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孤島

 時間は過ぎ日も傾いてきた。クラスでの作業は順調に進んでいる。明日からは通常通りに授業が行われるが、この分ならばかなり余裕があるだろう。

 高坂と木梨も教室へやってきていた。高坂は居心地の悪そうな顔をしていたが、それに澤が助け舟を出すことで参加し始めた。木梨はその光景に満足したのか柳鳥とともに他の作業へと移っていった。澤と高坂はお互いにぎこちないふるまいだったがあれならやっていけそうだ。だが湧哉は他にも問題を抱えている。

(教頭の件は全くだったな……。この広い校舎から探し出すなんてやっぱり無理だったのか?)

 高坂を探して4階まで登ったときも、普段より注意深く周りを見ていたがカメラらしきものは待ったく目に留まらなかった。このままでは悠の意見集めは一向に進まないことになってしまう。

(奥崎先生に状況だけでも聞いてみるか)

 スマホで連絡を取ろうとも思ったが仕事中の彼女から連絡が来るかわわからない。ならばと湧哉は席を立った。

「またどこか行くの?」

「あー―――」

 席を立つ湧哉に悠が気が付いた。この件は悠も全く関係がないというわけではないが古野濱のこともある。内容が内容なだけに連れていくことは憚られた。

「―――ちょっとトイレ行ってくる」

「そっかそっか。いってらしゃーい」

 悠を教室に残し、湧哉は1人教室を出た。


 今までは職員室に来ることなど滅多になかったが、ここ数日は毎日来るようになってしまった。室内は相変わらずと言った感じだ。その中から奥崎の姿を探すが見当たらない。彼女の机にも姿はなく、ここにはいないようだった。

「畑原、どうしたんだ?」

「あ、谷口先生……」

「なんだそのいやそうな顔は」

「いえ、別にそんなことは……」

 いかにも体育会系でがっちりした体格の谷口。奥崎が授業に現れなかった際に会って以来だが、熱血気質の谷口には少々威圧感を覚えていた。

「それでなにようだ?」

「奥崎先生を探してるんですけど、どこにいるかわかりますかね?」

「また奥崎先生を探してるのか? 確か教頭先生に呼ばれた後どこかに行ったみたいだけど、場所はわからないな。教頭先生に聞いてみたらどうだ?」

「え……?」

 この展開は好ましくない。視聴覚室の一件でおそらく顔は覚えられてしまったはずだ。

「おいおいなんて顔してるんだ? まあ、気持ちはわからんでもないが……」

 教頭を相手にしたくないという心境が顔に出ていたようで、谷口はそれを指摘したが同情するような顔をした。そういえば、奥崎を探して職員室に来た時、谷口は意外にもポロポロと口を滑らせていたのを思い出した。

「てことは谷口先生も―――」

「ああ。どうにもあの人は信用できなくてな。順当にいけば田島先生があの席に座っているはずだったんだろうが、なぜかあの結果だ。見てみろ」

 周りに聞かれると良くないということはわかっているようで谷口は声を潜めた。そして目で教頭を指差す。それを追って湧哉も視線を動かした。

 視線の先には教頭の机がある。机の主はそこに腰かけており、パソコンの画面を眺めながらニヤニヤといやらしく笑っている。

「確かにあんな表情はなかなかできるもんじゃないですね……」

「それも要因の一つかもしれないが、この部屋の中じゃ浮いてるだろ? 机の周りに誰もいない」

 言われて気が付いた。生徒と教師の入り乱れる職員室で教頭周りだけはとかに誰もいなかった。一人で机に向かう教員もいたが周りには誰かしらがいる。校長の机を挟んだ向かいにいる田島に周りには生徒がいるというのに……。

「完全に孤立してるんだよ。みんな無意識にだろうが避けてるんだよ」

 人のにぎわう今この場所で教頭と言う孤島を見ているのはとても奇妙な気分だった。自分がそういう状況だと気付いているのかはわからないが、こんな状況でニヤニヤと笑っていられる人物を相手にしているのかと思うと少し背筋が寒くなった。

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