全員共通 王子を選べ
「なにが拝啓最愛の妹よ!」
国を出た姉からの手紙を読んで激しく苛立つ。
なぜなら国から抜け出してその先で知り合った男と幸せな結婚をしたと、手紙で報告されたからだ。
「あーあ姉さまのバーカ!」
私はデスアーラ国、通称‘生国’の皇女だ。
本来嫁ぐ筈の姉は逃亡、それで相手を怒らせたせいで敵のディストピア王国、通称‘死国’に私が政略結婚するはめになった。
「敵国は残忍な噂が耐えない、噂では人ならざる死人が王だと聞くわ
私はきっとゴミのように扱われるのでしょうね!」
私が不安を打ち明けると司祭は何も言わず話を聞いていた。
禍々しく暗黒と毒々しい雰囲気を漂わせた岩間を歩く。
ようやく城にたどり着く。
驚くほど静かで、出迎えもない。
実質、自分は敵国への人質ではないかと私は思っていた。
しかし、拘束されながら来たわけでもない。
あくまで自分の足でここまで来たというのが正しい。
「貴方は…」
苛立ちを抑えながら入る。
「第7王子…ディストア」
彼は口下手なのか必要なことだけを話した。
珍しい、薄い褐色の肌を持つ彼がとても気になった。
「あの、なんと言うか…」
どうやらこの死国には兵士どころか側近らしき人もいない。
生国には地位を狙ったり陰口を言うような煩わしい人間が沢山いたのに、ここには王や王子しかいないようだ。
どうしたものか、はっきり云って敵国なのに自分のいた国より気が楽なのだ。
「なんだこいつ?」
ようやく人が現れた。
ディストアが皇子らしいかと言われれば違うが、彼は更に王子らしからぬ態度だ。
「口を慎めカラッタバ」
性格に癖のありそうな眼鏡の男がカラッタバという少年の背後から登場した。
「メディス!後からでてくんな」
脅え驚く彼とは対照的にディストアは冷静だ。
「あれは第6王子メディス、こちらが第9王子のカラッタバだ」
9人も皇子がいるなんて王位争いが白熱しそうだ。
「その子が生国の皇女サマ?」
今度はいかにも女好きそうな男である。
まっすぐ綺麗で長い金髪を一つに束ねている。
物語の王子様そのものではないだろうか。
「初めましてデスアーラの王女様、第8王子のレオダースです」
ふわり、長い金髪を揺らす。
先程の軟派な雰囲気をガラリと変えて礼儀正しい挨拶された。
「あ…これはどうもご丁寧に」
呆気にとられてまともに挨拶を返すことが出来なかった。
「一体なんの騒ぎですか?」
まっすぐ長い紫の髪をした青年が此方に歩いてくる。
「ヴァンナード、彼女がデスアーラ国の皇女だ」
ディストアが私を紹介する。
「ああ、貴女が…申し訳ありません。ご挨拶が遅れてしまいましたね。私は第一王子、ヴァンナードです」
さすがは一番上、柔らかな雰囲気をしている。
一番安心するというか、優しそうな方だ。
「私はデスアーラ国の第二皇女ライファです」
今ので5人だからあと4人も王子がいるのか、先が思いやられる。
「あの…私は一体誰の?」
妻にされるのでしょうか―――――?
----いじわるな王子
バタバタした敵国入城の初日、様々な個性ある王子達に洗礼、もとい歓迎を受けながら。
ついに王の元へ挨拶に行くのだった。
本当は初日に挨拶するものだが、昨日に王は不在だった。
「私がディストピア国王、アベイナント=ノーライアス=ディストピアだ」
目の前にいるのは敵国の支配者、しかし9人も息子がいるとは思えないほど若い青年の見た目だった。
‘王は死人’
噂が本当なら彼は死人ということになり、異常な若さも納得できるのだが。
昨日はいなかった王子達が謁見の間にはいる。
王の傍には王よりも少し年上の男性がいる。
「初めに言っておくが、王子達は全員、異国から集めた者達だ。
私の血は少しも入っていない」
ここにいる王子は全員養子、つまり正当な王位継承者はいないということだろうか。
彼が若くして数人の息子を持つのかがわかった。
「お前の結婚相手についてだが…」
「はい」
「9人の王子から自由に選べ」
王子を自由に、選べ?
