悠の気持ち
昇降口を出たところで湧哉は悠に電話をかけた。
『もしもしハタハタ? ごめんさっきは移動中だったんだ。そっちは終わったの?』
「ああ、終わった。これから向かうけどそこに奥崎先生いるか?」
『奥崎先生? いるよ』
「俺が行くまでそこにいるように伝えてくれ」
『俺が行くまでって……いったい何しようっていうのさ』
悠の声は疑いに満ちていた。悠から見れば奥崎と湧哉の関わりは授業だけであり、特別な用事があるとは思えないのだろう。
「別に何もしないって。とにかく伝えといてくれよ」
悠の返事を待たずに湧哉はすぐに通話を切った。ここで悠にあれこれと説明しても仕方がない。それは記念館に着いてからでいいだろう。
スマートフォンをしまうと湧哉は澤に向き直った。
「じゃあ俺はこのまま記念館に行くからここで。ありがとな」
「大したことはしてないよ。それに私も実行委員を引き受けてもらってるし」
「それこそ、俺は何もしてないけど」
「フフッ、これからよろしくね」
「明日から忙しくなりそうだ」
その後澤と別れた湧哉は記念館へ向かった。一度しか通ったことのない道だったが迷うことなくたどり着いた。
一昨日見た風景と変わらないはずなのだが、取り壊されるという話を聞いたせいか記念館は悲しげに見えた。ひらひらと舞う木の葉が更にそれを際立たせた。
記念館の前には悠の自転車と奥崎の車が停まっている。まだ 二人は中にいるようだ。屋内に入り階段を上ると資料室の中に二人の姿が見えた。
「お待たせでーす」
「ハタハタ! なんで電話切ったのさ!」
部屋に入るとすぐに悠が迫ってきた。
「あのまま話してても仕方ないだろ。こっちに来てから話せばいいんだから」
「それは……確かに……そうかもしれないけど……」
珍しく悠の歯切れがわるい。背後を気にしているようで、そこにいるのは奥崎だ。あまりのわかりやすさに湧哉も目を細めた。
「な、なに、その眼は……」
「お前、やっぱり奥崎先生の事―――」
「そそそそそんなわけないだろ!! 何言ってるんだよ!」
慌てふためく悠。めったにない事なのでもっといじり倒したいが、澤の助言を奥崎に伝えなければならない。
「奥崎先生、ちょっといいですか?」
「ちょっとハタハタ!?」
椅子に座っていた奥崎は湧哉が呼ぶとこちらにやってきた。悠は何を勘違いしたのか更にパニックに陥った。
「なんだ?」
「ここじゃあれなんで下の階で話しましょう」
「ああ、わかった」
湧哉と奥崎はそのまま階段へ向かった。残された悠は落ち着きを取り戻すのはまだしばらくかかりそうだ。




