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文化祭でやりたいこと

 翌日、朝のホームルームで担任の井ノ瀬からクラスへ連絡があった。

「再来週の文化祭に向けて、そろそろ準備を始めないとね」

 井ノ瀬は小柄で髪にパーマをかけたおばさまだ。茶目っ気があり、なかなか愉快な先生だ。

「何かやるのであれば私も協力します。澤さん、みんなの意見を聞いておいてくれる?」

「わかりました。みんな、やりたいことが決まってる人がいたら帰りのホームルームまでに私に言ってね」

 答えたさわ 詠嘉えいかはクラス委員長だ。クラスの中心人物で誰にでも分け隔てなく接することや委員長の仕事もしっかりこなしているので生徒と教員、どちらからも信頼が厚い。

「それじゃあ、今日も一日頑張ってね。これでホームルームを終わります」

 井ノ瀬が告げると澤が号令をかけホームルームは終了した。


「文化祭かー。今年はどうしようか?」

 さっそく湧哉に話を振ってきたのは門白かどしろ ゆうだ。

「とりあえず去年やったやつは却下」

「そう? 私は楽しかったけど」

「僕もあれはやめてほしいな……」

 門紅かどべに ゆうも湧哉たちの席まで歩いてくると会話に加わった。その顔はげんなりとしている。

「男装女装カフェなんて……僕の人生でワーストスリーに入るよ」

「せっかく可愛かったのにー」

 それに対して結は残念といったふうだった。

「お前はビシッとスーツ着てれば違和感なかったけど、俺たちはヒラヒラのスカートだぞ……」

「あれは笑った笑った。卒業アルバムがほんとに楽しみ!」

 どうかその時の写真がアルバムに載らないようにと祈る湧哉と悠。必死にカメラの撮影を回避した思い出は今でも鮮明だ。

「でも、今年はそれはないだろうな。委員長が澤ならあんな地獄みたいなことにはならないだろ」

「確かに。澤ちゃんのOKはもらえなそう……」

 三人が澤の方に目を向けるとすでに何人か意見を伝えに集まっていた。澤はそれぞれの意見をノートに書き留めている。

「ハタハタ、あんたは何かやりたいことないの?」

「俺はないかなぁ。なんか決まったら手伝うけど」

「ハタハタはその前に課題を終わらせないとね」

「お前までそれを言うか……」

 どこに行っても付きまとう話題だった。やらなければならないが、量が多すぎて湧哉はどこから手を付けていいのかわからない。早めに誰かに助けを求めた方がいいだろう。

 気が沈む湧哉を無視して結は話しを進める。

「悠は? 何かないの?」

「僕は個人的に何かやってみようかなと思ってるんだ」

「お、もしかして 昨日のやつか?」

「うん」

「昨日のやつ?」

 結は首を傾げて疑問の表情を浮かべた。

「昨日はこいつに旧校舎の記念館に連れてってもらったんだ」

「悠、あんたまた行ったの?」

「ハタハタが行きたいって言ってくれたんだよ」

「まあいいけど。それで?」

「しばらくしたら奥崎先生が来たんだ。そしたらハタハタみたいに興味を持ってくれる人が出るかもしれないって話になって」

「それで、旧校舎のことを知ってもらう活動をしてみるんだとさ」

「あの奥崎先生がぁ?」

 結は目を細めて二人を見つめた。表情は疑問から戸惑いへと変わっていた。

「お前がそんな顔をしたくなるのもわかるけど実際そうだったんだよ」

「ハタハタが来てくれなかったら、こうはならなかったからね。改めてありがとうハタハタ」

「え、あ、ああ……」

 素直に感謝されるとやはり気恥ずかしい湧哉はそっぽを向いてしまった。

 ニコニコとする悠と相変わらず眉をしかめる結。名前が同じ二人の表情は全く正反対だ。

 三人がそれぞれの表情のままチャイムが鳴り響き、今日も授業の始まりを告げるのだった。 

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