空腹の偶然
ホームルーム終了後、クラスは文化祭の係りごとに分かれていた。澤や井ノ瀬の指示ではなく、自主的に残っている。そんな中、澤と湧哉は二つの集まりから少し離れたところにいた。
「あの人数配分でよかったのか? 最後、もう少し粘ってもよかったと思うんだけど」
「準備の方が時間もかかるし多少は人数が多い分には大丈夫だと思う。それに当日人が足りなかったら私が補うから」
「でも自分の時間削るのは損じゃないか?」
「私が委員長だからね」
「委員長だからってそこまでやる必要って―――」
「この方がうまく進むの」
質問に対する答えにはなっていなかったが湧哉はそれ以上聞かなかった。委員長としての方法ではなく、これは澤独自の方法なんだとわかったからだ。
「でも、実行委員は俺のとこに来たんだな」
「そ、それは―――」
湧哉が冗談半分でそんなことを言うと澤は慌てた様子で真面目に返事を考えていた。それを見ておかしくなった湧哉は笑いながら答えを話した。
「わかってるって。俺が手伝うって言ったって門白から聞いたんだったよな? 実際言ったからな……。口は災いの元だな」
「でもおかげで助かったよ。話が急だったから」
「井ノ瀬先生も随分急に話を出してきたもんな。今週の始めあたりから言ってくれれば余裕あったのに」
「井ノ瀬先生って少し抜けてるところがあるんだよね。委員長やってそれに気づいたんだ」
「へえー全然気づかなかった。うまい事隠してるんだな」
二人での会話が弾む。あまり関わりのない二人だったためか話題はたくさんあるようだ。
「澤さーん、ちょっと来てくれるー?」
しばらく二人で他愛のない話をしていたが屋台係から澤に声が掛かった。
「ちょっと行ってくるね」
「おーう」
澤が行くと一人になった湧哉。この後職員室に戻った井ノ瀬と話をしなければならないのでまだ帰るわけにはいかない。調理係の方もまだ終わりそうにない。
(そういやちょっと腹減ったな)
昼は間に合わせに惣菜パンを食べただけだったので少々小腹が空いてきていた。湧哉は財布を手に取るとこっそりと教室を出た。
他のクラスでも文化祭の話し合いをしているのか、購買に行くまでの間は誰にも会うことはなかった。
購買に着くと昼の騒ぎのことを覚えていたレジのおばさんは大変だったねえと声を掛けてきた。
放課後はあまり品ぞろえがいいとは言えないが小腹を満たすだけならそんなに多くのものはいらないだろう。今回はおにぎりとお茶を手に取った。
会計を済ませると湧哉は隣の学食に入った。文化祭では学食の調理場を使うことを思い出し、ちょっと中を覗いてみようと思ったのだ。二年半この学校に通っているが調理場を気にしたことは今までなかった。
学食の席には誰も座っていなかった。しかし、調理場内には数人の人が詰めていた。
「こんちわー」
「いらっしゃい。何にするんだい」
いつものおばちゃんが顔を出した。何か注文するのかと思われたらしい。
「いや、今日はこれがあるんで」
そう言っておにぎりを見せたがおばちゃんは特に気にした様子は見せなかった。
「そうなのかい。ところで今日はなにかあったのかい? この時間に誰も来ないっていうことは珍しいんだけどね」
「たぶん文化祭のことで色々話してるんだと思いますよ」
「そっかそっか。それじゃあもう少し遅れてくるのかしらねぇ」
「放課後に食べに来る人っているもんなんですか?」
「そんなにたくさんはいないわよ。でも一人も来なかったことはないかしらねぇ。ほら噂をすれば」
おばちゃんの視線を追って学食の入口を見るとそこには奥崎が立っていた。
驚いたのは湧哉だけではないらしく奥崎も同じだったようだ。足をピタッと止めて湧哉の顔を見つめている。
「奥崎先生、今日はどうするんだい? 昼は珍しく来なかったけどいつものでいいのかな?」
「え、ああ、はい。お願いします」
「はいよー。裏Cセット一つ入ったよー」
おばちゃんは注文を受けると奥に戻っていった。
二人きりになったところで奥崎は何か決心したように口を開いた。
「畑原、少し話せないか?」
昼間のことで思うところがあったのだろうか? 奥崎の頼みに湧哉は静かに頷いた。




