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新たな先輩

 クラスでの西谷と違う素っ気ない態度に湧哉は戸惑っていた。西谷はクラスのムードメーカーでもある。相手がどんなに沈んでいようと明るく接してくるのだが今はそれが嘘のようにおとなしい。

「そうだ西谷ぁ、俺ちょっと喉乾いてるんだわ。俺のもついでに買っといてくれよ」

「イヤっす」

 考えることもなく即答だった。

 西谷の返事に気分を害した岩木は表情を変えた。

「あ? 先輩は敬えよ」

「あんたにそんなこと言われなくてもわかってるっす」

「んだとぉ!?」

 岩木は恐ろしい形相で西谷に迫った。

 思わず湧哉は身を引いてしまったが、西谷はたじろぐことなく立っている。

 にらみ合う二人。どちらも一歩も引くつもりはないようだ。

「おい、通路がつっかえてる。それと、喧嘩するなら二人とも職員室に連れていくぞ」

 騒ぎに気が付いた奥崎が仲裁に入った。

 岩木は背後に立った奥崎を一瞥したが再び西谷を睨み付けだした。西谷もチラッと奥崎に目をやったが岩木に視線を戻す。

「聞いているのか?」

 奥崎の声に冷たさが感じられた。一度の注意で応じなかった場合、二度目は容赦がない。それが奥崎だ。

 だが、奥崎では岩木と西谷を職員室に連れていくことはできないだろう。体格差がありすぎる。

 ただでさえ男と女だ。体格差がある。それに西谷は体が大きい。岩木はさらに一回り大きい。

「西谷ぁ、考え直すなら今回のことは見逃してやるぞぉ」

「購買にいるんすから自分で買ったらいいじゃないすか」

「授業の帰りだから金がねえんだよ、金が」

 体格差のあることがわかっているのか岩木は奥崎のことを気にも留めず無視し続けた。

 奥崎もわかっているのだろう。自分ではこういう問題がうまく処理できないことが。勤務5年目と言っても奥崎はまだ若い。年配の教師と比べると抑制力がないのだ。

「わかったらさっさと買ってこいよ」

「いやっす」

「てめえ……!!」

 岩木が今にも手を出しそうだ。

 先ほどから蚊帳の外な湧哉だったが自分が加わったところで状況が良くなるとも思えなかったので、何もすることができなかった。

 それは購買にいた他の生徒たちも同じで、ただただこの光景を見ているしかできなかった。

 湧哉は岩木の向う側にいる奥崎に何とかしてくれと視線を投げるが奥崎も焦っているようで打開策が思いつかないようだ。

「西谷ぁ、そろそろ俺も我慢の限界なんだよぉ」

「岩木先輩ってこらえ性がないっすからね」

「お前なぁ!! いい加減にしろよぉ!!!!」

 岩木が拳を握った。そのまま腕を引き西谷に向かって拳を振るおうとした。

「岩木!!」

「西谷!!」

 奥崎と湧哉がそれぞれの名を呼ぶ。奥崎は制止するために、湧哉は警告するために。だがどちらもそれには答えない。岩木は拳を突き出し、西谷はそこから動こうとはしなかった。

「そこまでだ」

 それは大きな声ではなかった。だがその声が聞こえると、まるで時間が止まったかのようにピタリと岩木の拳が動かなくなった。

 その場にいた全員が湧哉の後方を見つめていた。湧哉も振り返るとそこには一人の男子生徒が立っていた。

「校内での暴力沙汰は禁止だぞ。岩木、また停学になりたいのか?」

「……」

 購買の入口に立っているその男子生徒の問いに岩木は答えなかった。その代りに拳を引いた。

「まあ、こちらとしては停学になってくれた方が安心して学校生活を送れるがな」

「阿良田……てめえ」

(えぇ!? 阿良田!?)

 古野濱から聞いていた阿良田 光。まさかこんなところで出会うことになろうとは。

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