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不安を乗り切るには前向きに―――

 奥崎に釘を刺された湧哉だったが記念館に来るのにわざわざ課題を持ってきているはずもなく、悠が持ってきたアルバムを開いた。悠は隣からそれを覗き込み、奥崎は仕事があるといっていたが湧哉の後ろからアルバムを覗き込んだ。

「このページは建てられた当初の写真だね」

 そう言って悠が指差したのは白黒の写真だった。校舎と一緒に写っているのはおそらく当時の教員だろう。ほとんどが四十代後半と言った感じだ。

「設立当初は全国からやり手の先生がたくさん集められたんだって」

「じゃあ昔から進学率は結構良かったんだな」

「ううん。当時は大学に進む人が少なかったからほとんどの生徒は就職したらしいよ。渡ヶ丘から大学に進学する人が増えたのはここ二十年弱ぐらいかな」

「へえー」

 今では渡ヶ丘は進学校として知られているが昔はそうではなかったらしい。時代の流れに合わせて形を変えてきたのだろう。その結果が新校舎でもあるように思える。

「この写真の真ん中の人が初代校長で前校長の大御門校長だよ」

「これが校長? なんていうか……若いな」

 悠が言ったその人物は写真の中では若い方だった。三十代半ばといったところだろうか。

「四十年以上前の写真だけどね。集められた人たちは大御門校長より一回り年上の人たちばかりだったし大変だったと思うよ。でもおかげでいい学校になったんだ。勉強とか進学とかそういうのだけじゃなくて地域の人たちからの慕われる学校になったんだよ」

「卒業生がこの辺に住んでるっているのはそういうわけか」

「みんなこの学校が好きだったんだけどね……。今じゃこんなになっちゃったけど」

 悠は窓から見える更地を見つめた。話をしている時は楽しそうだったが今は顔に影が差していた。

「お前も地元だから付き合いがあったのか?」

「うん。おにい……兄がここの生徒だったんだ。文化祭とかイベント事の時は一緒に回ってくれたんだ」

「思い出の場所がなくなるっていうのは寂しいもんだよな。俺も地元でよく遊んだ公園が無くなった時は思い出が壊されたみたいで嫌だったなぁ」

 暗い表情を変えようと話を振ったが悠の表情は変わらなかった。思い出に浸っているのか? それとも、もし校舎が残っていればと想像しているのか?

 悠にとって旧校舎がどれほどのものなのか、今この場にないということがどんな意味なのか。それは本人にしかわからない部分だ。湧哉が何を言っても旧校舎が元に戻るわけではない。悠にとっては数少ない弱い部分なのかもしれない。

「なくなってしまったことは仕方ない」

 後ろから覗き込むだけだった奥崎が口を開いた。

「だが、ここには確かに旧校舎があったことを証明するものがある。ここがある限り忘れられたりはしないだろうさ」

「本当に……そうでしょうか……?」

 悠の返答は不安そうだったが奥崎はそれに堂々と答えた。

「ここにいる畑原が興味を持ってくれたじゃないか。これから忘れられていくだけじゃない。新しく興味を持ってくれる人もいるはずだ。お前が忘れられたくないと思うなら自分で広めてみるといい。門紅なら難しい事じゃないだろ?」

 奥崎と悠の視線が湧哉に向けられる。

 悠は始めはキョトンとしていたがにっこり笑った。

「そうですね。もしかしたらハタハタみたいに興味を持ってくれる人がいるかもしれないですもんね。そしたら……」

 悠はその先の言葉を飲み込むと再び窓の外を眺めた。先ほどと違い柔らかい表情をしている。

「お前も少しは役に立つじゃないか」

 悠に聞こえないよう奥崎は小さな声で囁いた。

「別に、俺は……何も」

 少々照れくさい湧哉だったが役に立ったと言われて悪い気はしなかった。どうしたらいいのかわからずアルバムをペラペラとめくりだした。

 写真は少しづつカラーになっていった。生徒たちが写っている写真もある。どの生徒も笑っている。そんな彼らが過ごした場所はもうない。実際に生活していた様を見せられると、その上に成り立っている校舎で生活していることが湧哉は少し申し訳なかった。  

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