現れるのはやはり―
放課後、湧哉と悠は旧校舎の記念館を目指していた。
学校を出発してしばらくは整備された道を進んでいた。だが周りは古い民家が多かった。駅周辺は開発が進み大きなショッピングモールもできたが少し離れるとまだこの町が開発途中だと実感させられた。
そして二人は今、その整備された道から外れ、林の中を進んでいた。
「ぜえ……ぜえ……」
「ハタハタ~、早くしないと日が暮れちゃうよー」
膝に手をついた湧哉の先では悠が自転車にまたがってこちらを振り返っている。
「おま、お前のペースに合わせるのは、無理だろ」
歩いて行けなくもないとは言葉通りで、普通に歩いていたら日が暮れてしまうだろう。自転車に乗っている悠のペースならばそうはならないだろうがそれに合わせる湧哉は走り続けなければならなかった。
「じゃあ先に行ってるよ。このまま進めば見えてくるから」
「ま、待てってぇ」
走ったり歩いたり、それを繰り返して湧哉はやっとのことでたどり着いた。
林の一角が切り開かれた更地は中に人が入らないように杭が打たれ、ロープで周りが囲われていた。校舎が建っていたというだけあって広い土地だ。空を遮る木々はなく日が傾きだした空がよく見える。
そこから少し離れたところに記念館はあった。その前では悠が待っている。
「ハタハタ遅いよー」
悠はやれやれといった風に手を上げるが湧哉はそれには反応しなかった。
三階建ての木造づくり。その建物は見ただけで古いことが分かる。だがずっしりと構えた建物はどこか品があった。
「じゃあ、中に入ろうか」
「そうだな」
悠に促されて屋内に足を運ぶ。
入口は元々昇降口として使われていたのだろう。壁際には仕切られた下駄箱が設置されていた。そこに靴を入れると出されているスリッパを履いた。
「ここまで来るのもそうだったけど、敷地のこんな端の方に昇降口って不便だな」
「ここは職員用の出入り口だったんだ。ここの上の階に職員室があるんだよ」
「あ、そうなのか。他に何が残ってるんだ?」
「他には使われてた教室かな。職員室に写真とかの資料が置かれてるんだ」
「それじゃあ職員室の方から行こう」
「おっけー」
二人は正面にある階段を上った。階段は登ると少し軋んだ音を出したが二人の重さをしっかりと支えていた。
二階正面に職員室はあった。建物の広さ的に二階には職員室しかないようだ。
悠が扉を開けそれに続いて湧哉も中へ入る。
「おいおいスゲー量だな……」
中はまるで図書館のようだった。大量の本が詰め込まれた本棚が規則的に並んでいる。端のほうには真新しい机と椅子もあった。
「今日中に全部は見きれないな……」
「無理だと思うよー。僕だって全部見るのに毎日通って二ヶ月ぐらいかかったからね」
「さすがに毎日は辛いぞ」
「まあそうだろうね。でも僕が覚えてるから知りたいことがあったら言ってよ」
「じゃあとりあえず校舎の写真を見せてくれ」
「はいはーい。持ってくるから座ってって」
言われた通り椅子に腰かけた。
気になっていたことはあったがこれだけ大量の資料があるとそこから探すのは骨が折れる。悠に聞くのが早いのだろうが勘が良過ぎる彼に聞くのは憚られた。
(まあ、そこまで気にすることでもないか。別に知らなきゃいけないってわけでもないしな―)
「こんなところで何してる」
突然後ろから掛けられた声に背筋が凍った。威圧するようなこの声には聞き覚えがあった。だがこんなタイミングがあるだろうか?
恐る恐る振り返るとそこには黒いパンツスーツに白いワイシャツ、肩までの黒い髪。
扉の前に立っているのは紛れもなく奥崎その人だった。