九話 おいしそうな名前の王女様
「私の名前はエクレア。エクレア=アル=シュピーナです。気軽に呼んでくださいね」
最後に星をつけたいぐらいの可愛らしい自己紹介だった。
よし、気軽にって言ってたし呼んでみるか。
「おい、エクレア!」
「気軽にどころじゃないじゃない! それは強すぎよ!」
安定のつっこみ、さてはエルミルだな!
仕方ないもういっちょやるか。
「エクレアちゃん!」
「それは可愛すぎね、確かに可愛いけれども」
「やぁエクレア君、どうしたんだい?」
「何故か怪しさが増したんだけど」
「あ、エクっち!」
「エクっちって、仮にも王女様なのよ!」
「か、仮にも!?」
驚くエクレアちゃん。
「全くエルミル、失礼だなぁ、ちゃんと謝れよ」
「も、申し訳ございませんでした……って! メグもなかなか失礼だった気がするんだけど!」
「そんなことはないですよね、エクレアちゃん」
「きゃっ、恥ずかしいです!」
パチンと、小さな靴で蹴られてしまった。
割とはじめの方でも呼んでいた気がするけど……。
何というか美味しそうな名前の王女様の自己紹介が終わる頃には俺たちは城から続いた隠し通路の出口が見えていた。
◇◇◇
「あら、ここってさっきの森?」
開口一番エルミルは、俺の思っていた疑問を言ってくれた。
「そうです、ここはエルフの森のちょっと深いところです」
「何でここに?」
エクレアはすぐにその質問に答えるのかと思ったが、そうではなく語り出した。
「私も、何回も説得したのです。でも駄目でした」
「なにを?」
「私は私を助けてくれた二人を助けてあげて下さいとお父様とお母様に何度もお願いしたのです! でもそれは叶いませんでした」
「酷い話だなぁ」
少しは娘の話も聞いてあげれば良いのに。
と言うか、全く考えてはいなかったけど、いわれてみれば、王女であるエクレアが説得してくれるっていう手もあったのか!
あ、でも駄目なのか。
「でも、それとこの場所と、何の関係があるのエクレアちゃん?」
いつもは頭の回るエルミルが首を傾げている。
「エクレアちゃん……やっぱり恥ずかしいですね。ですから私は自分で助けに行こうと思ったわけです。で、そのついでに私もそろそろ独り立ちをしようと思いまして!」
「え、でもエクレアって今何歳?」
エルミルに言われて「ええと……」と指を折り数え出すエクレア。
少しして。
「十三歳です! もう立派な十三歳です、この世に顕現してからというもの、もう十三と言う月日が経ちました!」
どんだけ十三歳アピールをしたいんだ!
でも十三歳ってまだ中学生じゃないか、そんな若いのにもう独り立ちってよくそんなこと考えるなぁ。
王女様だからずっとそのままにしてれば女王様になれるかもしれないのにもったいない。
俺だったらずっとお菓子とか食べて、そのまま王様になって色んな所に旅行して遊びまくりたいなぁ。
で、そうしてると段々市民が怒って来て……あれ? 俺死ぬの?
「また、変な想像してる子がいるわね。でも、別に無理して独り立ち何てしなくてもいいんじゃないの? 今の暮らしだってそんなに悪いものじゃ──」
最後までいう前に、食い気味に言う。
「だめです、私はこれからの人生をあんな針の筵の中で過ごしたくはありません!」
「おい、エルミル……針の寧ろって何だ?」
「たぶんその発音だと意味が全く違うわね、針の筵って言うのはね窮屈……みたいな意味?」
「あんな広いところで窮屈ってほど体、大きい訳でもないのに」
「……精神的なものよ」
たぶんちょっと呆れながらエルミルが小声で教えてくれた。
そうか、そんなもんなのか。
「まぁ、頑張れよ。応援してるぜ! じゃ俺たちはここらへんで」
足を前に出そうとすると、首を引っ張られた。
「ちょっと待ちなさいって、この流れでおいていくつもり?」
「え?」
おいていくも何も……?
「宜しくお願いいたします!」
何故かエクレアが俺らに向かってお辞儀をしてる?
「えええ!?」
「私をパーティーに入れてくれませんか?」
そのかわいらしい声に。
あぁ、なんて王道なパターンなんだ、と。俺はそう思った。