錬で授かる事は難しいそうです。私は神様に頂いたので持ってますが、取り敢えず、内緒。『生まれ付きで持っている人が稀には居ます。ですが勉強⁉︎というか修行⁉︎の結果得る事が出来無い訳じゃ無いけど非常に困難だから、それでも頑張れる!と覚悟を決めたなら、スキルを得られる保証はしないけど教えてあげますよ。』とおっしゃってました。
自己紹介の結果、平民はやはり私だけでした。私の名前を聞いて反応した人が何人か居ましたが、気付かないフリです。店の事を知っているだけならまだしも、シューマッハ様の奥様の影響を受けた方でしたら関わらないが正解ですからね。此処での私も本の虫作戦です。目立たない、無害な平民。ホントは認識阻害を掛けたい位ですが、魔術学校では逆に悪目立ちですからね、魔力を使わずに気配を消す方向で頑張ります。
…と思ってた頃も有りましたね〜 ホント、遠い目です。初日から学長室に呼び出されて、タブロイド先生が私の担任に成りたくてわざわざ学校に来たとか聞かされました。私の空間魔法のスキルがバレてました。新年の売り出しの福袋に使ったバッグ、インベントリの革をポケットに使っていたので、そこがマジックバッグになってしまっていたみたいで、それに気付いたお兄様が魔道具コーナーでそっと売り出してくれていたのです。タブロイド先生は『魔法の性質?から製作者を捜したらリルルさんに辿り着いた。まだ子供で、しかも魔術学校を受験して合格している!という事が判りここに来た。』と言うのです。タブロイド先生は今の所属も王宮魔術士のままだそうで、とても良い笑顔をされました。私は此処を選んだ理由を、『偶然マジックバッグが作れてしまったので、魔法をキチンと学びたいと思った事がきっかけで、兄の店の為にも魔道具が作れたら良いと思って魔術学校を選びましたが、将来は母の跡を継いで手芸店を経営して行きたいので、王宮魔術士は目指しておりません。』とダンブルドア学長先生に訴えました。流されて良い事は無い。と、王都に来てから目一杯沢山これでもか!と学びましたからね。私の話しを聞いたダンブルドア学長先生はタブロイド先生に目配せしながら、『入学したばかりで卒業後を語るのは早計だ。先ずは3年じっくりと勉強して決めなさい。』と、部屋から送り出してくれました。
教室に戻り帰り支度をしていると数人に囲まれました。クライド様のお知り合いらしいく、お兄様の事もご存知だそうで、『シャルさんは優秀だったから姉も狙って居たがクライド様が鉄壁の守護者でね、誰にも捕まらずに卒業してしまったみたいだけど、リルルさんはどうなのかな⁉︎』とか話し掛けて来ましたが、速攻無視したいです!すると、彼等の背後から、『囲い込んでイジメは良くないなぁ。』とタブロイド先生の声がしました。『私達はリルルさんと話しているだけで、虐めていません。』と先程の人が答えると、他の子達もうんうんと頷いてます。タブロイド先生に注目が集まっている間に、私はそっと移動して出口に向かうと、『皆様お気遣い頂きありがとうございます。けれど、私はただの平民なので、どうぞお構い無くお願い致します。』と俯きがちに声を掛けてさっさと帰りました。
この事があってから、授業時間外は極力認識阻害を掛けて過ごしています。使えちゃう魔法なのだから自重無く使います。お昼休みは基本的に図書室の片隅に居ます。貸出返却の際だけは認識されないと困るので外して、なるべく気配を消して対処してましたが、其れを狙った生徒がカウンターの周辺に群がるようになった為、司書の先生に私が叱られてしまいました。ダンブルドア学長に呼ばれて説明すると、私だけは休み時間なら何時でも貸出対応をしてもらえる事になりました。此処でも私を利用しようとせず、友人扱いしてくれる人を見つけるのは困難のようです。ただ、司書の先生とは段々打ち解けまして、司書室をランチに解放して下さる迄になりました。私の知識欲と本に対する情熱が認められたのだと思いたいです。
休日に教会を訪ねて女神様に近況報告をしました。将来は母の跡を継いで手芸で身を立てたい。と相談すると、私の過剰な魔法の才能を一部封印する事になりました。空間魔法の才能だけでも先生方に目を付けられているみたいだし、これ以上お貴族様に関わりたく無いので、今使ってるスキル以外は基本の火水風土の初級魔法のみを使用。になりました。鑑定や回復、空間、認識阻害、隠蔽は既にスキル持ちなので使えますが、ステータス上は隠蔽されてますので、自己申告しなければバレない筈です。(タブロイド先生とダンブルドア学長にはバレてますが。)
能力の一部封印をしてもらったお陰で、座学こそはトップを取ってしまいましたが、実技は平均をちょっと下回る位で済み、まずまずの成績で夏休みを迎えられました。タブロイド先生経由で辺境伯の次女様からマジックバッグの依頼が入りましたが、『直接兄にご依頼下さいませ。』と店の紹介状を渡し、私には作れません!を強調して、ダンブルドア学長にも抗議のお手紙を差し上げて帰宅すると、何故かお店にダンブルドア学長がいらっしゃいました⁉︎
兄も含めてオハナシした結果、ザキュへの帰省にダンブルドア学長の名代として、タブロイド先生が付いて来る事になりました。マジックバッグが作れる程の空間魔術士は珍しく、国で保護すべきだ。というスタンスで両親を説得して、私を王宮魔術士にする為に来られるようです。ホント迷惑!
