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ハンバーグと卵焼き

 昨日同様、学食は混んでいた。昼休みが始まってしばらく経っていたので空いている席はほとんどなかった。

「この時間じゃ混んでるか。一人でよかったかもな」

 悠と一緒だったら席を二つ探さなければならなかったが一人ならばなんとかなりそうだ。

 湧哉は学食の列の最後尾に並ぶと今日のメニューを確認した。

「ハンバーグ定食と……卵焼き定食? ……これは一択だろ」

 大食いではない湧哉だが食べ盛りとしてはハンバーグ定食しか考えられなかった。

 列が進み自分の前になると湧哉はおばちゃんにメニューを伝える。

「ハンバーグ定食で」

「はいよー、ちょっと待っててねー」

 おばちゃんはいつも通りオーダーを調理人に伝えると次の人に声を掛けていた。

「このメニューで卵選ぶやつとかいるわけないだ―――」

「卵焼き定食ください」

 湧哉の発言を否定する言葉が後ろから聞こえた。

 ゆっくりこっそり背後に目を向けるとその女生徒と目が合った。眼鏡をかけたおとなしそうな顔は困った表情になるとしゅんとしてしまった。

 湧哉の言ったことを聞いていたのだろう。自分が否定されたようで悲しいのか悔しいのか、とにかく気は沈んでしまったようだ。

(き、気まずい……)

 列になっている都合上、女生徒は湧哉の後を付いてくる。早く距離を取りたかったが列を抜ければ昼食はおあずけになってしまうのでそれはできなかった。普段は料理ができるまであまり長くは感じないがこういう時は長く感じてしまう。

 やっと出ていた料理(実際には全く時間は経っていないが)を受け取ると湧哉は早足でその場を離れた。


 知らない人の隣にはあまり座りたがらない湧哉だが混み具合から仕方なく長机の中央でぽつりと空いていた席に腰を下ろした。食べ終わったらすぐに教室のもどって課題の続きをしなければならないのだ。

 左右それぞれに座っているグループは既に食べ終わっており、皿は空だった。それらのどの皿にもハンバーグのソースが付いている。

「やっぱり卵よりハンバーグだよな」

 一人で意味のない一体感に浸りながら手を合わせると食事の挨拶とともに箸を動かし始めた。

 ハンバーグを箸で割ると中から肉汁がにじみ出てきた。一口頬張るとそれが口の中に広がった。

 学食では短い時間で提供できるように手の込んだものは作らないはずだが、この味は手間がかかっている。もし手間がかからずにこの味を出しているならばぜひ教えてもらいたいものだ。

 湧哉はものすごい速さで食事を進めていた。周りが見えなくなるほど、空いていた目の前の席に誰かが腰かけたことにも気が付かないくらいだった。

「ッーーーー!!」

 あまりにも勢いよく食べ過ぎたのか湧哉は喉を詰まらせた。胸を叩きながらつっかえたものを流そうと水を探す。しかし定食を受け取ってから急いでそこから離れたものだから水を入れてくるのを忘れていたのだ。

 そのまま胸を叩き続けるがつっかえが取れる様子はない。

「あの、よかったこれ。私まだ口付けてないから―――」

「あ、ありがとう……!」

 苦しそうな湧哉を見かねてか、正面の席から水が差し出された。

「ゴクゴクッ!」

 水を受け取ると相手を確認もせずに一気に飲み干した。おかげで喉は開通し苦しさからは解放された。

「プハー! ありがとう、助かった」

 落ち着いた湧哉は正面の眼鏡をかけた女生徒に礼を述べた。そして机の上には卵焼き定食が。

「あ……」

「大丈夫そうでよかった。もっとよく噛んでから食べないと危ないよ」

 助けてくれた人物は先ほど湧哉の後ろに並んでいた女生徒だった。

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