第一話 始祖の魔女
腰から落ちたのかなあ、とても腰が痛むのだけど。
第一話 始祖の魔女
少し意識が飛んでいたらしい。濁る視界を左手で擦る。腰から落ちたらしく、未だ断続的に痛みが波紋の様に広がる。
「ここはどこだ、だけど確実に僕が居た世界では
ないな」
一人でボソリと呟く。この穴の底は、そこらじゅう、明るい紫や濃い緑のツタ植物が壁を覆っていた。それだけではなくたまに見受けられるツタに格段に肥大化していて不思議な形状の花も咲かせている。その花には、虫が屯しており、それら淡く多彩な光で煌めいていた。
場所を把握する為、尻餅を着いている体勢を整え、片方の膝から立ち上がりながら衣服の埃を払う。正面に目を向けると、いかにもココが入り口だぞと言わんばかりの圧で大きな洞窟が構えていた。
「本当に不思議だな、しかも奇妙だ。此処は上を見上げても落ちてきた穴が消えるくらい深いのか」
少し狭い植物の壁に手を添えて、一歩ずつ慎重に足を運んで行った。洞窟の入り口を頭が過ぎた途端に妙な歪みを感じた。そう、例えるのならば
ジェットコースターで高い地点から急降下していく感覚。体から緊張が抜け、それを埋めるように
入り込む不安。その感覚を噛みしめながら拳を握りしめ、ただ一点暗闇の中、恐怖故に生まれた妄想である幻影を睨み、前進する。
その状態を小一時間続けた時、洞窟の消失点からほのかに橙色の灯りが姿を見せた。その灯りに希望を感じたのか、心が躍り出した。重苦しい足取りは軽快な踏み込みで不安の手を引っ張りながら共に走りだす。灯りがその場の間取りを段々と
照らし出す。
「……はあ、やっと明るい場所へ出られた。必ず人が居るはずだ。しかし、人の気配は無いな」
その台詞を口に出してしまえば、この住居の様な場所に居るであろう主に聞かれるかもしれないという判断から脳で語る事にした。
ふと背筋を伸ばす。居る。何処かに居る。確かに、この同じ部屋に居る。それだけを察知した僕は、一歩足を引いた。しかしそれは、引き金へと
変わった。背中に感じた柔らかい感触は、大地の温もりと言っても過言ではない、触れた途端に吐かれた吐息からは、女神の抱擁に限りなく近いモノを感じた。
「最近の若い子はとても大胆なのね」
優美な声に翻弄され一時停止するも、右足を起点に約百八十度の素早いターンを繰り出した。
「だ、誰だ!お、お前の名前は何だ!!!」
途端に発した怯えた問いに対し、彼女は一息入れて優しく微笑む。
「クックックッ……我の名か!よくぞ訊いてくれたなあ!では遠慮なく言わせてもらおう!」
先程の甘い声とは全く異なる甲高く猛威を放つ咆哮で名を告げた。
「我の名は、ティア・ナンム!この世界の始まりを司りし、今日まで世界の調和と破壊、再生と
滅亡を繰り返し、この世界を淘汰、支配を続けて来た。そう、言わば、我こそがこの世界の………スゥーー、『始祖の魔女』である!!!」
意気揚々と告げられた自己紹介。
僕は、口をポカンと開け、只少し肌蹴て淫らなその衣装を眺めるだけだった。
「……ステキナジコショウカイ、アリガトウゴザイマス……タ」
「なんじゃその腑抜けた返し。フヒヒ!貴様、
中々面白う奴よのう!」
第二話へつづく!
この魔女さん、変な笑い方だなあ。