七話 ゼロから始める牢屋生活(サキュバス付き)
目の前には鉄の柵、そして俺らの周りには石畳がしっかりと積まれている。辺りは暗くて、となりにいるはずのエルミルの顔がうっすらとしか見えない。
さらに何か言えるとしたら俺とエルミルの手首には頑丈な鎖がぶら下げられているってことぐらいかな。
……ふぅむ。
「いや、何でこうなった!?」
とりあえず叫んでみた。
うん、もうほんと何となく。
叫んでみてなんだが、ろう屋が狭いからか、反響しすぎてうるさい。
「何でこうなったかと言えば、あれよね、あの女の子を見つけちゃったからよね!」
叫んだ俺に臆することなく答えるのはもちろんエルミル。
サキュバスは夜行性なのかやけに元気にも見える。
あーそうだ思い出した。
あの後俺たちはけんぺいたちに取り押さえられては、なぐられ、蹴られ、そしてよくわからないままにろう屋に入れられたんだった。
抵抗する間もなしに。
俺は訊く。
「あの女の子ってやっぱり王女……なんだよね」
「多分そうよ、連れて行かれる時に見たけど胸のところに王印のペンダントが付いてた」
「ってことはさ、俺らっておおざいにん!?」
王女を誘拐したとかそんな不名誉なことしたと思われてるのならもうそれは超絶大罪だ。
「そうだけど読み方が違うわ、たいざいにん。大きな罪を犯した人よ。全く、読み方ぐらい知ってなさいよ」
まさかエルミルにそんな感じの素養があるなんて思ってもいなかった。
「……エルミルってそんなキャラだったっけ? もっとこうお酒で酔っぱらってる変なお姉さんみたいな感じじゃなかったっけ?」
「それは第一印象でしょ、私ってほんとうはしっかりしてるんだから!」
えへん、と胸を張る。
胸がもともと大きいからか、なんかもうすごい絵面だ。
「その割には捕まってるじゃん」
「メグも、だけどね」
……でもどうしてもでないと行けないよなぁ。俺らって別に何かやった訳じゃないし、本当は助けようとしたんだから……いや、待てよ。
「エルミル、あの女の子の場所ってわからないか?」
「まぁ、わかるけど……それがどうしたの?」
「あの女の子に俺らがなんにもしてないっていってもらえばいいんだよ!」
はは! 何でこんな簡単な案を思いつかなかったのか、全く、自分に呆れるぜ。
「メグって本当に馬鹿なのね」
なぜかエルミルも呆れてた。
「むっ、馬鹿とはしんがいな、憤慨するぞ」
「してるじゃない、言葉遊びはさておいて、メグが思いついたその案は私だってすぐに思いついたわよ。すぐに却下したけどね」
「何で?」
これが一番手っ取り早いと思うんだけど、しかもエルミルが場所を知ってるなら今すぐにでも出来るのに。
「ほら、思い出して。あの子王女様でしょ、そんな人に会える訳ないじゃない、あと多分此処は王城の地下の牢屋エリア、こんなところから会えるとは到底考えられないわ」
話し終わるとエルミルはがっくりと肩を落としてしまった。
あした○ジョーみたいに。
「あ、じゃあどうにかしてここが壊せれば会いに行けるってこと?」
「物理的にはね、でも余計に刑が重くなっちゃうじゃない」
「王女誘拐の罪がかけられてるならもう死刑だから大丈夫だよ!」
「それは……大丈夫じゃないわね、でも一応やってみる? 暴発したーとかそんな感じの言い訳して」
「ナイスアイディア! でもどうやってやんの?」
「こうやってよ──光り輝く鉄球!!」
「おお!」
来た! あのダサい技だ!
話しながら、途中で輝き出すエルミルの腕。
あ、もちろん両手が鎖で繋がれてるから、さらにダサくなってる。
光球はゴールデンウルフの時の大きさだと俺ら二人とも完全に吹き飛んでしまうだろうけど、そこら辺は上手く調整してくれたのか、ギリギリ俺には当たってない。
そして──。
それを壁に向かって一気に解き放った。
その衝撃に部屋からは砂埃がこれでもかというほどに舞い散り、視界が一瞬真っ暗になった。
でも……。
「壊れて……ない」
壁には傷の一つも付いてなかった。
「う、嘘!? 確かに威力は下げたけど、でも今の威力なら壁一つなら簡単に壊せるはずなのに……」
「まさか、弾かれた?」
もしかしてこの壁に何かしらの細工がされていて……魔法が弾かれるとかそんなアイテム確かにないことはないけど……。
「断魔石」
と、短くエルミルは呟いた。
「だんませき? 何だそれ?」
「読んで字のごとく、魔法を断つことの出来る石よ。ある時期から流通しなくなったと思ったらこんなところに……」
そんなのありかよ! ってかそんな漢字なのか!
そんなことされたらもうどうしようもないじゃん。
ちっくしよぉ、どうにかしてここから抜け出して王女様に会わないと。
でも壊せないから会うことはできないしー!
「あーもう!」
どうしようもなくなった俺はばーんと、その場に寝っ転がった。
まるで、あの王女様の様に。
「あっ、気持ちいい」
床はとってもひんやりだった。
「メグ……なにしてるの? メグってじつは床フェチとか?」
「そんなわけあるかぁ! 違くて、なんか床が気持ちよくてさ、ひんやりしてんだよ。エルミルもやってみたら?」
「私はやらないわよ、もう少し考えてみるわ」
「そうか……じゃあおやすみぃ~」
俺はエルミルの返事を聞く前にその床の冷たさに体を任せ、状況とは反対のとても穏やかな寝息と共に眠りについた。
◇◇◇
それから何時間たったのだろうか、俺はエルミルに無理やり起こされた。
「起きなさい! メグ!」
「あ、エルミル。起こしてくれたのか、おはよう」
「メグ、おはよう今日はとってもいい朝よ、ほら、あそこに小鳥さんたちが……って! 違うわよほら、起きなさい!」
エルミルのその筋肉質な肉体に俺の体は溶け混みかけていた冷たい床から引っ剥がされた。
「よし! 起きた。で、なんで起こしたんだ?」
体を起こして目の前。
「おはようございます、メグミさん。さぁここから脱出しましょう」
そこにはこんな所にいるはずのない、いていいはずのない王女様がいた。