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放っておいてはくれない

 翌朝、湧哉の足取りは重かった。昨夜のことで寝不足と疲れが溜まっていたこともあったが一番気が病んでいたのは他のことだった。

「課題どうしよ……」

 湧哉の心配とは今日提出する課題のことだった。昨日は部屋に帰ってくるなりベットに倒れこんで寝てしまったため課題が終わっていないのだ。

 奥崎の授業はなかなか厳しい。予習復習は当たり前、提出物を出さなければ減点、課題をプラス。それらをしっかりこなしていれば問題ないのだが、授業にそこまで積極的でない湧哉には少々辛い科目だった。

「今更どうしょうもないか」

 学校に着いてから始めてもとても終わらないことはわかっていたので心の中では諦めていた。


 寮から歩くと十分ほどで学校に到着する。

(さっき出てきたばっかなのにもう学校か……)

 憂鬱なようだがサボろうとはしない。

 正面の門を通って敷地内に入る。校舎に取り付けられている時計を見ると時刻は八時十五分だ。八時に寮を出る生徒が多いこともあってそれなりの人数が昇降口に向かっていた。

「おはようございまーす」

 昇降口前では朝の挨拶が交わされていた。

 特に珍しいことでもなかったが声につられて湧哉が視線を下げると昇降口前には挨拶に答える教頭が立っていた。

(な、なんで……)

 もしかしたら自分を探しているのんじゃないかという不安がよぎる。

 後姿は見られたかもしれないが顔は見られていないはずだし、自分があの時校舎にいたことに気付いているのかもわからない。教頭はあの時物音を追っていたのだから。

 そう思ってはいても、どうしても不安を拭い去れない。

 考えている間にも着々と距離は縮まっていく。下手なことをすると気づかれるのではないかと思うと何もできなかった。

 結局そのまま教頭の前に来てしまったので顔をあまり見られないように少し下を向いたまま軽く会釈した。周りでは何人か声を出して挨拶している者もいたので逆にそうしなかったことに不安がなった。

 通り過ぎた後も教頭がこちらを見ているんじゃないかと思うと振り返れなかった。靴を脱ぐとすぐに自分の下駄箱にしまい、取り出した中履きをしっかり履かないまま昇降口を後にした。



 三階南側の教室。三十人弱のクラスにはまだ十数人ほどしかいなかった。まだ登校していない生徒や部活の朝練からまだ戻っていない。あと二十分ほどでホームルームが始まるので直にみんな来ることだろう。

 湧哉は自分の席に着くと机に突っ伏した。

「もう……疲れた」

 周りから見ていたら寝ているんじゃないかと思うほどだ。

 だがそんな湧哉を放っておかない人物がこのクラスにはいた。

「畑原ー、おっはよー!」

 ベシッと頭を引っ叩かれた。

 湧哉がゆっくりと顔を上げると机の前に坊主頭で野球のユニフォームを着ている男が立っている。西谷にしや 研太けんた、湧哉のクラスメートでその格好の通り野球部だ。朝練が終わって今到着したのだろう。

 ニコニコと笑っているが、その顔は湧哉には迷惑だった。

「どうしたんだよっ!? 朝から元気ないぞー!」

 今度は湧哉の肩をバシバシと叩きながら声を掛けてくる。

「疲れてるんだよ……。放っといてくれ……」

「おいおい、まだ今日は始まったばっかりだぜ? 今から疲れてたんじゃこれから持たないぞっ!」

 こちらの都合など無用で自分のペースですべてを進める西谷は再び湧哉の肩を叩いた。

 さすがに耐えられなくなった湧哉は西谷の腕を掴もう手を伸ばすが寸前のところで腕を引かれた。

「おっ! 動けるじゃん!」

 今度は頭を一回叩かれた。

「テメー!! いい加減にしやがれえぇぇぇーーーー!!!!」

 疲れの限界を通り越して勢いよく立ち上がり西谷に飛び掛かった。が、西谷はあっさりとそれをかわした。

「いいぞっ! その元気があれば今日もまだまだやれるぞ!!」

 そう言いながら西谷は走って教室から出ていった。

「待ちやがれええええ!!!」

 それを追って教室を出る湧哉。今、彼の頭の中は西谷に一発叩き込むことしかないようだ。

 寝不足、気疲れ、純粋な怒り。この辺りに触発されているのだろうが、後悔することになるのは目に見えていた。

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