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田島訪問

 悠はその後の休み時間も湧哉の下へやってきた。もちろん課題を手伝うためだ。手伝うと言っても悠が問題を解くわけではなく、湧哉のペンが止まった時にヒントを出していた。

 湧哉としては悠にもペンを持ってほしいのだが―――

『それじゃあどっちの課題かわからなくなっちゃうでしょ?』

―――とのことだった。ようは、自分の方が解くスピードが速いのだから、湧哉の方が量が少なくなってしまうだろうということだ。確かにそれではどちらが手伝っているのかわからなくなってしまう。

 悠は間違ったところを一つ一つ指摘してくるので湧哉の手が止まることが多かったが一人の時より進みは早かった。

 そんなわけで課題をやっていたわけだが、昼休み現在、二人は職員室を訪れていた。目的は校長補佐の田島に会うためだ。

「その田島先生に会うのに俺必要か?」

「手伝ってくれるって言ったじゃん」

「いや言ったけどさ……」

 できることなら教頭には会いたくない湧哉。昼の職員室ともなればほとんどの教員はここにいることだろう。教頭と会う可能性は高い。

「失礼しまーす」

 そんな湧哉の気も知らず、悠は職員室の戸を開けた。

 思った通り職員室には人が大勢いた。教員だけでなく生徒も何人かいる。

 悠は中に入ると田島の机を目指して歩き始めた。湧哉もそのあとに続く。

「田島先生ってあれか? 校長の机の隣の……」

「そうだよ」

 眼鏡の長身という特徴を聞かされていたので湧哉にもどの人物が田島かわかった。だが―――

(田島先生の反対側って教頭の机じゃねぇか!!)

 ―――先日デジカメを持ち出した机と校長のを挟んだ反対側に田島は座っていた。しかも教頭もしっかり席に座っている。

 机を一つ挟んでいるとはいえあまりにも近い位置だった。

(いや、教頭は俺に気付いてるわけじゃないんだ。大丈夫だ……!)

 自信はなかったがそう思うしかなかった。

 なるべく悠の陰に隠れるような形で前を通りすぎる。教頭は昼食中だったらしくこちらに顔を向けることはなかった。

「田島先生!」

 田島は呼ばれたことにか気が付くと読んでいた本を机に置き顔を上げた。

 奥崎の話通り開校時からいるのならば年齢は七十前後ということになる。白髪の混じった髪と顔のしわから、外見も年相応といった感じだ。年齢的には退職しているはずだが未だに教員として働くとは好きでなければできないことだろう。

「なにか私に用かな?」

「二年の門紅 悠です。クラスはFです。今回は旧校舎のことでお話ししたくて来ました」

「旧校舎のこと?」

「はい。田島先生が旧校舎のことで行政と何か連携しようしてると聞きまして。僕も旧校舎のことをこの学校のみんなに知ってもらいたいので文化祭で何かイベントができたらと思っているんです。参考にお話を聞けないかなと思いまして」

「そうか、旧校舎のことを……」

 田島は少し考え込むように一点を見つめていた。だが不意に視線を校長の机の方へ動かした。ほんの一瞬だったが湧哉はそれを見逃さなかった。

「文化祭となると申請も必要だろうから今すぐというのは難しいな。もし予定がなければ放課後にまたここに来てくれ」

「わかりました。それじゃあ放課後にまた伺います」

「待っているよ。後ろの君は別件か?」

 田島は目立たないようにおとなしくしていた湧哉に声を掛けた。自分に用事がある生徒と勘違いしたようだ。

「い、いえ。こいつの付き添いです」

「そうか」

「それじゃあ、失礼します」

「ああ、また後で」

 悠の挨拶に合わせて湧哉も軽く頭を下げた。そして、悠が動き出す前に教頭の机とは逆方向に歩き出した。悠もそのあとに続く。

 職員室から出ると湧哉は悠に向き直った。

「これ、俺いらなかっただろ」

「具体的な話になった時、一緒にいた方がいいかなと思ったんだよ。そうはならなかったからいなくてもよかったけどね」

「いや、後でお前から聞けばよかったじゃねーか」

「課題やってる時に話すよりはいいと思って」

 悠がいるといないでは課題の進み具合が違う。仮に今回、悠だけで来ていても課題の進み具合は大したことはなかっただろう。そのあと課題をやっている湧哉に説明する時も同じだ。

 悠の言っていることもわかるのだが結果的に自分が来る必要がなかったと思うと何か言わずにはいられなかったのだ。

 このまま続けてもあれやこれやと回避されることはわかっているので湧哉は職員室前の階段へ向かう。

「まあいいや、とりあえず飯にしようぜ。ここまで来たし学食でも―――」

「僕お弁当あるから教室帰るよ」

 悠の返事で足を止め再び悠へ向き直った。

「なんだよ。付き合い悪いぞ」

「ここから教室戻って学食行くなんて効率悪いよ。それに、最近付き合い悪いのはハタハタだったじゃん」

「……」

 確かにここ最近は昼食に付き合わないことが多かった。それを引っ張りだされると湧哉は何も言い返せなかった。

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