選べと言われても釈然としない。
選択の余地があるだけありがたいが、正直えらんでも仕方がないような気もする。
「フン、私たち9人に争奪されるような魅力があるとは思えないのですが父上?」
人の不幸を食べて生きて来たような雰囲気をした男に遠慮も場の弁えもなく陰口どころか悪口を言われた。
「テンクスト、本人の前で言ってやるなよ確かに俺のハーレムには要らないが」
豪胆そうな男。
「そうかなー可愛いよー?」
見た目のわりに幼子のように無邪気な青年。
「頭だけでなく目までイカれたか」
「ドルマヌス、お前にだけは言われたくないだろう」
「ストーディは少し気に入ったものはなんでも可愛いって言うのよ」
あれは男なのか、女なのか、判別できない。
「ミルエス…お前が一番酷いと思うぞ」
それだけは同感。
「皇女」
「ライファでいいです」
生まれついてしまったのだから仕方ないが、堅苦しいものは苦手だ。
「…では俺の事も名で呼んでくれ」
「わかった」
これで幾分話しやすくなる。
ディストアが話のわかる相手でよかった。
「ごきげんよう殿下」
「ライフ・ド・デスターか」
口元にベールをつけた怪しげな男は頭を下げる
「…?」
ちらりと覗く目は、なんだか見覚えがあるような、ないような。
「初めまして、ティードラァ=ライフ・ド・デスターと申します」
にこり、微笑む嫌な感じがしたと同時になんだか懐かしい感覚もある。
「ライファです初めまして」
昔どこかであったことがあるのかとも思ったが、先程初めましてを強調されてしまったから違うのだろう。
ただでさえ常識とはかけ離れた空間で更に別世界を作るような彼。
いったい彼は何者なのだろうか、その全てが神秘的な男だった。
----豪胆な王子
「では、失礼」
ライフ・ド・デスターは嫌味たっぷりの笑みを浮かべて立ち去った。
遠くから王がこちらを見ている。
敵地でわけのわからない奴等に囲まれて、夫を選べとか、私の人生ってなんなんだろう。
あの眼鏡、確かメディス、こいつは嫌味そうな男。
明らかに女にしか見えないミルエスに頭のネジが飛んでそうなストーディ
いかにも王様気質のテンクストにハーレム野郎のドルマヌス
喧嘩をふっかけてきたカラッタバにちゃらついたレオダース
頭はよさそうだけど病んでそうなヴァンナードに無口なディストア
消去方でいくと…いない。
----美人な王子
「無難ってなんだっけ」
ため息すらつく前に消えた。
4と書かれた部屋からバリバリ、ぐちゃくゃ音がする。
ひっそりのぞいてみよう。
ミルエスが鏡の前でなにやらしている。
髪が短い、着け毛だったのだろうか。
「誰だ!?」
見られるとまずい気がする。
それにしてもいつもナヨナヨしてたくせに、さっきのはめちゃくちゃ男っぽい声だった。
見てはいけないものを見てしまった。
忘れよう。私は何も見ていない。そういうことにしておこう。
=====幼稚な王子
「?」
「わーいスカートめくり~」
「…」
気にしない気にしない、平常心でいこう。
「コラ」
ストーディを注意したのは謁見のとき王の近くにいた男だ。
一番まともそうな人である。
「なあ、あいつらとオレが何故ここにいるか知りたくないか?」
「何故いるの?」
「ま、ここに招かれた皇女サマだから知るべき話だな」
なにやらワクワクしてきた。
「まずこの世界には創造した神がいる」
「へー世界って何個あるの」
「大きく分けて3つの時空があり、一つは絶対神であるカミュレッドの創成し宇宙界、人間界、女神・マスヴェイユの作りし魔女の空間、そして二つ目の人間界。ゴッドの造った天界や魔界ともう三つ目の人間界があるんだ」
「ここってどこ?」
死国はその三つのジャンルの何れにも当てはまらないというか、違う気がした。
「ここは…確かにそれらとは属さない。なぜなら三神の全てを混ぜ合わせた混沌だからだ」
「は?」
わけがわからなくなってきた。
「ここは次元の狭間だから」
「はあ…」
「つまりここにいれば、年をとらないまま老化で死なないし、病にもかからない」
「不老不死なの?」
「そうなるな」
「もしかして他の次元から王子を集めたなんて言わないわよね?」
さっきの話を聞くと、皆年をとらないのだとわかった。
「そうなんだが?」
「…え」
「第一王子に選ばれたヴァンナードはの女神の作った二つ目の人間界から来ているお前とは別の時空だな」
