四話 選ばれたのはゴールデンウルフでした
固く、とても固く握手をすると。
俺とエルミルは酒代を払い、早速クエストを受注するため、ギルドへと向かった。
が、しかしその間に問題が発生した。
いや、発生し続けている。といった方が正しいのかもしれない。
エナジードレインの出来ないサキュバスことエルミルはあれからというもの、ずっと、握手をしている状態から手を離してくれないのだ。
流石に俺から女性に向かって手を離してなんて失礼? なことは言えないから、この状況から脱することはできないんだけど。
そろそろ離して貰いたかったりする。
でも、転生者である俺のことをまだ信用できていないから手を離したくない、逃げられたくない。
その気持ちは分からなくもない。
信頼って本当不安定だもんな。
でも、もうそろそろ俺の手も紫色に変色しかけてきた。
エルミルは思ったより体育会系なのか? 一見するとすらっとしていてそこまで力持ち、みたいなイメージはないけど筋肉質だったりするのかな?
よし、聞こう。
「エルミルって筋肉質なの?」
「ひゃっ!? なっ、何を言うのかと思ったらき、筋肉質!?」
ビクンと釣られた魚のように驚くエルミル。
まるで予想だにしていなかった質問に対して対処が出来ていないようにも見える。
あれ? 墓穴掘った?
いや、まさかな。
「そうそう、エルミルってすらっとしてる割に力が強いからさ、ちょっと気になったんだよ」
「うーん、何でしょうね……。私は褒められてるのかしら」
褒められてる?
「そりゃあそうだよ、俺はそんな無闇に怒ったりしない」
「そ、そうよね。じゃあ答えるけどそこまで筋肉質ってわけじゃないわよ私。ただ、少食ってだけよ」
「あんなにお酒飲んでたのに?」
「それは触れないでいいから」
また墓穴を掘ってしまったような気がする。
その証拠により一層手が強く握られた。
「あのな、エルミル。別に俺は逃げたり何てしないんだぜ?」
「メグ、いきなりどうしたのよ」
と、エルミルは首を少し下に傾けて言う。
バーカウンターに座っていたときは気づかなかったけどこうして隣で歩いてみるとエルミルの身長が俺よりも少しばかり高いということが分かった。
あと、どうしてかエルミルは俺の名前をメグと呼ぶようにしたらしい。もともと女の子らしい名前だったけど余計に女の子っぽい名前になってしまったことに少し悲しくなったり。
してるわけじゃないけど。
「いや、そろそろ手を離してくれないかなぁと」
「あっ、わっ! ごめんね。ちょっと強く握りすぎちゃったわね……」
とても大袈裟に慌てるエルミル。
咄嗟に掌に血流が一斉に飛び込んで行くのが分かる。
驚いてるってことは無意識だったってことだよな。じゃあ無意識な束縛欲みたいなもの……なのかな?
あ、でもペットを可愛がる飼い主みたいな気持ちだったのかも、俺の方が身長低いし、たぶん年齢も下だし。
「所でエルミル、何でもうクエストを受けるんだ?」
もう少し休んでてもいいだろうに。
「ふふっ、ちょっと私たちの力を試したくってね。ほらこんな変なパーティーなんてないでしょう?」
「そうだね、こんなに身長差の開いたパーティーってあんまりないもんね!」
「そんなに気にしてるの!? ってそんなに私たち身長差ないでしょう」
あっても三センチとかそんなものでしょう。と続け。
「違うわよ、追放されたサキュバスと転生者のパーティーってことよ」
「あぁ、そっちか」
「そっちって、何で自虐を始めちゃうのよ」
自虐って程でもないだろー。
って。
「ギルドだ!」
訳の分からない話をしているといつの間にかギルドに着いていた。
◇◇◇
ギルドはこの町、と言うか王都で一番大きな建物である。一番高い建物はまた別に歩けどギルドはハローワーク的な役割も果たす為なのか、生活の要だからか人がごった返していない時間がないぐらい何時でも人がいる。
そんなもんだから建物自体は王都で一番大きいといわれてもそこまで実感がわくことはなかったりする。
ちなみに内装は一貫して木製である。
「どのクエストにする?」
と、募集掲示板の前で上から声が降ってくる。
エルミルだ。
「やっぱり手っ取り早い、スライムとか?」
スライムなら剣で一発で倒せるし、なんといってもコスパがいい。倒すのに一秒もかからないしたまに出てくる銀色のやつとか倒すと経験値のもらえる量が尋常じゃない。
「す、スライムはちょっと……」
武者震いという奴なのか、エルミルは両手を抱え青ざめた顔で震えていた。
あんな実は強そうなオーラを出して起きながらスライムで怯えるなんてなんか新鮮だな。いや、会ってからそんなに時間経ってないけど。
まぁでも果たしてどんな過去が合ったのかは……聞かない方がいいのかな。
「うーん、じゃあこのゴールデンウルフは?」
一番大きく、可愛らしい狼のイラストの書いてあるクエストを取って見せる。
いつも思うことなんだけどここの人たちはもう少しモンスターにいい名前を付けようとか思わないのかなぁ。
スーパードッグとか、パワーピッグとか、ダークネスドラゴンとか、簡単な文字の組み合わせの奴ばっかりだ。
たまにファフニールとかかっこいい名前を見つけると、おっいいセンスしてるな。何て考えてしまう。
その点、ここの人たちはこれが当たり前になってるから俺みたいな考えはしないんだろうなぁ。
逆にファフニールとかが格好悪いとか思ったりするのかな。
「あっこの絵可愛い! これにしましょうこれ絶対可愛いわよ!」
急に三十歳ぐらい若返ったのか思うほどはしゃぐエルミル。確かにこれかわいいけどゴールデンな狼って想像したらそんなに可愛くないし……寧ろこわ──。
いや、これがいいって言ってるんだからこれでいいや。
「なぁ、ゴールデンウルフって名前可愛いって思う?」
「そりゃあもうダントツで可愛いじゃない!」
なぜ、したり顔なのが気になるが、まぁやっぱりこの人たちと感性は相容れないのかもしれない。
ミルクで酔っちゃったし。
「よし、じゃこれで行くか! すみませーんこれ、受けたいんですけど!」
声高々に受付嬢に紙を渡し、了承のスタンプを押してもらう。
ばちん、と小気味のいい音でスタンプがおされるとそれを握って俺とエルミルはクエストエリア、エルフの森へと歩いていくことにした。