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学食の会合

 学食は一階の東側にある。ちなみに購買は学食の隣だ。よって昼休みはここに人が集まってくるのだ。

 門コンビと話をしていたので学食はすでに込み合っていた。学食では厨房からの配膳口に列ができていた。

 二、三種類のメニューが日替わり作られている。今日のメニューはカツ定食と牛丼らしい。随分と価格に差があるメニューだ。

「次の人どーぞ」

「カツ定食で」

「はいよー。カツ定食一つー。次の人はー?」

 厨房のおばちゃんにメニューを伝えるとそれを調理人に伝えた。流れに沿って配膳口まで行くとそのその時にはもう出来上がっていた。

 揚げたてのカツの香りが鼻を擽る。カツの誘惑に耐えながら席を探した。

 ちらほらと空いている席はあるのだが、知らない人の隣に座るのは気が引けた。学食の端まで行くと二人席が空いているのが目に入った。

 誰かに座られる前に急ぎ足でその席に向かった。他にその席を狙っている者はいなかったが早く食事にありつきたいようだった。

 席に着くと湧哉はすぐさま手を合わせた。

「いただきます」

 足札をすると箸を手に取りカツを一枚掴んで口へ運んだ。

 サクッっという衣の音の後にやわらかい肉の食感が歯に伝った。

「うまい」

 思わず感想が口から漏れる。学食にしては出来過ぎの代物だ。

 続々と学食に入ってくる生徒で席は埋まっていく。どの生徒も手にはカツ定食を持っている。

 そんな中お盆の上に牛丼を乗せた者が。肩まである黒い髪、白いワイシャツに黒いパンツスーツの女性。もちろん生徒ではない。

「来た……」

 ぼそりと一言。彼女が奥崎だ。

「この席開いてるか?」

 湧哉の答えを待たずにお盆を机に置くと椅子に座った。聞いたのは形式的なものだったらしい。

 奥崎は牛丼を一口頬張るとさっそく本題に入った。

「USBを返せ。それから昨日のことは誰にも言うなよ?」

「あんなこと誰に言うんですか」

「釘はさしたぞ」

「それってそっちが言うことですか……」

 言いつつも湧哉はUSBメモリを奥崎に手渡す。

 奥崎は湧哉だけにこういう態度をとっているわけではない。少々冷たいが、どんな相手でも平等に扱う。厳しいが裏表がないと評判は良かった。

「収穫はなかった。次は―――」

「収穫かはわかりませんけど……、これ調べてみたらいいんじゃないですか?」

 得意げにポケットからデジカメを取り出し机の上に置いた。

「これは?」

「教頭の机にありました。写真撮ってるならこれでいいんじゃないですか?」

 得意げな湧哉だったが奥崎はそちらを見ずにデジカメに目線を向けたまま箸を進めた。

「中は見たのか?」

「いや、まだ見てないです。なんかやばそうだったんで」

「そうか」

 今度は箸を置きデジカメを手に取ると奥崎は湧哉に目線を向ける。

「畑原、こんなものを持ってきてどうするつもりだ?」

「へ?」

 成果を認めてもらえることを期待していた湧哉は固まった。持ち出したことはまずかったが夜の校舎へ忍び込ませた人の言うこととは思えない。

「確かに私の探しているものはこの中に入っているかもしれないが、これを持っているところを見つかったらお前はどんな言い訳するするつもりだったんだ?」

「それは……」

 確かにこれを持っているところを湧哉が見つかった場合はまずいだろう。素直に教頭の机から持ち出したとは言えない。自分のものだと答えたとしても、奥崎の言い方では中の写真は良くないものであることが想像できた。取り上げられて中身を見られたら結局まずいことになるのだろう。

「それにここで取り出したのはまずい。お前がデジカメを持っていることが教頭の耳に入ったら何かしら行動を起こすだろう。後先考えずにに行動するな。見落としたミスが後々自分を追い詰めるかもしれないんだからな」

「……」

 湧哉の顔をじっと見つめ続ける奥崎。それに耐えられず湧哉は顔を伏せた。

 確かに軽率だったのかもしれない。デジカメという高価なものだ。なくなれば誰かが持ち去ったとわかるだろう。

「でも、これで合点がいった。教頭が珍しく朝番を買って出たのはこれがないのに気付いたからか。たぶん、昨夜職員室を出た時に見られてたんだろ。顔まではわからないみたいだが」

「俺……やばいですかね……?」

 下を向いたまま奥崎に問う。奥崎が教頭に伝えることはないだろう。しかし、奥崎の言う通りどこで話が広がるかはわからない。

 今までは全く気にならなかった他の生徒たちが急に気になり始めた。今更気にしてもダメなことはわかっているがそれでも意識してしまうのだ。

「いい状況ではないな。お前だとばれる可能性は低いが、全くないとも言い切れない」

 奥崎はやはり厳しいことを言う。だがそれが現状だ。取り繕っても仕方ない。

 奥崎は再び箸を持つと食事を再開した。

 湧哉も特に言うことはなく二人の間には沈黙が続く。

 食事を済ました生徒たちは休みの残りの時間を有意義に使うために学食を出て行っていた。中にはここに残って雑談をする者もいるがその人数は少ない。

 満席状態だった席が半分ほど開いたころ奥崎が牛丼を食べ終わり席を立った。人が多いときはいいが人数が減ってくると生徒と教師の相席は目立つ。変な噂を流す輩もいるだろう。

「デジカメは私が預かる。何かあったら私の携帯に連絡を入れろ」

 そういって奥崎はお盆とデジカメを持って行ってしまった。

 一人取り残された湧哉は予鈴がなるまでそこに座っていた。

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