「王子の序列の順番って、どんな基準?」
「この国にたどり着いた早さ」
年は関係なく来た順番なのか。
いいかもしれない。
「というかヴァンナードの来た場所と私の次元だか時空が違うってどういうところが?」
「お前はデスアーラだから絶対神の作った一つ目の人間界の古代期か…」
書物をめくりながら確認をとる。
めちゃくちゃ読みたい。
「もしかして三つの人間界の中には更に先の時代や過去があるの?」
「あるよ…ややこしいな」
ここまでなんの疑問も投げずに会話をした。
それで、次元とか言われても頭が追い付かないけど、もう受け入れるしかない。
噂では死人の王が統治している死国ディストピアだからもうしかたないんだってことにしよう。
「そうだ!私に押し付けて逃亡した姉上様がどうしているかわかる?」
「あ、ああ…君の姉は丁度、絶対神の作った一つ目の人間界の中世期で、レイツーという男性と結婚するだろう」
その本は未来がわかるのねすごい。
と一瞬思ったけど、私がここに来たときにもう姉は結婚の話を手紙に送って来たし…なんで違う時代にいるのよ。
別の神が作ったとかいう次元にいるわけでないのを差し置いても同じ一つ目の人間界にいて私達姉妹が古代期で姉の夫がなぜ聞いたことのない中世期なのよ。
デュエルベンドは本に書かれていることしか教えてくれそうもない。
今さら姉を連れ戻しても結婚までしたなら手遅れだし。
恋仲というか愛し合う夫婦を引き裂く悪役にはなりたくない。
別に姉が可愛そうだからじゃない。
今の所は想像していた捕虜の姫の扱いはされていないし。
王子の中から誰か選ぶなんて御免だけど。
まあ自分の国より自由だし悪くないかも。
「話を戻すが…後は本人がよく話してくれるだろう」
「丸投げ?大して仲良くないのに自分の過去をベラベラ話す奴等には見えないわよ」
一先ず色々詰め込みすぎて疲れたので部屋で眠ろう。
-----眼鏡な王子
眠ったら昨日の会話が全て飛んだ。
王様の側にいた赤毛の男に何を言われたのかまったく思い出せない。
近くの部屋からキュッキュと地味にうるさい音が聴こえてきた。
どうでもいいけど腹が立ったので部屋を覗いてやる。
ここはたしか六番目だからメディスの部屋だろう。
基本的に部屋の鍵などないようで、簡単に扉が開けた。
鏡の前で眼鏡を磨いているあれは誰だ。
別に美形だとかそういうんじゃなくて、なんというか、別人である。
思わず誰だお前。と叫びそうになるのを必死に堪えながら部屋から遠ざかり。
「うわあああああ」
思いきり叫んだ。
----物静かな王子
ディストアはいつも静かで、関わっても被害がなさそうだ。
これまでの中では一番良いかもしれない。
だけど悪い所がなくとも、良い所も見てはいない。
「ディストア」
「どうした…?ライファ」
ただ名前を呼び会うだけなのに、普通のことをしている。
あまりに感動しすぎて、なにも考えられなくなった。
「用がないならいくが」
「ええ、またね」
他の王子に近づけないために、悲しきかな、ときめきのハードルが下がりすぎたのだろう。
気乗りはしないけど次にいこう。
==女好きな王子
今日は八番目の王子を観にいこう。
軽薄な雰囲気を除けば、悪くはないはず。
「やっと会いに来てくれた」
待ち伏せていた第8王子レオダース。
さらりとした金髪を軽く結うと、横に流した。
「そうですね…おほほ」
この手のやからは、軽く流し、関わらないほうがいい。
下働きの女達がよく行っていた。
「つれないな…」
彼はしゅん、と肩をおとして落ち込んだ。
なんだかかわいそうになってきた。
「また来てよ、いつでも待ってる」
「あはは、うふふふ…」
まあつぎいこう。
===辛辣な王子
最後は9番目の王子カラッタバだ。
なにかしらこの匂い。スパイシーなかんじがする。
カラッタバがカレェを食べている。
「美味しそうなカレェですのね。私にもいただけるかしら」
「……別にいいけど、味は保証しない」
見ただけでこれが美味であることは間違いない。
「……美味しい」
やはりまちがいなくちゃんとカレェだ。
ナァンは無いのだろうか。
「……」
「オレはカレェにはライス派なんだよ」
「そうですか」
これはこれで悪くないか。
私はカラッタバよりカレェに気をとられて彼のことをあまり見ていられなかった。