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二十二話 黒いおじさん(魔法使い)、ジェド

 

 結果から言えば俺らはその光線を直に受けることになった。目視できないスピードまで加速していたはずなのに、それすらも計算されていたのだろう。

 それは見事に、正面からの直撃だった。


 上空で光線が当たったあとどうなるかなんて考えなくてもわかる。重力に引っ張られて地面とキスをするに決まってる。

 そして俺らは落下した。

 

「いつっ……」


 ひとまずは全員生きている。

 身体にあるダメージは光線のものよりかは、飛び降りた時の衝撃の物が多いように見えた。肘なんて少しすりむけていて、血が滲んでいる。


 エルミルとエゼルは魔法で衝撃を吸収でもしたんだろう、ここから見える限りでは身体に傷はなく、二人とも丹念に体についた埃をパンパンと叩いて落としていた。


 そうして、空という完全アウェーな場所から無理やりずり落とされた俺ら三人は──当然のように塔の上の彼と対面することになった。


 彼はぴょんと、飛ぶようにローブをはためかせ地上に降りてくる。見下すかのように。

 ゆっくりと、焦らして、彼は口を開いた。


「こんにちは、ひとまずは挨拶。僕はジェド、魔法使いです。久しぶりの生きている人間だからね丁重に扱わないと、気まずくなるのは避けておきたいんだ。いやいや、本当だよ、僕は嘘なんてつかないからね。三人ともよろしく」


 黒いローブを不器用に着こなし、フードを顔が見えないように奥まで深く被った。口元から見える白髪混じりの髭と嗄れた声からわかるように、明らかに若いとは言えない彼は。

 ジェドと言う、魔法使いの彼は。

 

 その一人会話を、一呼吸で言い切る。


「は、はぁ……」


 呆れた、というか拍子抜けというか。何を期待してる訳でもないけど、何をいってんだよこの人、ってかんじだ。

 理解が追いつかない、いうまでもなく情報過多だ。


 俺とエゼルが呆れるなか、エルミルはジェドを睨む。


「言わせて貰いますけど、気まずくなるのを避けたいのなら何故先程いきなり魔法を放ってきたんですか。ジェドさん」


 エルミルはわざと堅苦しい言葉を使って彼を威嚇する。

 というか、それは俺も思った。


 いきなり光線を撃ってきた奴の言葉なんて到底信じたいなんて思えないし、まず信じられない。

 嘘をつかないなんて言われても、それすらが嘘だと思ってしまう。

 嘘をつかないって台詞自体が嘘つきの常套句だけど。


「いやいや、あれは挨拶だよ。

 そう、言ったじゃないか。

 人の挨拶に難癖を付けてくるなんて相当暇な人なんだね君は……いや、君達は、か。目を見ればわかるよ。

 まぁ、僕からしたらそんな事は空気みたいにどうでもよくて、話の腰を折るようで悪いけど」


 ──何で君達は死んでないのかな?


 最後のその言葉だけ、そこにいる人から発せられた声でないような、とても表現できない謎の圧迫感を感じた。

 青ざめるとも違う、体中の血液が一瞬だけ全て抜き取られるような、一瞬死んだかもしれないと錯覚させるような。

 そんな呪いじみた。

 この状態を言い表せる言葉を考えれば考えるだけ、そのすべての表現が切り捨てられるような、表現できない苦しさがそれにはあった。


 エルミルも同じ現象を感じたのか胸のあたりをきつく握り締めている。心なしか、脂汗がにじみ出ているようにも見えなくもない。


 が、しかしエゼルは、一ミリも臆することなく速攻で反論していた。

 

「つーん! あんな光線じゃゼルたちは死なないんだよー!」


 語尾にバーカ!! と付いていてもおかしくはない。


「光線……あぁ、挨拶ね。だからあれは挨拶だって。そうではなくて、僕が言いたいのは僕の創り出したこの結界の自体の常時発動系即死魔法・・・・・・・・・が何で効いてないのかってことなんだけど……」


