『門』
考えてみればわかることだった。教頭があそこまでやれるのは後ろ盾があるからだ。
「高校の中で教頭よりもえらい人って誰がいる?」
「校長と理事長ぐらいじゃないかな」
「じゃあ校長と理事長だったらどっちだ?」
「断然理事長だね。校長っていうのはあくまでも先生たちの長っていう立場で、理事長はそれを管理運営する人たちの長って感じだね。学校を会社とすると先生は会社員、生徒は顧客、理事会はその会社を運営するいわば取締役みたいなところかな」
「ってことはうちの学校で一番偉いのも理事長ってことになるのか?」
「まあ、一応、そういうことになるのかな?」
「一応ってどういうことだよ?」
「渡ヶ丘高校の理事長は校長先生が兼任してるんだ」
「そんなのありかよ……」
もし校長が教頭の後ろ盾だったのなら理事長という存在に教頭のことを伝えればどうにかなるのではないかと思った湧哉だったが、その理事長が校長と言うのでは全く意味がない。
「私が聞いた話だと前の校長先生だった大御門先生もそうだったような」
「そうですね。渡ヶ丘高校ができてすぐの時にはそれと人員もいませんでしたし、何より大御門校長本人が立ち上げた学校ですからね。当然と言えば当然です。そのまま今の校長に役職が引き継がれているんです」
「今に始まったことじゃないけど、門紅やけに詳しいな」
「それはそうなんじゃないかな? だって大御門先生は門紅君とは親戚でしょ?」
「……親戚?」
「いや、親戚って言うのとは少し違うんです」
「あ、そうだったんだ」
「俺だけ置いてかれてるんですけど……」
「か、門紅君。も、もしかしてこれって……ひ、秘密、だった?」
「いえ、そんなことはないです」
「そ、そっか。よかった」
話の方向がわからないと主張する湧哉を見て古野濱は不安になったのか少しおどおどとし出したが悠の返事に落ち着きを取り戻した。しかし置いてきぼりのままの湧哉の状況は全く変わっていない。
「この間は何も言ってなくなかったか! これって結構重要なことだろ……?」
「そんなことないよ。でもせっかく話題に出たし少し話すよ。古野濱先輩もいいですか?」
「うん、大丈夫だよ」
悠は湧哉に確認はとらずに姿勢を整えるとゆっくりと口を開いた。
「大御門先生は元々この地域の大地主の家系だったんだ。旧校舎が建っていた一体もそうだったんだけどこれは今は置いとくね」
「ああ。それで?」
「その大地主っていうのは家系って言うのが『門』一族って言われてる」
「『もん』? それってもしかして―――」
「その通り。門紅、門白。この二つもその一族の一つなんだ。大昔には門の一族っていうのはこの地を守ってたんだ」
「でも門紅と門白って苗字だよな? 同じ一族なのに違うって変じゃないか?」
「それはちょっと独特なんだけど、門紅、門白っていうのは役職だったんだよ」
「役職?」
「例えば他には門守っていう苗字の人もいるんだ。これは自分たち一族を守る役」
「うーんと、それじゃあ攻める役の人は門功になるの?」
「実際に門功っていう名前ではないですけど、そのニュアンスであってます。僕たち紅白は一族間での対立がないように監視する役割がありました。それと大御門はそれらをまとめる役で、一家ならぬ一族の大黒柱的存在ですね。といってもその風習は江戸時代ごろまでで、明治に入ると徐々に役割は無くなっていったそうです。今では他の土地に移っていった人たちもいて僕もあったことがない人もいるんです」
一通り話が済んだようで悠はの口はそこで止まった。しかし、ごちゃごちゃとした説明に湧哉の頭の中は再びぐちゃぐちゃになっていた。
「同じ一族だけどそうじゃない……。つまり、どういうことだ……?」
「血は繋がってないけど同じ屋根の下で暮らしてきた人の集まりってこと」
「それならわかるな……ってだいぶ話がずれたな」
校長の話から急に悠の家の歴史に話題が移ってしまっていた。しかし、大御門前校長と悠が近しい関係だったということは、現校長について何か詳しい話を知っているかもしれない。これは聞いてみる必要がありそうだ。




