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二話 お酒飲みたい


「害虫……か」


 俺は歩きながら、さっき言われたあの言葉を思い出す。

 場所はあのパーティーで買っていたらしい小屋のすぐ近く、王都の方へ続く森である。

 葉と葉の間から燦々と降り注ぐ日光が何ともいい具合だ。

 俺の気持ちとはまるで真反対だがな。


 でもよく考えたら実際「害虫」なんだよな、転生者料金(高い)で雇われたってのに何の仕事も出来なかったし、寧ろ迷惑をかけてしまった、まである。


 本来転生者ってのはみんな何かしら優秀な女神のスキル(例えば、瞬間移動とか)を有してるからどのパーティーも手がでるほど欲しい人間なのだが……俺の場合はそうではなかった。


 確かに転生した記憶もあるし、適当な女神にも会った気はするから転生者であることには代わりはないのだろうけど。


 女神のスキルが全く使えないのだ!


 全くだ、本当に皆無だ! どれくらいかというとスキルのスの字すらない。さらにいうなら、スのSもない。

 しかも使えない理由も不明。


 彼らの言う「転生者が欲しい」なんてのは本当は建て前で本当にパーティーが欲しているのはスキルの方、圧倒的なチートスキルだ。

 だからスキルが使えない俺が追放させられるのは当然のことで。

 でも、そんな俺を破産しそうになるまで居させてくれたあのパーティーはやっぱり心の広い人達が多かったのかなぁ──。


「な、ん、て、なるかぁぁ!!」


 俺の叫び声に数羽の鳥が一斉に木から飛び上がった。


 彼ら……あいつらは全く優しくなんてしてくれなかった。いや、別に優しくしてほしかった訳じゃないけどせめて庶民レベルの扱いはされると思っていたんだけど……それすらなかった。


 転生者ってだけでスキルがどんなものかも確認しないで雇ったくせに、使えないとわかった瞬間「害虫」なんて呼び方をしてずっと虐げてきた。

 飯は少ないわ、話には入れてくれないわ、俺が何か倒しても「これはお前を雇った借金を返すためのものだ!」とか言って根こそぎ奪われる(実際そうなんだろうけど)。


 スキルが使えないのにも関わらず転生者料金で雇われた俺にも非はあるが、でも、それでも酷かった。

 確かに転生して此処に来たとき「あれ? 俺のもらったスキルってなんだろー」ってなって、暫くして「あ、使い方とか聞いてねぇ!」ってなったりしたけど。

 わかんないものは仕方ないじゃん! 後で発動する奴なのかなぁとかそんな風に思うじゃん! 

 女神は連絡の一つもくれないし。


「全くどーしたもんかねぇ」


 こんな思考をしながらも周りの木々に当たらずに歩いていくと、とうとう王都が見えてきた。

 転生する前に中世風だけど魔法もある世界に行きたいなぁなんて事を考えた気がするが、まさしくそれそのものだった。


 わかりやすく言うと全体的にイタリア風なのだ。


 王都の中心には勿論王様の住んでいる宮殿があってその周りに城下町のように出店があったり、酒場があったり、賭博場があったり、広場があったりする。

 で、今回俺がここにきた目的はあのパーティーの仕事で行けなかった酒場だ。ここは王都と言うこともあっていろんな地域から特上のお酒がやってくるらしい。

 どうやら安価でいい酒が飲めるらしいのだ。

 年齢? そんなの関係ないさここは異世界ファンタジーだからね。


 ◇◇◇


 王都三丁目、その中で一番小さな建物。大きくジョッキの絵が描いてある看板が目印の店。

 そこの扉を、しゃらんと小気味の良いベルと共に開ける。

 まだ昼だからさほど人は居ないだろうと予想してたが、そんなことはなく寧ろ座る席が無いほどにはごった返していた。


「いらっしゃーい! なにを飲むんだい?」


「いい感じの酒一杯」


 髭面ハゲのやや厳つめのおっさん店主に対して、椅子が高めのカウンター席に座り、決め顔でいう。


「ばーか、貴様はまだ未成年だろうが。ほらよミルクだ」


「なっ! お、俺が未成年に見えるというのかっ!」


「うるせえ童顔、さっさと飲め」


 むむむ。童顔って理由だけで俺はお酒が飲めないと言うのか……まぁいい、ここにあるすべてのミルクを飲んでしまえばお酒を出さざるを得なくなる。

 そうなったときがおっさん! あんたの最後だぜ!


