表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

うどん食い、駆け抜けろ、絶望の果てを越えて

作者: 淀川十三

2019年。はあ。ため息。どうせ今年も大したことのない一年になるんやろな。やりたくもない仕事を嫌々こなして日銭稼いで、気づけば年越しそば食うて、「ガキの使い」みて一年が終わっていくんや。


外で人に会えば、知りたくもない芸能ゴシップを聞かされて、バラエティ番組の流行フレーズを聞かされて、聴きたくもない音楽やクソみたいな(まるで発狂した猿みたいな)ダンスが街に溢れて、「平成最後、平成最後」いうて騒ぐアホどもを尻目に、俺は家に身を潜め、静かにコーヒーをすするんや。


息抜きに吸うたばこもどんどん値上がりして、「けむたい」「ヤニくさい」言われて肩身狭い思いしてさ。こんな文句を並べるからそりゃ友達も減るし、彼女もでけへんから、雑居ビルのチャイナエステに通ってアジアの姉ちゃんに慰めてもらいますわ。まあそれは金があるときに限るけど。なんせ今は仕事してない。金にならんことを考えて、金にならん文章や誰も読まない詩をひたすら書いている。心の慰めはブコウスキーの本とビートルズの音楽。TSUTAYAと銭湯と家のこたつをこよなく愛し、穏やかに過ごす。売れない作家といえば聞こえはいいが、世間の定義では、無職。一人暮らしの今年23歳。前厄ですわ。


まあ作家いうても、本業は映画製作。この業界はフリーランスが多い。仕事を選ばへんかったら、人手不足の業界やし仕事はなんぼでもあるけど、俺はペーペーのくせに嫌な仕事は受けないときた。こうなりゃ当然、誰も相手にしまへんな。そんなことで、ここ3ヶ月くらい貯金をすり減らしながら家にこもって定年退職して隠居するジジイみたいな生活を送っていますわ。去年、飲み屋で知り合った女に(たいして可愛くもないねんけど)一回会っただけで何故か捨てられて。絶望を通り越した、虚無の心境で、MacBookの前に座ってます。釈迦のいう、色即是空ちゅうやつか。なんや悟り開いた気分ですわ。


せやから、毎日外食する余裕もないし、とうとう自炊も覚えましたわ。とはいえ包丁なんかよう使わんから、作るのは専らうどんやね。俺は年が明けた2019年もひたすらうどんをゆがいて食いまくっている。うどんほど経済的で、健康的で、手軽で、その上バリエーションが多いものはなかなかあらへんで。諸君よ。カレーうどんや、ハイカラうどん、焼うどん、味噌煮込みうどん、生醤油うどん、肉うどん。夏になれば、冷やしうどん、寒い日や風邪のときは卵とじうどん。などなど。とかく、うどんは日本が誇る史上最高の傑作フードである。


話がそれたな。やれやれ。そういえば俺は何を書きたかったんやっけ? そうそう2019年になって思うことや溜まった毒を吐き出してるんや。こんな生き苦しい、やるせない、しみったれた、不満だらけのクソ平和な世の中で、言いたいこと言えるのはこんなインターネットの荒野みたいなところしかないんですわ。「世の中のせいにするな」と世間はいいますけど、世の中にでも当たらへんかったら俺はどこにこの不満をぶつけたらええんや。三島由紀夫みたいに腹切ったらええんか? 不満のはけ口も潰されるから、日本は自殺者が後を絶たないんじゃないだろうか。言いたいこといえて笑ったり怒ったりできる世の中になればきっと自分で自分殺める人は減るだろう。俺は人に話せないことはこうやって文章にする。まるで飯食ってクソするように、俺は不満をためて、文章にして吐き出す。だからここまで読んだみなさん。こんな吐瀉物みたいな文字の羅列を叩きつけられてさぞかし気を悪くされたでしょう。


小説家になって、この気持ちを文学に昇華でけたら、さぞ気持ちのええことやと思うけど、俺にはそんな文才あらへんからこうやって頭に浮かぶことをひたすらサンドバックをしばくボクサーみたいに、殴り書きしていくんですわ。できるだけ、おもろくなることを祈って。さあ続けよう。言葉に制限はない。俺はまだまだ書き続けられる。いいペースだ。孤独の長距離ランナーの気分ですわ。なにを書くんやっけ? そう2019年について。これから先の未来の話。明るい未来の話をしよう。


2019年ってなんやキリが悪い。干支も最後やしムズムズする。この気持ち、あなたには分かるだろうか。2019年なんてスキップして、2020年になったらええのに。と俺は思う。どうせしょうもない年や。来年は東京オリンピックもあるんやし、一年くらい飛ばしてもかまへんやろ。てかオリンピックってホンマにやらなあかんのか? なんや利権争いにしかみえへんけど、まあ政治のことは詳しくないから、この話はこのくらいにしておこう。

