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憧れの人の釘差し

 湧哉は振り返ったまま固まっていた。何かしゃべろうとはするのだが何を話していいのかわからなかった。

 奥崎も何もしゃべらないがやはり戸惑った様子はない。湧哉の返事を待っているのだ。

「えーっと―――」

 少しばかり頭の整理ができてきた湧哉が話し出した。しかし、ちょうどそこに悠が戻ってきた。

「あ、奥崎先生!」

「門紅か。また来たのか」

「はい。今日はハタハタがここを見たいって言ってたので連れてきたんです」

「ほーう」

「なんですかその疑いに満ちた目は……」

 湧哉を見下ろす奥崎の視線は実に冷たい。まるで虫けらを見るような目だ。

「畑原がここに興味を持つなんて信じられないな」

「確かにハタハタは僕たちと思考が違うし、何考えてるかわからないし、最近は付き合い悪いときもあるし、今日なんか奥崎先生の授業の課題やってなかったし―――」

「お、おまえそれを言うか!!」

「いい度胸だな、畑原」

「―――でも、この旧校舎のこと知りたいって言ってくれたんです」

「……」

「……」

 悠は散々言った後、肝心な部分を口にした。

「まあ、門紅が言うなら本当なんだろうな」

「はい、本当ですよ」

 奥崎は悠の口から出たというだけで湧哉が旧校舎に興味を持ったことに納得したようだ。だが―――

「だが課題をやっていなかったことは許さん。罰として畑原の今回と次回の課題は二倍にする」

「か、勘弁してくださいよー!!」

「頑張ってねハタハター」

―――課題をやっていないこともわかってしまったためあっという間に課題地獄に陥った。元々今回の課題をやる気がなかった湧哉だが、いざ宣告されると気がめいった。

「それとこれが旧校舎の乗ってるアルバムだよ」

 悠は悪びれる様子もなく一冊のアルバムを机の上に置いた。黒い表紙のそれはまだ最近から使われだしたのかまだ新しい。

「なんか真新しいアルバムだな」

「当たり前だ。旧校舎が取り壊されたのはまだ二年前だぞ」

「いや、なんかすごい古い校舎だから資料とかも古本みたいな感じなのかと」

「写真は古いものもあるが基本的には取り壊されることが決まったから撮られたんだ。そんなに古いものは大してない」

「ってことは古いものもなくはないってことですよね?」

「古い生徒名簿なんかはまだ残ってる。といっても今はそれらのデジタル化をしているからそれがなくなれば不必要だが」

「名簿ってめっちゃ個人情報じゃないですか。そんなもん取っといて大丈夫なんですか?」

「特別な理由がなければそれは見れないようになってるんだよ。僕も見たことないし。卒業生同士が連絡を取り合いたいときとかに使ったりするらしいよ」

「フーン、そうなのか……。ってなんでお前そこまで知ってるんだ?」

「奥崎先生に聞いたんだ。ここでよく会ってたから」

「よく会ってたって……お前らそう言う関係……?」

「え!? ち、違うよ!? そそそそんなことあるわけないですねぇ!!?」

「ああ、そうだな」

 二人の反応はわかりやすいものだ。

 自分で否定しながらも奥崎に否定されると少し顔を伏せた悠はチラチラと奥崎を見ていた。

 一方の奥崎はといえば本当に何もないのだろう。表情一つ変えない。そもそもそんなに変化はないのだが……。

 このままでは空気が重いので話をもとに戻すことにした。

「よく会ってたってことは奥崎先生もここでなんかやってたんですかね?」

「私はここの管理を任されたんだ。さっき言った名簿のデジタル化や掃除なんかをやってる」

「それこれからやるんですか?」

「ああそうだ。全くなんで私がこんなことをしなきゃならないのか」

「結構大変そうですね。授業とかもあるのに」

「まあな。でもなあ、畑原―――」

 奥崎は少し悲しそうな顔をするとこう続けた。

「―――限られた時間で仕事をこなす。それが大人というものだ」

「な、なるほど。勉強になります」

 なぜ悲しい顔をするのかわからなかった湧哉は適当な言葉でそれに答えるしかなかったのだが―――

「よし、それじゃあ大人になるために期限以内に課題を終わらせろ」

―――すぐに元に戻った表情で奥崎は湧哉にしっかりと釘を刺した。


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