第三話 変な猫はどこまでも変だった
ペットショップによってから家に帰るとアイカはこたつの中に潜っていった。あそこが暖かいと知っているのか?
俺は何年も使っていない部屋に向った。俺の部屋の隣にあるその部屋は使われなくなってからまったく変わっていない。ここだけ時が止まっているようだ。
その部屋の隅に一度も着られることが無かった中学の新しい制服がある。馬鹿な奴で入学まで何ヶ月もあったのに無理言って買ってもらったくせに一度も着なかった。
初めて着るときは俺と一緒に登校する時だとか言っていたっけ。
その制服のポケットを探るとあいつのお気に入りだったリボンと鈴が入っていた。
両方とも俺からの贈り物だ。リボンは誕生日プレゼントだったが鈴はお祭りの残念賞だったはずだ。それなのにあいつはこれを毎日身に付けていて大事にしていたな。
「これが丁度いいだろう」
両方を握り締めアイカのいる自分の部屋へと戻った。
「おーい、アイカ」
こたつの中からアイカを引きずり出した。嫌がることも無く俺の膝の上で大人しくしていた。アイカの首にリボンを通した鈴を結びつけた。
「よし、大切にしろよ」
首にある違和感が気に食わないのか鈴を取ろうとしていた。そのたび鈴が鳴り懐かしくなる。この音の後には笑顔があったんだよな。
「そろそろ飯にするか」
まだ夕飯には早いが俺もアイカも2食続けて抜いている。そろそろお互い限界だ。
ショップで色々聞いてきた。まだ子供だと思っていたが人間で言うと俺と同じぐらいの歳らしい。こんなに小さいのは成長が遅いだけだそうだ。店員に進まれるまま購入した猫缶の一つを皿に盛って前に置いた。その横で俺もカップラーメンをすすっていた。あちこち走ったのにくわえ空腹なので自分で作る気などまったく無かった。
アイカはご飯を目の前にそれに口をつけることなくじっと俺を見ていた。
「どうした、食べればいいぞ」
だが、アイカは食べようとしなかった。空腹のはずなのにおかしい。俺は一口分指に乗せ差し出してみた。すると、すぐにそれを食べた。
「食べられるんだな」
自分の食事に戻る。が、アイカはまた食べようとしなかった。
「まさかお前」
俺はスプーンを持ってきてご飯をすくって差し出した。すると、さっきと同じで食べ始めた。つまりアイカは……
「俺に食べさせろと」
アイカの食事を済ませてから俺は伸びきったカップラーメンを食べる破目になった。
その間ずっとアイカは俺の膝の上にいた。
「自分で食べられるようになってくれよ」
食後、アイカを撫でていると手に砂が着いた。長い間外にいたんだ、汚れていて当然か。
「風呂に入るか」
猫は水を嫌うと言うそうだがアイカは違った。俺が先に入っておこうと思ったがそこにアイカが飛び込んできたのだ。首だけを出して俺を見ていた。
「風呂好きなのか」
経験したことが無いからだろうか水をまったく脅えていない。こっちは楽だから良いけど。
「アイカ、逃げるな」
言って通じる訳でもなく俺はアイカを部屋中追いかけていた。俺はタオルとドライヤーを持ってアイカを部屋の隅まで追い込んでいた。
久しぶりにアイカの威嚇を見た。俺は可愛い威嚇に屈しることなくタオルを使ってアイカを包み込んだ。
「手間かけさせやがって」
タオルで拭きながらドライヤーをかけてやった。暴れるアイカを足で挟み込みなんとかドライヤーをかけ終わった。水は大丈夫だけどドライヤーは駄目なのか。
「どっと疲れた。もう寝よう」
布団にもぐりこむとアイカも入ってきた。昨夜と同じ場所で俺から見えるところにわざと丸くなっているようだ。猫ならもっと奥に入っていくと思うのだがアイカは枕に近い所に居る。
「お前ってかわってるよな」
問いかけても答えてくれるわけではない。
「お前が人間だったら話できるのにな」
そんなことをぼやきながら俺は深い眠りについた。
遮光カーテンの隙間から朝日が入ってくる。昨日と同じく今日も学校は休みだ。週休二日制万歳。俺はカーテンを開け朝日を浴びた。それでもまだ睡魔が残っているので休日の醍醐味二度寝をしようと布団に戻った。
昨日より他の温もりを感じアイカの存在が確かめられた。だが、その温もりは猫の大きさをはるかに超える大きさだった。
「アイカ?……」
寝ぼけた目を擦ると目の前には同じ歳ぐらいの女の子が寝ていた。
誰だ?見たことない子だな……
そのまままた眠りにつこうと……
「って、お前誰だよ」
布団をどけその子を良く見た。が、すぐに目を背けた。その子は何も着ていなかったのだ。
布団の真中で丸くなって寝ていたその子が目を擦りながら目を覚ました。
目覚めての第一声に俺は自分の過去を疑った。
「おはよう。パパ」
パパ?いつから俺は父親に?それにどう見ても歳が合わないだろうが。
「そうじゃないなあ。う〜ん、兄さん?」
こめかみを押さえながら考えている女の子にタオルを投げて背を向けた。
「とにかく、体を隠せ、なんで裸なんだよ」
「?変な兄さん」
タオルを頭からかぶったその子の首には見慣れたリボンと鈴がついていた。
「まさか、アイカか?」
「やっぱり分かってなかったんだ。そうだよ、アイカだよ〜」
猫のときのように俺に飛びついてきた。自分の格好をまったく気にせず俺に抱きついてきたアイカに俺は焦りを隠せなかった。




