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両親
夜8時過ぎ、自宅の玄関を開けると珍しく両親二人の声がダイニングから聞こえてきた。
両親二人は共働きで、9時過ぎに帰ってくることが当たり前だった。しかしだからと言って、家庭環境が悪いとか、夫婦が不仲であるとか、そんなドラマじみたことはなく、どこにでもある普通の関係である。
一応顔を会わせた方がいいか、いや、今日は正直会いたくない。このまま部屋に籠ろう。
独りで完結して階段の手すりに手を掛ければ、そのタイミングでダイニングに続くドアが開いた。
「お帰り音哉」
「……ただいま」
「夕御飯は?」
「友達と、ファミレス行ってきたから……」
「そう…………ちょっといい?」
「?」
母親がダイニングに来るよう手招きした。その時点で音哉は何の事か分からず、首を傾げたままその誘導に従った。
ダイニングに入れば、ビールの缶を開ける父親の姿もあった。ごく普通の光景。音哉は取り敢えずリビングの椅子に座った。向かいに両親が座り、向かい合う状況。
ここで漸く、音哉は嫌な空気を察知した。
「音哉、全部赤点ってどういうこと?」