トラック・ランランラン!
ドライバー業を始めてもう30年になる。
若い頃は、がむしゃらに働いたもんだが、今となっては無茶が祟って目や腰にダメージが蓄積されてしまった。
だが、健康は失っても残り続け磨き上げられたものもある。
それは長い時間を賭して磨き上げたドライブテクニックだ。
そして、そんな腕を見込まれて最近別の会社にヘッドハントされて、以前の会社より倍の金額で働いている。
だが、給料が倍になったというだけあって事業内容が少し…いや、大分特殊だった。
なんせ人を撥ねるというのだ。頭がオカシイ。いやクレイジーだ一緒か。
こんなおかしな業務をやっているのは殺し屋でもなんでもなくイカイ運送会社という平凡な運送会社だった。だが、上司が言うには撥ねる人は決まっており、撥ねたとしてもなんかぽわぽわーっと不思議な力で証拠を消すらしい。そして撥ねたといっても死んだわけではないから安心しろとのことらしいが。いかれてる。クレイジーだ。
だが、仕事は仕事だ。やらねばやるまい。まぁ多分俺も従ってるあたりクレイジーだ。
そんなこんなで今日の一番最初のお客は、男子高校生だった。
ナビゲートに人格や名前などの詳細と、目標の現在位置とルートが表示される。相手がどんな相手だろうと確実に死をお届けするのが俺の仕事だ。
ナビゲーションに従いながら、目標へと近づく。
お客がちょうど横断歩道を渡るタイミングに合わせて速度を調節する。
そして狙い通り、横断歩道を渡り出しベストタイミングでお届けに参りましたー!
ぶつかる衝撃がしたが、サイドミラーを確認してもそこには何もおらず、血などの痕跡も残っていなかった。残るのは危ない運転をしたトラックの映像だけだ。
そして次のお客が表示され、速やかに目的へと向かう。
速度の調節もぴったり合わせたが、あとちょっとってとこで小学生の男の子が飛び出してきた。
ターゲットじゃない人を弾けば証拠も残るしムショにぶち込まれるのは確実だ。
だが、こういう時こそ、ドライビングテクニックが試される。
大きく右にハンドルを切り、ブレーキを踏む。
男の子は避けたが、客も正面から逸れた。
だが、”それでいい”ドリフトを決めながら態勢を持ち直し、”内輪差”でお客に荷物を届けた。
「イカイ運送からのお届け物デーーーーーーーーーーース!!!」
軽く汗を流しながらふぅと一息吐く。
我ながら惚れ惚れするテクニックだ。だが、余韻に浸ることは許されない。
新たに表示される客へと向かうためハンドルを回した。
後悔も反省もしてます。