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田島との会談1

 放課後、湧哉と悠は再び職員室を訪れていた。もちろん田島に会うためだ。

 二人が職員室内に入ると昼と同じようにがやがやとしていた。昼よりも生徒の数が多い。『文化祭』というワードが二人の耳にも入ってきた。

「うちのクラスは何することになったんだろうな?」

「そう言えば僕も聞いてないや」

「去年の企画のせいで文化祭への参加意欲が無くなったのかもな」

「ははは……それはあるかも」

 去年の惨事を思いだし苦笑いをする二人は田島の机を目指した。

 湧哉は会話をしながらチラッと教頭の席に目を移したが今は誰も座っていない。教頭はどこかへ行っているようだ。

 同じく空席の校長席を挟んだ反対側。田島は席に着いて書類に目を通していた。

「田島先生」

「ん? ああ、君たちか。待ってたよ」

 悠が声を掛けると田島は手にしていた書類を置いた。

「具体的に何をするかは決めているのか?」

「文化祭に来てくれた人たちに資料館への案内、または資料を校舎に持ってきて観覧室を作るというのも考えましたが……」

「前者はなかなか難しいな。ここからは距離があるし文化祭という短い期間だけだと資料館まで行く人は少ないだろうね。資料の方もあれだけを見てくれる人は多くないだろう。そもそも新校舎を見に来る人もいるくらいだからね。旧校舎のことを見たがる人もいないだろう」

「わかってます。だから先生に話を聞きたかったんです。田島先生が地域行政とやろうとしてること、それを教えてほしいんです」

 悠の言葉を聞き終ると田島は腕を組んで目を閉じた。その顔は少し険しい。

 湧哉は周りの喧騒に耳を傾けていた。自然と入ってくるのは文化祭、授業の質問、委員会の仕事。主にはそんなところだ。みんな目的があってここに来ているのだろう。

「井ノ瀬先生、うちのクラスの意見ですが―――」

 おそらく澤だろう。そこから先は聞こえなかったがF組の文化祭の意見を渡しに来たのだろう。はたしてどうなったのか。明日の朝のホームルームで聞かされることだろう。

「なかなか難しくてね」

 やっと田島が口を開いた。湧哉は後ろに集中していた意識を田島に向けた。

 田島は腕を組んだまま話を続ける。

「旧校舎は確かに歴史的な価値があった。この町もそれはわかっていたことだ」

「それなら難しいことはないんじゃないですか? 歴史的な価値ってだけで十分宣伝になるんじゃ……」

「そうですよ、あれだけ装飾もあったのに。僕が最後に見た時も古びれた感じはなかったですし。しっかり管理もしていたんですよね」

 疑問に思ったことを口に出す二人。だが田島の険しい顔は変わらなかった。

「確かにそうだ。だが問題があったんだ」

「問題……?」

「なんなんですか? 問題って?」

「それは、もう校舎がないことだ」

「へ?」

「え?」

 田島の口から飛び出してきたのは既にわかりきったことだった。

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