前世では女でした。そして、長女でした。
リオノーラ・ドラモンド
私は、ドラモンド公爵家の長女として産まれた。
産まれた………
転生した。が、正しいのだろうか……
それとも、前世の記憶があります?だろうか……
昔は……
転生前は、地球の日本の地方で生きていた。
普通に生きていたと思う。
そう、平凡に。
家族は五人。
両親に弟二人。
既に上の弟は結婚し、女の子二人の父親。
下の弟はスピード婚だったけど……まぁ、人生色々あるよね……まだまだ若いし。
未婚の自分は実家では肩身が狭いが、独り暮らしなので自由気ままに生活している。
地元の小・中・高、短大を卒業し、就職。
特別な特技もなく、普通の性格、普通の顔、
いや……普通じゃないのだろう。
普通の性格と顔面なら、生存年齢=彼氏いない歴にはならないはずだ。
自分では普通と思っているが、きっと思っているのは自分だけなのだろう。
なので、オタクで妄想家になっても仕方ないはず。
ゲーム、マンガ、アニメ、大好きです!!
自分なりに人間関係も充実していますよ。
後輩ちゃんは、ギャルっぽいけど、良い子だし。
同僚はしっかり者で慕われている。
他にも飯友の男性同僚だっている。
冗談を言いながら仕事をし、休みや予定が会えば、ケーキバイキングに行ったり、ネコカフェ行ったりする。いつかフクロウカフェ行きたい、ネズミのランドに行きたい、なんて話もしている。
自分なりに楽しく生きていた。
職場への道のりは、早ければ車で10分もかからない。
川沿いの左右一車線の道を走る。
この道は狭いわりにトラックが良く走る。
道の片側が斜面からの川。
その反対側は、科学工場の敷地。もう少し行ったところに工場の敷地への入り口がある。
そこへ出入りするために大小様々なトラックがこの道を行き来する。
ちなみに、私の職場はこの科学工場ではない。
私の職場は、まぁ、別にいい。
とにかく、私は、あの日、おそらく、死んだのだ
異常気象だとか何とか、テレビのニュースや天気予報で良く聞く。
聞くが、自身の身に何かが降りかかっていない以上、実感はない。
いつもの毎日を過ごしている。
今日もその予定だ。
大雨だけど……
車のフロントガラスに叩きつけられる大粒の雨。
フロントガラスを行き来するワイパーは、振り千切れないかと思うほど、勢い良く左右に行き来している。
ワイパーを酷使しているのは、運転手の私ですけどね……
木の葉を大きく揺らす風。
時々吹く、特に強い風に走る愛車のハンドルが微かにぶれる。
が、大したことはない。
大都市とは違い、自家用車が主な移動手段の地方。台風だろうが暴風雨だろうが、大雪だろうが、この軽四で走り抜いて来たのだ。
いいや、車が無くなったら生きていけない!
電車やバスの路線が発達した主要都市とは違うんだ!
今日の暴風雨も別段気にはしていない。
窓から見える川の水かさが、スゲェーなー。
職場の駐車場、着いたら、雨、一瞬止まないかなー。
ぐらいだ。
ぐらいだったのに………
前から走ってくるトラック。
特にスピードが出ているわけではない。
向こうの運転手さんも、この狭い道でスピードを出す危険と、ソレにともなう事故の想像なんてできるだろう。
好きで事故を起こす奴なんていない。
それは、私にも言えること。
だから、すれ違う時、ブレーキを踏む。
少しスピードを落とし、互いに危険がないように、注意しながらすれ違う。
いつもなら
いままでなら
この後、コンビニ寄って職場につくはずだった。
叩きつける雨
動くワイパー
雨のせいで、そんなに明るくはないが…それでも日中の明るさはある
が、陰る
?
暗くなった?
と、反射的に助手席側の窓を見れば、あきらかに近すぎるトラックの荷台。
荷台の高いトラックは、強風に煽られて、倒れることがある。
何年か前にも、台風が来ている時に高速道路でトラックが強風に煽られ転倒し、一時通行止め。なんてニュースを見たことがある。
まさに、今、ソレが、真横で起こっている。
!!!
自分の判断が正しいのか、違ったのか、それは今でもわからない。
ただ………
避けなければと思った。
トラックに潰される。避けなければ…と。
とっさにブレーキを踏む。
同時にハンドルをきる。
もちろん、トラックとは反対の方へ。
結果、車は川の土手を転がり落ちる。
なんとかなる………
ハンドルミスで道路から飛び出し、崖のような斜面を落ちた同僚は。胸元にシートベルトで作った切傷だけで、普通に仕事をしていた。
この斜面なんて、話で聞いた崖のような斜面なんかに比べたら、なだらかなものだ。
車とはサヨナラしないといけないかも……
それともレッカー?
警察も呼ばないと…
職場にも遅刻の連絡をしないといけない………
一瞬で色んな事が脳内を駆け巡る。
死んだら、あの部屋を見られるのか………
あのマンガやあの小説、妄想が書かれた落書き帳………
恥ずかしくて死ぬ!
だから、死ねない!
死ぬなら、きちんと身辺整理をしてからが良い!!
首を縮め、歯を食いしばる。
手足は恐怖と緊張で強ばり、ハンドルを両手で握り、右足は力一杯ブレーキを踏んだまま。
色々身体に当たるから、助手席にある鞄の中身は散乱しているだろう。
全身に伝わる、あらゆる衝撃を耐える。
耐えて、耐えて、耐えて、耐えて、
止まる
止まり、暫くはそのまま動かない。
目を瞑ってても解る。
今、自分は逆さまだ。
ドキドキと大きく脈打つ心臓。
プルプル震える両手。
無意識に息を止めていたのか、少し息苦しい。
大きく息を吐き、息を吸う。そして、吸った息をゆっくり吐きながら、そっと、目を開ける。
暗い。
暗い?
逆さまだから?
怪我は?
手で身体に触れる。
大丈夫……そうかな?
シートベルト、外しても大丈夫かな………?
ん?
シートベルト、取れてる?
おおうっ!!??
何かに押される。
何に?
解らないが、見えない空気みたいなものに押されて、押されて、押されて
押されて?
ハンドルは?フロントガラスは?
車内じゃないの?
パニックになる。
手足を振り回す。
何か、掴まるものは無いのだろうか?
とても苦しい。
何も見えないから、誰かに助けを求められない。
そもそも、息苦しさから声も出ない。
きっと、もう……
急に、息苦しさから解放される。
解放され、慌てて深呼吸する。
息ができる。声が、声が出る。
とにかく、叫んで、誰かに気付いてもらわなければ。
気付いてもらえれば、助けを呼べば……
もしかしたら………