 がぶりがぶり。

 大ジョッキに並々と入ったミルクを一気に飲み干す。


「ぅぷはぁー! これうっま!」


 なんだこの口に入れた瞬間とろけるようなミルクの味わいと、ほんのりと香る甘い芳醇な……。


「ごふっ!」


「ど、どうした童顔。何か入っていたのか?」


「なんか頭がぐるぐるするような……」


「まさか童顔……ミルクで酔ったのか!?」


 そんな訳ないじゃないか、ミルクで酔うなんて聞いたこともない。


「まっさく、ミルウで酔うわけ無いれしょうが」


呂律ろれつが回ってないあたり、酔ってると思うんだが」


「あ、サキュバスだ!」


「いや、話聞けよ」


 突っ込んでくれる店主のことを片隅に俺の意識はもう完全にサキュバスの方に向いていた。


 こんな所にサキュバスがここにいていいのか?

 あの人たちって本来は風俗関係の仕事……じゃなくて吸収係のスキルを使って狩りをしてるはずじゃないのか?

 確か……エナジードレインって言うんだっけ。


 隣にいるサキュバスはやけにしゅんとしている。そのせいか、こめかみ辺りから生えている小さな紫色の羽が少し垂れていた。

 

 でもこんな事、考えるより聞いた方が早いし気になったら話しかけるのが俺のモットー、早速話しかけてみよう。


「どうしてこんなとこにいるんだ?」


「何よ……話しかけないでよ童顔」


「お前もかよ! あとそれ悪口りゃないからな!」


「うるさいわね、童顔はあなたに対して使うときは悪口になるのよ」


 ならねぇよ! どんな単語だよそれ、俺に対してマイナスすぎるだろ。

 俺特効かよ。

 

 しかし訳の分からなないことを言うと、サキュバスはまたさっきみたいにこめかみ辺りから生えた小さな紫色の羽をしゅんとさせた。


 サキュバスは転生者とまではいかないものの相当強い部類に入ってくる種族の中の一つだ。

 特にエナジードレインは女神のスキルで得た転生者か、サキュバスしか使えないからパーティーの中にひとりは欲しい、とまで言われている。


 でも何でそんな強い種族のサキュバスがこんな昼時にここにいるんだ? 昼時なんて安全にモンスターを狩れるから絶好の狩りのタイミングなのに。

 追放されてるわけでもないんだ……し。


 あっ……。


「もしかして、追放されたのか?」


 ぴくんと小さな羽が揺れた。


「え、マジ?」


 頬を赤らめこちらを睨むサキュバス。 

 その目は怒りと羞恥の炎で染まっていた。


「マジだけどなに? どこか問題でもあるの?」


「いや、そう言う訳じゃないけど……」


「だったら何よ、馬鹿にしに来たって訳? サキュバスの私がここにいちゃあダメだっていいたいの?」


「違うって、追放されたのは俺も一緒だからなんか話せるからなぁって……」


 絡んだのは完全にミルクのせいだが、咄嗟に思いついた代案でどうにか凌ぐ。


 サキュバスはそうだったのね、と何か決まりの悪そうにしたが。

 途端、とても不思議そうな顔をした。


「見るからに転生者の貴方が追放? ……まさかそんなわけ無いでしょう。サキュバスからしたら雲の上の存在の転生者が……え、マジ」


「あぁ、俺は嘘はつかない」


 俺の言葉にそれは嘘つきの台詞よ、と言うと彼女は、


「それじゃあ私がどうして追放されたのか、話しましょうか」


 そう言った。



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