五話 起動! 加速装置!
『クエストエリア、エルフの森』と言っても此処にはエルフがいるってわけじゃない。
此処にいるのはモンスターを狩りに来たパーティーばっかりだ。さっきここに来るまでにもう三組は見た。
ならエルフは何処にいるんだ? となるがこの世界でのエルフは、ほとんどがその高い身体能力を買われてSランクパーティー雇われていたりする。
最初はなんたる幻想殺しかと思ったよ。
もっと森に入ってきた人たちに弓矢をぶっ放してほしかった。
「それにしてもこんなきれいな森、どうしてエルフは手放しちゃったのかなぁ」
と、呟く。
「あら、知らないの?」
「何が? いや、勿論雇われてるってのは知ってるよ?」
「この森って、エルフの森って名前だけど、別にもともとエルフがいたなんて過去はないのよ」
え、そうなの!? Sランクパーティーに雇われてるって情報は嘘なの!?
「ぇっ!? し、知ってたし!」
「それって知らない人の反応じゃない、噛んでるし」
「そ、そ、そんなことはないよ! 多分……」
「多分っていう時点でアウトじゃないの、此処は……なんて言うかギルドがモンスターを狩るためだけに造ったような場所だからね。この木とかも魔法で作ったんじゃないっけ」
え、魔法すげぇ。そんなことできんのか。
と、素直に感心してる顔を見られてしまった。
「その顔じゃ本当に知らなかったんじゃない」
「違う、今は変顔をしていたんだ!」
こーんな風に、っと口元を引っ張ったり、ベロを出したり、とりあえず知っている限りの変顔を連発する。
「まぁ、嘘なんだけどね」
「嘘かよ!」
ここまで本当にエルフがぜんぜんいなかったから信じちゃったわ。
めっちゃ笑われてるし。
「嘘に決まってるじゃない、エルフだって殆ど人間みたいな物なんだから人間には矢を射ったりなんてしないわよ。あの人たちはあくまでも狩りで矢を射るの、だから今も木の上とかにいるんでしょ」
因みに、村は本当に最深部にいるわ。と、エルミルは続けた。
「ふふっ、もーなに騙されちゃってメグって単純……って話してる場合じゃなくなってきたわね」
と、笑顔から急に口調が変わるエルミル。
「あーって、眩しっ!」
前方からの閃光に思わず目元を手で覆う。
俺らの目の前には読んで名の如くゴールドに輝くモンスター、その光量はサキュバスのエナジードレインにも匹敵するような輝きを放っている。
「確かに、あれはゴールデンエルフって感じだな」
「メグ、あなたは知らないのかもしれないけどエルフは光らないのよ」
「あっ、違う! さっきのエルフの話と混じっちゃっただけだから!」
ほ、本当に、間違えただけ何だからね!
と言っても、自身に集めた太陽の光を相手に放射することに寄って相手の動きを止めるのがゴールデンウルフのスキルの一つ。
だから倒すとしたら夜がいいといわれてる訳だが、エルミルの要望によって真っ昼間に来てしまった俺らだ、果たして勝てるのか?
「大丈夫、私たちならきっと勝てるわ」
「あぁ、そうだよな俺らなら!」
まるで俺の心を読んでいたかのような掛け声に合わせ、ゴールデンウルフに向かって俺らは走り出した。
◇◇◇
「えーやっ!」
エルミルは胸のポケットから出した小さなサイコロのような物を握りつぶす。
すると、ぱりんと、硝子が砕けるような音がして彼女の右手から長刀が出現した。
なんと、その間に掛かった時間は一秒もない。
「まさかエルミルがストレージボックスを持ってるとは思わなかった」
言って俺は、あらかじめズボンに仕込んで置いた少し大きめのサイコロ程のストレージボックスを弾くように叩き割る。
ギギギと、虫の羽音のような不快音が鳴るとぐにゃりと足元が歪み次の瞬間、俺の両足には機械じみた加速装置が装着される。
「えっ! そんなおっきいの持ってるの!?」
俺の加速装置を見るエルミルの目は今にも飛び出そうだった。
ストレージボックス。
これは、どこかのドラゴンのボールを集める漫画に出てきた、ボタンを押して投げると何かが出てくるカプセルのような物と似ている、所謂瞬間アイテム召喚器みたいなものだ。
しかし、これがなかなか高いものでエルミルが使った一番小さいモデルでも日本円で一万円ぐらいする。
因みに俺のは十万円ほどの代物だ。
勿論パーティーの経費で買ったものだけどね。
武器を振るうエルミルを横目に俺は加速してゴールデンウルフを横切る。
あんな眩しいのによく攻撃を当てられるなあ、しかも長刀故の技だろうけどそれでガードもしちゃってるんだからもう凄い。
「よっしゃあ、今度は俺もっ!」
エルミルがガードして敵の動きが止まっている今がチャンス! 狙うなら今、最高火力でぶっ倒してやる!
『加速装置起動、目標距離百メートル、角度二十度、瞬間火力百二十パーセント、ファイアァァ!!』
脳内で呪文のように唱えて俺は加速装置を最高火力で起動させる。
「あっ、そっちは!」
加速装置が出せる最高火力で飛び出した瞬間、そんなエルミルの焦るような声が聞こえたが、もう遅い。
王都で最高峰と言われているタルギラ製の加速装置xy-230型の瞬間加速スピードに勝てるものはいない。これをつけたものを目で捉えることはできないとまで言われる、だから!
「今の俺をを止められるものは誰もいなっっ!!──」
どーん。
目の前が真っ暗になって、巨木が倒れるような音が炸裂した。
少しの間だけ閉じていた目を開けると視界いっぱいに砂埃が舞っていた。何でだろ?
「ふぅ、つまらないものを倒してしまった」
この台詞で、したり顔である。
風が吹いた。
うん、もう台風かなって思うぐらい。ほらだってそこの巨木だってまるで人が加速装置を使って猛スピードでぶつかったみたいな跡が付いて倒れてるし!
「メグ! 大丈夫!? 急に吹っ飛んだけど!」
「大丈夫! 今のは火力を出し過ぎただけだから! 今すぐそっちに向かうよ!」
「そう、ならよかったわ! まさかメグが運動神経ないのかと思っちゃったもの!」
ビクッ! 全くエルミルは心配性だなぁ俺がそんなミスをする訳がないじゃないか。もっと俺を信頼してくれてもいいんだぜ!
「あっ、安心しろ! 今の俺は──速い!」
今度こそ、ゴールデンウルフめがけて俺は地面を踏み締める──。
また、エルフの森から巨木が一本消えた。
「ふぅ、また、つまらないものを倒してしまった……」
もう、台風以上だった。最大瞬間風速だった。
今度はさっきよりもエルミルの近くに加速したから、エルミルが駆け寄って来てくれた。
「……大丈夫?」
「大丈夫だ、少し加速──」
「それはさっきの台詞」
短く遮ってエルミルは続ける。
「所で訊いてなかったんだけど、メグがパーティーから追放された理由って何なの?」
あっ、そうかそう言えば言ってなかったか。てっきり自己紹介の時に言ってるもんだとばかり思ってた。
「教えてやろう、俺が追放されたのは転生者なのに弱す──!!」
折角答えていた俺の童顔を、ゴールデンウルフがかっ攫って行った。
「ぎゃぁぁあ!! 痛い痛い! ちょっエルミル助けてってあっそこっ、ゴールデンちゃん止めなさいって! そこはだめぇぇぇぇ!」
死に際、誰かの絶叫でエルフの森から大量の鳥が飛び立っていく姿が俺には見えた。
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