悠の挑発
「……」
悠が何の遠慮もなく言葉をぶつけたことに湧哉は固まってしまった。岩木の態度はは湧哉も同じだったが、直接口にする勇気はなかった。
「なんだと?」
「言葉の通りですけど。嫌がる後輩を連れてボス気取りなんてかっこ悪いです」
悠が指摘したことに岩木に付いてきた生徒たちは肩を震わせた。無理やり付き合わされているというのは一目瞭然だったが、岩木の前でそう指摘されれば戸惑いもするだろう。一方の岩木は後ろを見ることもなくただ悠を睨み付けていた。
「先輩相手に随分と言ってくれるじゃねえか」
「言いたいことがあるなら言えっとおっしゃったので。 何か問題あります?」
「俺の事、なめてんのか?」
岩木の機嫌はすこぶる悪い。悠ならば口論で言い負かすことは朝飯前だろうが、相手が最後までそれに付き合ってくれるとは限らない。岩木は特に付き合わないタイプだろう。これではいつ拳が飛んでくるかわからない
「門紅、もういいって」
「大丈夫。こんなところで手を出すのは後先考えられない人だけだろうし。ねえ、そうでしょ先輩?」
湧哉が止めようとしても悠は全くいうことを聞かない。それどころか更に岩木を煽り始めた。湧哉は冷汗が止まらない。会見があったことで色々面倒が増えることはわかっていたが、まさかこんなにすぐ、しかも暴力沙汰に発展しかねないことになるとは思っていなかった。そんな湧哉をよそに悠は無表情で岩木の顔を見ながら返事を待っている。
「……そうだな。確かに、こんなところで暴れたらまずいよなあ」
「……いえぇ?」
思わず変な声が出てしまった。岩木の返答は落ち着いたものだった。前回のことを考えると暴れ出しても不思議ではなかった。岩木を止めた阿良田の姿も周りにはない。この落ち着いた表情が湧哉の不安を逆に誘った。
「おい、行くぞ」
「え、は、はい!」
岩木の掛け声に後ろの後輩たちも驚いたようだったが、岩木が動き出すとそれに続いた。そしてすれ違い際、岩木はボソッと言葉を残していった。
「このまま済むと思うな」
それだけ言うと岩木は階段へ向かって行った。湧哉たちはその姿を目で追ったが、岩木たちがこちらを振り返ることはなかった。
「大丈夫かな? 今のって『覚えてろよ』ってことだよね?」
「悠、今のはちょっとやばかったって。あれって確か岩木先輩だよ? あいつはやばいから関わらないほうがいいって私の先輩も言ってたぐらいだし……」
「だからってあんな言われ方されたら僕だって腹が立つよ。相手がやるなら僕だってそれに答えるだけの準備はする」
「暴力沙汰になったらどうするつもりなんだよ。お前じゃ百パー勝ち目ないだろ?」
「もしそうなったらあの人にはしかるべき罰が下ることになるから。そうすればこっちの勝ちだよ」
悠もそれだけ言うと購買へと向かってしまった。悠は穏やかに見えて意外と棘のあるところがある。自分または周りが被害に合うと加害者には容赦しない。もちろん暴力も振るわないし、陰湿な嫌がらせをするということもないが、真正面から相手を否定したりする。今までも幾度かそんな様子を見てきたが今回ほどハラハラしたことはなかった。
「門紅くん大丈夫だよね?」
「そうだといいんだけどな……」
これはしばらく、自分だけでなく悠の周りにも気を配る必要があるのかもしれない




