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奥崎の目的

 湧哉が中央広場へ出ると生徒が二人、職員室から出てくるのが見えた。同じ二階のほぼ正面なのでよくわかった。

 その二人は急ぎ足で職員室前の階段を上っていってしまった。

(授業始まってるのに何してるんだか)

 自分のことは棚に上げてそんなことを思う湧哉。人それぞれ事情があるというのに。しかもこの時間に職員室から出てきたのだ。授業の関係だろう。

「おい! 何してる! 今は授業中だぞ!」

 広場に声が響いた。いつの間にかそこにいたのか、後ろを見ると谷口が立っていた。

「いや、そのですね。奥崎先生が教室に来ないので様子を見に行こうかと……」

「奥崎先生が授業に来てない? 畑原、もう少しマシな嘘はつけないのか?」

「マジなんですよ。奥崎先生の授業サボったらどうなるか先生も知ってるじゃないですか。じゃなきゃわざわざ教室から出てきませんって」

「まあ、言われてみればそうだけどなぁ……」

 課題未提出のペナルティをもらうことが確定している湧哉の口から出た言葉とは思えないが、谷口はそれで納得したらしい。

 それでも完全に湧哉を信じてはいないのかそのまま行かせることはしなかった。

「それじゃあ一緒に職員室に行くぞ。俺も忘れ物したから、今から行くところだったんだ。奥崎先生のことを聞いてみよう」

「わかりました」

 湧哉は谷口とともに職員室に行くことにした。奥崎が教室に来ていないことは間違いないので断る理由もない。

 大した距離ではないので二人とも無言で職員室まで歩くと室内に入った。

 

 職員室内の人は少なかった。みんな授業で出払っているんだろう。

 谷口は一番近くの机に座っている若い教員に声を掛けた。

上北かみきた先生、奥崎先生が担当の教室に来ていないらしいんだ。何か聞いてないか?」

「奥崎先生? いつも通り予鈴が鳴り終ってすぐに出て行きましたよ」

「そうか。ありがとう」

「あ、でもそのあとすぐに教頭も出て行って廊下で何か話してたみたいですよ」

「教頭が?」

「ええ、しばらく話し込んでたみたいです。たぶんいつものことじゃないですか?」

「ああ、旧校舎のことか?」

「旧校舎?」

 今まで黙っていた湧哉だが急に思いもよらない単語が出てきて反応してしまった。

「谷口先生、生徒の前でそれはまだ言っちゃダメですよ」

「あ……。そうだったな……。畑原、今のは誰にも言うなよ? もしくは忘れてくれ」

「え? わ、わかりました」

「まあとにかく、教頭が奥崎先生を連れていったんだろう。全く、なんであの人が教頭でいられるのか不思議でならないな」

「谷口せんせー、口が過ぎますよ。生徒の前で……」

「おおっとそうだった。今のも忘れてくれ」

「……」

 次々と口を滑らせる谷口。意外に口が軽いようだ。何か聞けばポロポロと出てきそうだ。今は上北がそれをさせない抑止力になっているが。

「とにかく、二人がどこにいるかわからないんじゃ仕方ない。畑原は教室に戻って今日は自習だと伝えろ。俺ももう戻らないといけないしな」

 谷口は自分の机に目的の物を取りに行った。

 一人残った湧哉に上北が声を掛けた。

「ほらほら、早く教室戻らないと。また谷口先生に捕まりたくないでしょ?」

「そ、そうですね。失礼しました」

 挨拶をすると湧哉は職員室を出た。

 教室に戻る途中で頭の中を整理し始めた。

(奥崎先生と教頭の間には元々問題があった。それは旧校舎について……。でも、旧校舎ってこの新校舎が作られたときに取り壊されたって聞いたけど……)

 湧哉は足を止めて吹き抜けの中央広場を見上げた。ガラス張りの天井からは太陽の光が入り込んでくる。その光は校舎を明るく照らし、天気のいい日は電気がいらないくらいだ。

 この新校舎のために壊された旧校舎。壊されたのはもう五年以上前だ。今更何をもめているというのか。

 どんなに考えても湧哉が答えにたどり着くわけもなかった。

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