「ちょっと待って! 今、僕が創り出したって言った?」


 ジェドの語尾が少し弱くなった瞬間、エルミルがまた話を突き刺す。

 ジェドはそれを物ともしないでポイッと投げ捨てる。


「言ったけど、それがどうしたんだよ。僕だって魔術師だからね、結界なんて創ろうと思えばいくらでも創れるさ。

 まぁ、魔力量からみて、君とそこのエルフには到底出来ないだろうけどね、しかも即死魔法だなんて、君達が三回転生したって到達できないだろう……あぁ、そうか転生か。

 あぁ、思い出した、思い出した。

 転生者には効かないんだったなぁ。

 ええっと、もしかしてこの中に転生者がいたりするのかな? それならあの魔法が効かない事も理解できる。女神の加護は即死魔法をはじくらしいからね、二万三千六百五十二番目の人間がそんな妄言をこぼしていた気がするよ」


 情報量が多すぎて、返す言葉が見あたらない。

 でも、この結界を創ったのが、前にいるあの人だってことは確定した。

 だったら。


「おじさん! ここから出してくれない……ですか?」


 交渉だ。

 まずはおじさんと呼んで笑いをとる、そしてさり気ないけどたどたどしい敬語を混ぜることで「あの子はあの子なりに頑張ったんだな」と、思われて少し甘く交渉をしてくれるかもしれない。

 と思ったけど。


「出せるなら出してあげたいけどね、でも、僕が君たちをここから出す術はないんだ。ほら、書いてあったでしょ、伝説の本に出られないって。あれの意味は、入ったが最後、即死魔法で死んでしまうから出られないって意味じゃなくて、そもそも出る手段なんて物が、設定されてないんだ。


 これは僕の殻だから。


 わかりやすく言うと手紙受けみたいな物だよ、一方的に入れることは出来るけど手紙自身からはそこを出ることができないだろ? 

 それと同じだよ。まぁ、でもだから、結局即死魔法で死ななくともここで君たちは飢え死にするんだけど」


 そう言ってハハッと笑う。


 交渉なんてする気ぜんぜん無さそうだー。

 しかも結構序盤で無理って言われたしー。


「ええー! やだやだ、かえーりーたーいー!」


 エゼルは足をバタつかせ嘆く。

 でも、そんな事したって……。

 方法がないっていわれたから……。


「だから無理だって言ってるじゃないか。諦めて死になよ、どうせ人間いつかは死ぬんだし、いつ死んだって変わらないんだからさ。それにね、ここに来たのに──」


 じゃあ。


 と、彼の話を遮るようにエルミルが口を開いた。


「この結界を壊す方法はありますか?」



 ◇◇◇



「あるけど、と言うかないことはないけど……おすすめはしないよ? それじゃあ話を続けるけど──」


「いいです、続けないで下さい。それで、その方法とは?」


 話し始める、すんででエルミルはまたも遮る。


 今日のエルミルは何かと厳しい、特にここに来てから。

 ピクニックみたいにお昼ご飯を食べただけで怒るし、この血界の管理人みたいな人にも結構強い口調だし。

 何か、早くここからでたい理由でもあるのかな?


 買いたい本があるとか。

 食べたい物があるとか。

 見たい景色があるとか。

 会いたい人がいるとか。


 挙げれば尽きることはないけれど、たぶんそんな理由なんてなくてもこんな所にいること自体がここから出たいという感情に直結してるんだろう。

 勿論、俺だってこんなところで死にたいなんて思わない、だから脱出の手伝いはいくらでもするつもり。


「うーん、言ってもいいけど絶対無理だよ? 絶対このままずっと話ながらなんとなく死ぬのが一番いいと思うけど」


「いいです、言ってください」


 じゃあ言うけど──


「最強の魔法使いに最も近い者、僕の死。それがここから出る、即ち結界を壊す唯一の方法だ」


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