女神様に相談の案件と、慌てて教会に行きました。このままでは私ののんびりゆったりスローライフが無くなってしまいます。私は家族の為に頑張れても、国の為なんてお題目の、一方的に利用されるだけの人生なんて送りたくありません。貴族に産まれて国に隷属しなければならない立場では無いのですから、ただの平民の私の自由を犠牲にするつもりはありません。お供えに作ってきたコンペイトウを舐めながら、『お貴族様って、お貴族様が楽する為に平民は喜んで働く。って勘違いしているよね。私の考えや希望は聞かないで無視するし、私の為に〜って言う私って、リルルの事じゃ無くて、お貴族様の事よね!』と女神様に訴えると、『じゃあ、今回関わった人達の記憶を消しておきましょうね。取り敢えず、ダンブルドア学長とタブロイド先生を軸とした役人や貴族かな。うーん、コンペイトウが甘くて美味しい。本当にお砂糖だけでこんなに美味しくなるなんて、リルル、お菓子屋さんも遣ってくれて良いのよ。』と微笑んで下さいました。
タブロイド先生はザキュに付いて来たものの、何の為に来たのか思い出せず、キルティングのバッグやビーズのアクセサリーをお土産に買って帰られました。因みに、技巧神様のお陰でインベントリのパワーストーンビーズには付与が掛けられるので、回復魔法の掛かったブレスレットが時折混ざっています。買った人達からは『大当たりが有る。』と噂されています。スクルラさんに、水魔法を使って、石に穴を開ける提案をした処、お弟子さんの中に水魔法を使える人が居て、早速試したそうです。段々と石を小さくして、穴の大きさも細く出来る様になったと、とんぼ玉位のビーズを持って来てくれたので、量産してもらい、パワーストーンに似た石のビーズが出来たので、ブレスレットを作る時に混ぜる事が出来たのです。タブロイド先生の購入されたブレスレットの中にも、この石のビーズに混ざってパワーストーンのが有り、ダンブルドア学長に渡ったそうです。その所為でこのお弟子さんの処にもタブロイド先生がお邪魔しに行ったらしいのですが、ステータスを確認した結果回復魔法のスキルは見つからず、工房に居た他の人達の中にも当然見つからず、真相は藪の中に消えました。実はタブロイド先生が制作者を訊ねて来た段階で、お母さんがピンと来て『工房でまとめて作ってるから、誰がどのブレスレットを作ったのなんか判らないわ。』と惚けて遣り過ごしてくれたのですよ。あらかじめ、回復を付与したビーズを混ぜて預けて置いたのも良かったみたいです(笑)
私の夏休みは、サーシャとベルトを活かした服のデザインで盛り上がり、共布ベルトのスカートやワンピースと、革を使った男物のベルトを数点ずつ、それにベルトに通したらウエストバッグになるようなポーチも作ってお土産に持ち帰り、新学期が始まりました。
アリエス様には大柄の花模様の生地で作ったスカートと共布のポーチを渡し、ジイドさんとお兄様には革のベルトと革のポーチを渡しました。私は前ボタンにしたフレアスカートを履いて、ベルトの締める位置でウエストの調節が出来る事を見せて、紐で縛るより簡単に調節出来ると説明しました。リボン結びは可愛いけれど、綺麗に結ぶにはコツがあるらしく、結構難しいので、ベルトの有効性を強調してみました。アリエス様には、ザキュで登録、販売されている物を購入して来た事を伝えておいたのですが、やっぱり、ワイマール様が飛んで来ましたね。今回はドロテスさんが環の応用をスターシャ伯母さんと協力して作ってたので、私は知りませんでした。と知らんぷりしてみました。(笑)




