企み
翌朝、気が滅入ったまま登校した音哉は自分の席に着くなり机に突っ伏していた。
親友 啓は、登校してすぐその異変に気づき、どう話しかけようか眉を寄せて様子を伺っていた。
「おっはよー啓!……どうした?」
「おはよう仁。あれ、どう考えてもなんかあったよね」
二人に遅れて登校してきた元気印 仁に、小声で音哉の様子について相談する。瞬きして3秒程黙っていた仁は、そのまま真っ直ぐ音哉に近づいた。
「はよー音哉!寝てるんじゃねぇよな?」
「ちょ、仁!」
「…………起きてる」
「どうした?ん?何があった?俺らに言ってみ?親友だろ」
仁は音哉のテンションなど気にも止めず、音哉の前の席に腰掛けながら話題を進めていく。
啓も呆れながらも音哉の傍に歩み寄った。
「……俺、今回のテスト、オール赤点だった」
「おう!俺もだ!」
「威張ることじゃないから。……でも音哉、そんなことで落ち込んでるんじゃないよね?」
「だよな?テストとか、お前は学力社会、大人の理屈が大嫌いじゃん。そんなの気にしねぇだろ」
顔をあげた音哉は頬杖をついて、仁と啓を見る。
この2人とは、同じ考えを持つ、同士的仲でもあった。
一般論に流され、個性を失い、学力社会に取り込まれる社会人
そんな社会、そんな大人たちが、この3人は大嫌いだった。だから、音哉がテスト結果に落ち込むなどあり得ないと思われていた。
実際、音哉もテスト結果など鼻で笑うほどどうとも思っていなかった。
落ち込む理由はその先にある。
「俺に、家庭教師をつけるらしい」
「家庭教師ぃ!?」
「嘘!?」
「勿論、すんなり受け入れる気は更々ない!どうにかして、その家庭教師を追い出すつもりだ!」
「追い出すって……例えばどうやって?」
音哉本人より取り乱している仁はさておき、啓は困惑した顔で音哉の計画を伺う。
「あー……ほら、俺金髪だし見た目からしてもうやる気ないじゃん?だから超不真面目を装って授業不可能にして、家庭教師に辞退してもらう、とか」
「……あぁ、そういうのなら……よかった。」
「よかった?何が?」
「いきなり手出して暴力沙汰だったらさすがに不味いと思って」
「喧嘩っ早いみたいにいうなよ、俺別にヤンキーじゃねぇわ」
「知ってるけど……」
いざ家庭教師と対面したら、大人嫌いの音哉なら、やりかねない方法だし……
その本音は胸の内に仕舞って、啓は話を進める。仁は漸く落ち着いてきたようだ。
「その家庭教師は、もうどんな人が来るか決まってるの?」
「いや全く。昨日言われたことだし、今週探して、来週から、てのが一番濃厚かな。」
「大変だね、それじゃ今週は、」
バンッ
言いかけた啓の言葉は、仁が思いきり叩いた机の音に掻き消された。
見れば顔を真っ赤にする仁の姿。
「音哉!その追い出し作戦!俺も全力で応援、いや協力する!何をしたらいい!?何でも言え!」
「おぅ、取り敢えず、俺ひとりでどうにかするから大丈夫だ」
「………………」
「仁は、次のテストどう赤点回避するか考えよっか」
仁は、啓に自分自身の恐ろしい現実を突きつけられ、興奮して赤くした顔はすぐに青ざめた。