餅は餅屋。政治は政治家に任せたらええんや。俺たち民衆が手に入れる情報は、テレビや新聞やネットを通じるしかない。彼ら政治家は生身で政治に接している。一般人が政治のことを考えるいうても、せいぜい1日に1時間もあれば多い方だろう。政治家はそれが仕事やから、一日のほとんどは政治のことを考えているはずだ。熱心な人は、セックスしてる最中も外交問題とか消費増税について考えているかもしれない。せやからいくら政治家の不祥事があるいうても、少なくとも俺たちよりは政治家に向いているはずだ。(USB知らんいうやつはまあ論外やけど)大方まともな賢い人たちや。素人が知ったかぶりで政治に口出しするのは俺は好かん。国民は自分の身の回りのことを気にすればいい。だから俺はたばこ増税には、猛烈に反対する。ハイライトが千円になった日には俺は国会議事堂に爆弾持って行こうと思う。太陽を盗んだ男のジュリーのように。


2019年の話に戻ろう。俺は今年は前厄だ。2020年は大厄。クソ。カスが。

前厄、大厄、後厄って三つあるのが腹たつ。なんで三段階になっているのか。金儲けのための宗教の陰謀だろうと俺は本気で思ったこともある。


しかし、中島らもの話によると、この厄年いうのは、どうやら統計学みたいなもんらしい。昔から人間は、その時期になると、なんや災いが起きやすいらしい。せやから用心するに越したことはないと。やれやれですわ。人生これからいうときに「災難ありまっせ」いわれるなんて。かなわんわ。

そんなわけで、俺は重い腰をあげて、さっそく近所の神社に参拝してきた。元旦の深夜2時くらいですわ。着いてみると、アホみたいに行列できてやがった。ジャニーズのコンサートか。俺は参拝は諦めた。行列に並んで待つほど俺は暇じゃないんや。TSUTAYAで借りたサモハンキンポー主演のカンフー映画を観たいし、図書館で借りた読みかけの小説も読まなあかんし、何より酒飲んでゴロゴロせなあかん。


俺は今年はもう本気マジで怠惰を貪ろうと思う。これは生半可な気持ちではない。俺は全力で気合いを入れて怠惰を貪る。ひたすら怠ける。

金がなくなったら仕方なく働く。ネットがあればなんでもできる時代。医療が発達して平均寿命が延びて、科学は発展してどんどん便利になり、働かなくても食べていける時代が近づいている。だったら俺は好きに生きてやる。全身に芸術を浴びよう。そしてできるだけ人を避けて、わずかな友人を大切にして、近所の野良猫を可愛がろう。好きな酒を好きなだけ飲んで、たばこを吸いまくる。路上で寝ても誰も気にかけない世の中、なんとでも言いやがれ、俺は好きに生きてやろう。大衆を嫌い、流行を避け、美談、美食、あらゆる美しいものを嫌い、はみ出し者や醜いものを愛する。


脱いだ靴下、洗ってないパンツ、缶コーヒーに捨てられたタバコの吸い殻、壊れたiPhone、永遠に開かれることのないガラケー、黄ばんだ綿棒、コーヒーの染みたスウェット、カップ麺の残り汁、気の抜けたビール、公衆トイレ、見捨てられた糞、待機児童、田舎のパチンコ屋、排水溝のゴキブリ、バニラの宣伝車、右翼の街宣車、消えたお笑い芸人、とっくに忘れられた一発ギャグ。ゲッツ。俺は今でも一発屋と言われ消え去った芸人たちを思い出す。応援している。まだまだおもろいから、頑張ってカムバックしてくれと、星に願う。

寒い夜、焼肉の匂い、喫煙所、ヤニの匂い、キスマーク、女のきつい香水、浮浪者のワンカップ、失われた前歯、かじかんだ少女の赤い手、母親のため息、父親の加齢臭、サラリーマンの憂鬱、消費増税、ドローン、移民問題、白人、黒人、黄色人種、爆買いの中国人、カタコトのコンビニの店員、ベトナム人、歌舞伎町、新宿二丁目、新宿ゴールデン街、大塚のピンサロ、雑居ビルの消毒剤の匂い、垂れた乳、メントスと中華そばとラッキーストライクと100人の精子が混ざった口臭。「またきてね」という悲しみの微笑み、「うん」と言うときの愛想笑い。消したい過去、忘れられた戦争、原爆、福島の原子力発電所、東電の社員、冷めた味噌汁をすする午前2時。都会のネオン、やり場のない怒り、自殺志願者、再生回数52回のユーチューブ動画、ツイッター、テロリストの孤独、三島由紀夫の腹わた、血まみれのボクサー、外れたロングシュート、空振り三振、すべった芸人、観客のため息、挑戦者の孤独、俺はそれらを胸に抱き、街をさまよう。

場末の飲み屋、ロックグラスの底に沈む、氷に溶けたウイスキー、気難しいバーテンダー、えげつない吐き気、ぐるぐる回る世界、カートコバーンのピストル、ジミヘンのギター、桑田佳祐のしゃがれ声、血にまみれたジョンレノンのメガネ。何も変わらない毎日、火曜日と金曜日の燃えるゴミの日、捨てたいプライド、捨てたくないプライド、しょうもない人生やな、と投げ捨てたハイライト。猫の鳴き声、やり場のない鬱屈したこの感情、漠然とした不安、預金通帳、残高不足、タウンワーク、ブラック企業、これからの人生、未来の恋人、あるいは永遠の孤独、それら全部を、俺は大事にして生きていく。うどん食い、駆け抜けろ、絶望の果てを超えて。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