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六話 放たれた光り輝く……


「ふぅ……どうやら逃げられたわね」


「あぁ、お陰で俺の顔はズタズタだけどね」


 あの状況からのゴールデンウルフからの逃走は当然ながら、とても簡単と言えるものではなかった。 

 まず第一に俺の顔はゴールデンウルフに咥えられていて、そして真っ昼間ゆえに隠れようにも隠れられない。

 それに加えてゴールデンウルフのスキルである。


 ここまでの不運、本来ならどっかのSランクパーティーとかが助けにきてくれないといけないぐらいの状況だったのだが今回はどうにか凌ぐことができた。


 と言うのも逃走中のエルミルのおかげなのだ。


 ◇◇◇


「ぎゃぁぁぁ!! ちょっとエルミルッ! そろそろ本気でやばい!」


 顔を噛まれた瞬間、物理ダメージ時自動で発動するように仕掛けていた物理攻撃99%カットの盾がビキビキと到底、盾が鳴らしてはいけない音を鳴らし始めていた。

 二度の加速によるダメージが相当入っていたのかそれとも、このゴールデンウルフの噛む力が強すぎるのか……。


「っていや、ちょっと黙ってないで! エルミルッ! エルミル聞いてる!?」


「ちょっと黙ってて!」


 短く遮られた。


 ええええええー。

 俺なんかしたっけ!? いやどちらかというと今現在やられているんだけど。今、殺られそうだけど!


「よしっ! 出来たわ!」 


「なにができたの……」


「みてればわかるわよっ、ちょっと退いててね!」


 俺を咥えるゴールデンウルフを後ろから全力疾走でついてきてくれていたエルミルは更に加速し、瞬く間に俺らの前へと出現した。


 で、あの台詞である。


「退いててね……いや待て、俺がこの状況で退ける訳が──」 


 見ると、エルミルの右手にあったのは長刀ではなく、魔法で出来た光球だった。

 大きさは……とってもでかい! もう、子供なら中に入れるんじゃないかってぐらい!

 

「貫いて──」


 そして短い詠唱で、彼女の右手に顕現した紛う事なき光球はゴールデンウルフ及び俺に向かって光弾へと変化し、放たれた。


 ◇◇◇

 

「うう、痛い」


 さっき受けたあの光弾の傷がズキズキと痛む。

 特に右頬が痛くて押さえてるから、何というか歯医者に向かう子供と、そのお母さんみたいな構図にも見えなくもない。


「それにしても、危ないところだったね。もう少しで虫歯が歯茎に到達するところだったよ」


「違う、俺は虫歯なんかじゃない。痛いのはあの光弾の傷だ……ってなんで俺の想像したことがばれてるんだ!?」


「まぁまぁ、でもそれだけの傷で良かったじゃない」


「いや、まぁそうだけど。あれって何なの? やっぱり魔法?」


「魔法ね、一番わかりやすい攻撃魔法といってもいいわ。あの魔法名は、光り輝く《シャイニング》──」

 

「おお!」


 まさか、珍しく滅茶苦茶かっこいいんじゃないか!? 光り輝く光弾って書いて「シャイニングバレッド」とかそんなところか? 

 ってかシャイニングからダサくなる方が逆に難しいだろ。


「──鉄球どーん


「いや、ダサい!」

 

 思わず叫んでしまった。


「何で鉄球って書いてどーんなの!? 鉄球なら普通にアイアンボールとかでいいじゃん! いや、鉄球ってのもダサいけど!」

 

 しかも、「光り輝く」はシャイニングで英語なのに「鉄球」はどーんでひらがななのかもわからない。


「ふふっ、もうメグったらおかしなこと言うのね、とってもかっこいい名前じゃない」


 激しく突っ込んで息切れまでしかけてる俺のことを見て、きょとんと、俺の方が可笑しいことをいっているかのような風に言うエルミル。


 やっぱりこの世界の人達とは感覚が相容れないのかもしれない。


「ん? なぁあれって人かな?」


 エルミルの異常なセンスのなさと圧倒的な魔法適正を再確認したところで俺は少し先、二百メートル先に白い人? を見つける。


「そんなの見えないわよ」


「んーと、そうか」


 人って言っても寝っ転がってるような体勢なのかな? 下から生えた雑草で体の大部分が隠れている。そんな状態だからまぁ見えないもの無理はないか。

 俺も見えるか見えないかギリギリだし。


「でも、人がいるなら話しかけてみましょっか、案内して」

 

「うん」


 今度は加速を使わないで森の中を駆ける。

 エルミルはゴールデンウルフの時に見たように本当は滅茶苦茶足が速いけど、位置がわからないからか、俺の後ろにぴったりとくっついている。


「あっほんと、人だ!」


 近付くとエルミルが耳元で呟いた。


 草の中に埋もれてるのは、やっぱり人だった。

 しかもうつ伏せに寝っ転がっている。


「……って、女の子じゃん!」


 そこにいたのはうつ伏せの女の子だった。遠目では見えなかったけど、身長は俺よりも低いか、もしくは同じぐらい。

 着ている服は白を基調としたふわふわとした襟巻きの付いたローブ。

 しかし、そのローブはまるで森の中で転んだかのように所々に土がこびり付いていて、綺麗とは言えなかった。


「あら、なかなか端正な顔立ちじゃない」

 

 エルミルがうつ伏せだった少女をくるりとひっくり返し、仰向けにさせる。

 すると多少土で汚れてはいるものの、エルミルとは比べものにならないぐらい美しく、可愛らしい顔があった。

 ってか何でエルミルは上から目線で顔を評価してるんだ。


「メグ、今変なこと考えたでしょ」


 さっきから何で俺の考えてることがわかるんだよ! 


「まっ、まさか! この女の子の顔が可愛いなぁって思っただけで、エルミルとなんて比べ……」


 スキル威圧(視線)


「……るまでもなくエルミルが可愛い!」


 もう、槍投げだった。


 ……違う、投げやりだ。


「ふにゅにゅ……むぅ」


 そんなやり取りをしていると、何か寝言を言いながら少女は小さな手で目をこする。

 そして、

 

「えーっと……誰です?」


 喋った。しかも割とはっきりと喋った。


「私はエルミル! サキュバスよ! でもエナジードレインは出来ないけどね!」

 

 あっ、先に言われた! 俺がいいたかったのに! 自己紹介したかったのに!

 エルミルが言い終わると直ぐに俺の番だ、少女の番は後回しで俺の自己紹介をしてやる!


「あーっと俺はフクラメッ! なっ、何だよ何でみんな俺の邪魔を!」


 何か飛んできた方を振り向くと、俺は人生で初めて絶句した。

 句を絶たれた。奪われたといってもいい。


「そこの者共、早急に王女様から離れろ!」


 だってそこには、日本でいうところの国家警察。この世界での憲兵が十人ほど、銃を構えていたのだから。

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