喫茶店『MANNER』
時刻は夕方6時。日が傾き西の空は赤く色を変えていた。その色は大きな駅舎も赤く染めている。
住宅の多いこの町には帰ってくる者も多い。今日は土曜日と言うこともあって駅から出てくる人数は少ないが、駅周辺の店は人で溢れていた。
そんな中を湧哉と悠は歩いていた。自転車を寮に停めた二人は阿良田から教えられた喫茶店に向かっていた。
「この辺歩くことは多いけど、よく行く店以外は何があるのかよくわからないんだよな~」
「僕もそうだね。家とは逆方向だから来ることないし」
「ないって、買い物とかどうしてるんだよ」
「昔から付き合いのあるお店から仕入れてるし足りないものは藤爺が揃えてくれるよ」
「……。そういやお前、お坊ちゃまだったもんな……」
「なんかその言い方には悪意を感じるんだけど……」
駅前ロータリーを囲むように十数件の飲食店が扇状に並んでいる。二人はその前を歩く。今日は天気がいいので店先に並んでいるテーブルで食事をしている人も見受けられた。そろそろ夕飯時だ。そんな光景を見ているせいもあって湧哉は空腹を感じていた。
「あのお店だね」
悠が指差すのは扇の一番端に当たる場所。そこに喫茶店はあった。
「喫茶店『MANNER』か。こうやって見ると他より地味だよな」
「地味っていうかシンプルなんじゃない?」
周りの店はいかにも新しく華やかな印象を放っている。しかしその喫茶店はそんな印象を受けなかった。無駄なものがなく、看板も名前が書かれているだけで飾り気がないのだ。しかしそれでも他の店に見劣りしているというわけではない。
「他と違い過ぎて覚えてそうだけど全然記憶になかったな」
「入ってみる?」
「そうだな。行くか」
木製の扉を手で引くと入店を知らせるベルがチリンチリンと鳴った。店内は店の中は満席に近かった。ちらほらと渡ヶ丘高校の制服姿も目に入るが古野濱がどこにいるのかはわからない。
入口に立っている二人にカウンターの中にいた若い店員が案内に出てきた。
「いらっしゃいませ。お二人かな?」
「人を探してまして、ここによく来るらしいんですけど」
「常連さんかな? 名前がわかればこっちも教えられるかもしれないけど」
「古野濱って言うんですけど」
「ああ、古野濱さんね。あの子なら一番端の席にいるよ」
店員はすぐにわかったようで、店の一番奥を指差した。そこには一人で本を読む古野濱が座っていた。
「ありがとうございます」
「いやいや。それじゃあごゆっくり」
店員は挨拶をするとカウンターの中に戻っていった。
湧哉と悠は店内のテーブルの間を進む。やっと古野濱を見つけた。彼女と教頭の関係を問いただすときだ。




