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お前ら、頼むから討伐にまともなアイテム持ってきてくれ!!!

作者: 豆夏木の実


「お前ら……今日こそちゃんと持ってきたよな? 討伐用のアイテム」

「おう!」

「当たり前だろ?」

「私はいつもちゃんと持って来てるわ」


 三人は元気よく返事をした。だが、こいつらは信用できない。

 俺達はパーティを組んで、パピコやクレヨンといった、超最上難易度のモンスターを討伐し、日々金を稼いでいるのだが。

 こいつらはモンスター討伐のとき、まともなアイテムを持ってきたことがない。


 過去に持ってきたものと言えば、靴下、フェイスパック、化粧水、歯ブラシ、綿棒、タオル、ウノ、充電器、ポッ〇ー、酔い止め、つけまつげ、リップクリームなど、旅行時に必要だけどつい忘れがちなものといったレベルのガラクタばかりだ。


「本当に……持ってきたんだよな?」

「…………」


 疑いの目を向ける俺から、三人はそっと目をそらした。


 アウトーッ!!!

 今日もダメだったかチクショウ!!!


「一応聞いておくけど……何を持ってきたんだ?」


 もうこの際、爆竹とか煙玉とかでもいい。

 少しでも使えるものなら、俺が何とかする(・・・・・・・)


「はーい、まず私からお披露目するね」


 まず最初に手を挙げたのは、俺達のパーティの紅一点、ルリナだった。

 職業はヒーラーだが、下等魔法の『砂時計』を使用することで、治癒魔法の効果を逆転させ、敵にダメージを与える戦法を得意としている。


 本来、ヒール系のスキルはじわじわと効果が発揮されるので、攻撃には向いていないのだが、ルリナはこの戦法を気に入ってしまい、『ねぇ、スクト。あのパピコさ、両手広げた状態で小一時間くらい身動きできないようにできないかな?』など、作戦担当の俺にムチャぶりをしてくる。


 いや、瞬殺してやれよ! 小一時間もいたぶるって、パピコになんの恨みがあるんだよ!?


 そんなルリナが魔法具の袋に手を入れた。

 俺が自分でアイテムを持ってこれない理由はコレだ。

 この世界の戦闘用アイテムは、デカくて重い。アイテムの属する職業の者なら気軽に持ち運べるのだが、異なる職業の俺は、キズ薬一つでも持ち運ぶのはしんどい。


「じゃーん♪」


 ご機嫌でルリナが取り出したのはカボチャだった。


「よし……」

「あれ、なにそのリアクション?」

「カボチャならかろうじて鈍器になる。お前らがまともなアイテムを持ってきてないことはわかってるからな……。この際、贅沢は言ってられない。わずかでも殺傷力があるものなら、強化魔法かけたり、スープでコトコト煮たりして、なんとか使う」

「あはっ♪」


 ルリナは戦士がコロッと落ちてしまいそうなほど可愛い笑顔を浮かべると、カボチャをクルリと裏返した。


「ジャコランタンでした~! ハロウィーンで使うやつなの。中身はちゃんとくり貫いてあるわ」


 ぶっとばしたくなった。


 ……いや、落ちつけ俺。

 こいつは残念な子なんだ。決して悪意があってやってるわけじゃない。怒っちゃダメだ。怒っちゃダメだ。怒っちゃダメだ。


「可愛いでしょ? コンニチワ、スクトクン。ボクトイッショニ、ドラゴン、タオソウヨ!」


 ジャコランタンで下手な腹話術をしてくるルリナ。


「こっ、このっ、許す!!」


 可愛いから仕方がない。こんな足手まといでも一応パーティの紅一点だからな。

 だが男二人、お前らはヘタなもん出したら許さん。


 俺はウォーリーの『ダンテ』に威圧的な視線を向けた。

 筋骨粒々の肉体に浅黒い肌、堀の深い顔。見るからに武闘派な大男だ。

 ちなみにこいつの職業は勘違いされがちだが、ウォーリアーではなく、ウォーリーである。

 ハイドスキルを得意としていて、赤と白のストライプの服を着ることで、人混みに溶け込むことができる。


「俺はこいつを持ってきた」

「そ、それは……ポーションか?」


 ダンテはピンク色の小瓶のようなものを持っていた。ひょっとしたらあの中には、ハイド系のスキルに役立つ液体が……。


「水道水だ」

「……」


 もしも俺にワソパソマソのような力があれば、躊躇なくこいつを宇宙の彼方までぶっ飛ばしただろう。


「一応聞こう……なぜよりによって水道水なんだ?」

「うっかり中身を入れ忘れてな。仕方ないので、さっきトイレで手を洗うときに汲んできた」

「世間ではそれを水道水じゃなくてトイレの水と呼ぶ!」

「どっちでもいいだろ。戦闘に役に立たないことに変わりはない」

「そうよ、スクト。そんなに水道水が欲しかったの? それならあとで私が汲んで」

「いらんわ!」


 ……ツッコミきれない。ボケ二人を同時に相手してたら、モンスターと戦う前に体力を使い果たしてしまう。


 俺は仕方なく最後の一人に視線を向けた。


「え、ボク?」


 最後の一人は長髪ブロンドヘアの爽やかイケメン『フレアス』。たぐいまれなる剣術の腕を持ち、とあるゲーム世界の中では唯一の2刀流の使い手だったらし……ゲフンゲフン。

 とにかく、こいつは剣術がズバ抜けているくせに、まともな剣を持ってない。いつも戦闘の直前になると、100円ショップでオモチャの剣を買ってくる。


 ……ビニール傘かっ!

 にわか雨が降ったときに買うビニール傘の感覚かっ!


 まあそんなオモチャの剣でもこいつなら武器になる。この際、棒っぽい形をしてるものならなんでもいい。強度は魔力でどうにかする。ゴボウだろうと、木の枝だろうと……。


「ごめん、コレしかなかったんだ」


 そう言ってフレアスが取り出したのは、トリュフだった。


「その形状じゃないことを祈ってたのにっっ!! ていうか、なぜそんなものがある!?」

「あれ、これってスクトがボクにくれたんじゃなかったっけ? 土の中から見つけたとか言って……」

「豚かっっ!! 俺にそんな特殊な嗅覚はない!」


 三人は顔を見合せると、コクリとうなずき合った。

 俺を見ると、キラキラした期待の眼差しを向けてくる。


「「「天才策士のスクトくん、これでパピコ倒す作戦考えてください!」」」

「お前らそのためにやってるだろッ! ジャコランタンと水道水とトリュフで、Sランクのパピコは倒せないわ!!」」」

 

 …………結局、フレアスのトリュフを質に入れ、その金でビギナー冒険者レベルの武器を揃え、なんとかパピコを倒した。




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