十一話 メグゼルとエルーミル
「エクレアがいない!?」
言うと、数メートルと離れていない距離をこれでもかと走り出すエルミル。
そのフォームはさしずめトラックを走る陸上選手である。
「ちょっおい、そこまで走らなくても……」
と言いつつ、俺も後ろから追いかける。
とはいえ、そんな急に走られてもエルミルと同じ速さで走れるわけがない。息切れ甚だしい。
はぁ、こんなことなら先に加速装置を……いや、あれは使っちゃだめだ。
うん環境保護のためだよ、俺が使いこなせないからとかそんなカッコ悪い理由ではない。
「やっぱりいないわ、一体どこに?」
「トイレとか?」
女の子何だからトイレに行ってきますって言うのが恥ずかしかったって言うのは真っ先に思いついたけど……。
「だったらいいんだけどね……ほらあれ」
そう言って近くの地面を指差すエルミル。
どうやら俺の考えは全くの筋違いであったらしい。
俺はエルミルが指差した、その向こうにキラリと光る何かを見つける。
「ほ、宝石だっ!」
思わず飛びついてその一つを手に取る。
見てみるとやけに綺麗にカットされたそれは何やらダイヤモンドみたいだった。
この、きらきら光る輝きがなんとも神々しい(意味はよくわかってない)。
そして少し前に目を向けると。
なんと! その宝石が道のようにずらずらとたくさん落ちているじゃないか!
「いっぱいあるぞ! やったなエルミル! これがあれば大金持ちだ!」
「そうよ、これがあれば私達もSランクパーティーに引けを取らないぐらいの大金持ちに……ってちがうわよ!」
いつも通りとってもいいノリツッコミだった。
「じゃなくて、ほら、この宝石あっちまで続いてるじゃない?」
あぁ、それはさっき確認済み……。
「ってことはこれのある方に進んでいけば!」
何かを察したのか俺と目を合わせるエルミル。
ふっ、どうやら俺とエルミルの考えは一緒だったらしい。
そりゃそうだよな、一日とはいえ、あれほど沢山の事を一緒に経験してきた仲だ。ミルクを飲んだり、ゴールデンウルフを撃退したり、捕まったり、そして最後には脱獄だってした。
もうこれだけのことをすれば目と目で会話できるのも当然だよな。
やっぱり、俺達は最高のパーティーだ!
そんな思いを胸に、
俺とエルミルは共に息を揃え、口にする。
「俺たちはお金持ちに!」
「そう、エクレアに会えるってわけ!」
……どうやら俺とエルミルはそこまでの意志疎通は出来なかったらしい。
「光り輝く《シャイニング》……」
そして、エルミルの右腕……右腕!? はバチバチと稲光が纏うほどに煌めく。
「エルミル、まさかパーティーメンバーである俺にその恐ろしい技を……」
「いやいや、そこにいる仲間を助けようともしない馬鹿に一発閃光を撃ってみようかなって思っただけよ?」
あーっと。これは……もうお金のことなんて考えてる場合じゃないな。
考えてる間に俺の体が無くなっちゃう。
「よ、よーし! エクレアたすけちゃおっかな!」
言って、俺は宝石を拾うことなく、宝石に沿って走って行った。「もう、ほんと馬鹿なんだから」後ろからそんな声が聞こえたけど、そんなの気にしてる場合じゃなかった。
◇◇◇
きっかけはともあれ、走り出した俺らだが途中で、いきなり問題に突き当たる。
「宝石が、途切れてる……」
エクレアを探す唯一の鍵は速攻で折られてしまった。
ここはもう、助けを求めるしかない。
「仕方ない、衛兵を呼ぶか」
「私たちが捕まっちゃうじゃない!」
うーん。どうしたものか。
頭をひねって三十秒、俺はあることに気がついた。
「あれ? 今思ったんだけどさっきからずっと真っ直ぐじゃね」
「言われてみれば……」
これにはエルミルも納得である。
「よし! このまま真っ直ぐいこう!」
「はぁ? また馬鹿言って……あっ」
どうやらエルミルも気づいたらしい。
本当にここまでの道のりが真っ直ぐだったことに。
ふっ、今更気づくとは。まだまだ甘いな!
「さすがねメグ、これは馬鹿だからこそ気付いたってところなのかしら」
そう! これは他人とは違ってどうでもいいことしか気にしない、当たり前すぎてだれも気づかないようなことに気づける俺だからこそ見つけられたことで……?
「あれ? せっかくいい働きしたのにほめられてない気がする」
「いいのよ、気にしないで。ほらいきましょう」
再び前を向いて走り出した俺ら、その先には川が見える。
そして、その近くには二つの人影……。
「あ、エクレア」