地獄
凍り付く空気。音哉の体感温度はどんどん下がっていく。
静まり返った室内で唯一、父の開けたビールがシュワシュワと小さな音を立てていた。
「高校3年の大事なテストで赤点って……担任の先生が本当に本当に、心配してくれてるのよ。なのに、」
「いや俺だって取りたくて取った訳じゃ」
「当たり前です!わざと何て言ったらゲーム全部処分するわ!!」
母親の怒りに身震いする音哉は何も言い返せずに視線を下に流す。母親はため息を吐いて父親に視線を送った。
「これが続くと留年もあり得るって……だから、方針を変えるしかないと思って」
「……ぇ、まっ、母さん!次は挽回するから!」
「……音哉、大体のことはお前が好きにすればいい。迷惑行為と学校の成績さえ落とさなければ。それが、条件だった筈だぞ」
「……分かってるけど、」
時村家の教育方針は基本、音哉独りの権限でできることは音哉に考えさせ音哉に一任していた。それの条件を破ってしまった今、音哉に反論の余地はなかった。
「だから、塾か、家庭教師、どちらか選びなさい」
父から告げられた、2つの地獄の選択。どちらにしたって地獄に変わりはない。
ならばここは、まだ逃げる隙のありそうな選択を選ぶべきだろう。
「……赤点回避したら、今までと同じに戻してもらえんの?」
「あぁ」
音哉は選んだ地獄を口にした。